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【CHC】うちの「左キラー」は右投手ですけど、何か?
※おことわり
一部データが4月22日のLAD戦を反映されていないものがあります。ご了承ください。決して作り直すのが面倒だったとかそういうわけではありません、アハハハハハ(執筆者失格)。
お疲れ様です、イサシキです。
今回は選手分析編。苦労に苦労を重ねたある選手がリリーバーとして覚醒の時を迎えようとしている選手をピックアップさせていただきます。
その名はMark Leiter Jr.
「…えーと、どちら様でしょうか…?」と思ったそこのあなた、大丈夫です。この選手の従弟が21年MLBドラフト全体2位でTEXから指名されたあのJack Leiterだと言えば恐れ戦くでしょう!
なんて話はさておき、このLeiter.Jr。実は今季特色のある指標があります。
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そう、右投手であるにも関わらず左打者との対戦が多く、しかも6イニングで11個もの三振を奪っているのです。当然の如く失点もありません。
しかも三振に打ちとっているのはMax MuncyやFreddie Freemanといった一流の打者はもちろん、新進気鋭のGarrett MitchellやBrice Turangからも同様に奪う無双っぷりを披露しています。
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ところが投げているボールそのものは、MLBの平均球速にも及ばない90MPH前後のファストボール(MLBワースト10%入り)と85MPH程度の沈むボール。そこに平凡なカッターとカーブというごくごくどこにでもいそうな投手に見えます。
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「あ、じゃあこれだ、スピンレートでしょ!ボールの質で相手を抑えている的な!」と思いましたが、これも今季MLBで登板した投手の中ではワースト5%に入るような回転数の低さでした。これでもフォーシームのスピンレートは昨年より100近く上がっているんですよ?
では一体何が彼を左キラーたるリリーバーに変貌させたのか。
その理由を探ってみましょう。
カギを握るはスプリット
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上記は今季のピッチアーセナルと投球コースになります。
昨季まではフォーシーム、シンカー、スプリットの3球種をバランスよく投げて投球の約67%を占めていましたが、今季は22.6%と多投していたフォーシームの割合を12.3%まで下げ、シンカーとスプリットの割合をそれぞれ約10%ほど引き上げています。
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そしてとっ散らかっていた昨季のコマンドに比べると、今季はスプリットをローあるいは膝下に、シンカーをよりハイボールに集めているのがわかります。特にシンカーに至っては右打者のインハイないしは左打者のアウトハイで出し入れが出来ているほどのコマンド能力です。
上記の動画ではMuncy、Freeman、James Outmanとすべて左打者から三振を奪ったスプリットが閲覧できますが、決して落差のあるボールでもなく、ゾーンからゾーンへと落ちていく程度の変化量であることがわかると思います。ただこの落差はちょうど低めギリギリもしくはゾーンの隅に投じられているものなので、相手打者もそう簡単に打ち返せるボールではありません。
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Here's Mark Leiter Jr.'s strikeout to end the 7th inning and strand a runner on second.
— Andy Martínez (@amartinez_11) April 19, 2023
More: https://t.co/2bXHZcKoFx pic.twitter.com/bf7GZASBDC
また、時に左打者から逃げるようにして水平方向に10インチ以上の変化をつけながら落ちるというのも左打者にとってみれば厄介かもしれません。言ってみれば上原浩治が投げ分けていたフォークのようにも見えたり見えなかったり…。
このスプリットのWhiff%は59.3%でK%は63.2%と驚異的な奪三振性能を持つボールとなっています。
実はもう1つLeiter.Jrの投球には癖があり、左打者に対してのスプリットが34.9%と全球種中最も高い割合になっており、右打者に対してはシンカーが48.2%と約2球に1球ペースになっています。
昨季も50%近い空振り率を記録していたこのスプリットを軸に据えて投球を組み立てることそのものは理にかなっていると思いますし、リリーフ転向の観点から見ても三振を狙うピッチングができれば引き出しも増える、まさにLeiter.Jrを象徴する球種となり始めているのではないでしょうか。
ということで、Leiter.Jrは左打者に対するスプリットの多投が1つの武器となっている可能性があります。
このスプリットに関する誕生秘話やプレーヤーから見た分析などをまとめた記事が出ているので、ぜひご一読ください。なかなか興味深いものでした。
スプリットが変幻自在に曲がっている?
想像の域は出ませんが、ここからはボールの回転方向から、Leiter.Jrがどうやってこのスプリットを生み出しているのかを分析していきます。
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Leiter.Jrのスプリットはリリースされたときに1:45の方向に回転している(左側)ことがわかりますが、予想された回転方向(右側)には2:15と出ており、実際のスプリットよりもシュート成分を多く含んでいる可能性が高いことがわかります。これなら10インチ以上の横変化をしながら落ちる理由としての説得力が上がりますね。
さらにもう1つ、Leiter.Jrのスプリットの回転方向が約2時間分の間でかなり散らかっていることも飛躍の要因ではないかと思っています。これはあくまでも回転方向の予想という観点からですが、横成分の強さを高めて落とすのであればボールをシュート回転させるのが一般論だと思います。しかし意図的にやっているかどうかはわかりませんが、これだけ横回転の幅がブレると垂直方向への変化量とも合わせてボールがミットに収まるまでの軌道が非常に読みにくいということになります。
それはつまりバットをボールの軌道に入れることを困難にさせるということ。捉えたはずのボールが空振りになったりグラウンダーあるいはフライになるなんて現象も今季は非常に多いので、Leiter.Jrのスプリットにはそんな予測困難な軌道を持つという特性があるとみてほぼ間違いないでしょう。
それでもまだ諸刃の剣
これまではこのスプリッターの秘密っぽいものを紹介してきましたが、ここからは課題ともいえる部分を紹介していきます。
Muncy flex. pic.twitter.com/lHrjH5aMWY
— Los Angeles Dodgers (@Dodgers) April 22, 2023
1つ目は左打者のインコースから入るとゾーン管理が甘くなって打球を捉えられてしまうということです。
上記のピッチアーセナルでスプリットが左打者のアウトローよりもさらに低いところに制球されているのを覚えている方も多いかもしれませんが、よく見返してみてください。実はゾーン内の真ん中~真ん中低めにも濃く赤い部分が存在していると思います。
スプリットが落ち切らない、または上記のように必要以上に真ん中へと入ってきてしまうと痛打されてしまうのは落ちる系の球種あるあるで、案の定Leiter.JrのHardhit%は75%、Barrel%も50%と例に漏れない打球を放たれていることがわかります。
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もう1つは打者視点での見極めが比較的安易にしやすいことでしょうか。
今季のスプリットはVertical(垂直)方向への変化もHorizontal(水平)方向への変化も実はMLB平均以下で、横方向への変化量は大きく平均を下回っているという状況です。
そう、このスプリッターは横に10インチ曲がるとは言いましたが、常にそんなに曲がるなんて一言も言ってません(ずるい)。
簡単に言えば縦横への変化量が少なければ打者が見極めやすいのも事実。特に敵地ロサンゼルスでのLAD3連戦ではどんどん膝元に落ちるスプリットを振ってくれていましたが、約1週間後ホームに帰ってきて迎えたLAD4連戦の3戦目で登板した際、先頭打者のFreemanが2球目のスプリッターを平然と見逃し、次のカッターをライト前に運ぶと、続くMuncyにも3球目から3連続でスプリットを連投させたものの、最後の甘く入ったボールをスタンドに運ばれる結果に。その後Jason HeywardとOutmanの左打者と対戦する機会がありましたが、何かを察したのか両者に対して1球たりともスプリットを投げませんでした(Outmanは初球打ち)。
FreemanやMuncyはロサンゼルスの対戦カードの時には両者共に三振に切っていたことから、1度見ればある程度対応のできるボールなのではないかとも捉えることができそうです。
確固たる「左キラー」への道へ
まだ4月ですが、ブルペン事情の苦しいカブスにとっては非常に頼もしい存在となりました。
元からカブスは左腕リリーバーに苦労しており、唯一計算のできるBrandon Hughesが開幕からIL入り(現在は復帰)していたことも相まって対左要員としての白羽の矢が立ったLeiter.Jr。
このスプリットを武器にして今季を戦い抜くのか、それともコマンド能力の高いシンカーでSSWを得ながら新たな武器としていくのか…。
これからのLeiter.Jrに活躍にも注目したいところです。