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ジャークを伸ばすTips

 みなさんこんにちは。ケトルベルリフターの渡辺陽介です。ケトルベルスポーツのジャークって難しいですよね。「一回挙げるだけでも大変なのにそれを10分間も続けるの?」「ロングサイクルと違って腕を下に伸ばせないから難しい」「ラックポジションって大変!」と誰でも思います。しかしジャークが出来るってなんか上級者っぽくてかっこいいですよね!今回はケトルベルスポーツのジャークを伸ばすためのTipsを11個シェアしたいと思います!



1 チョークを使おう!

 ロングサイクルやスナッチだけでなく、ジャークでもチョークは必要です。もちろんジャーク時のチョークの重要性はロングサイクルやスナッチの時ほど高くはありません。しかし一見握力が必要なさそうに見えるジャークでも握力は非常に疲労します。そのためジャーク競技においても握力の持続は非常に重要であり、そのためチョークも必要になります。またチョークを使用することで握力の持続だけでなく、バンプやドロップ、フィクセイション時のケトルベルのブレを最低限に抑えることができて疲労の軽減に役立ちます。チョークをつける箇所はケトルベルのハンドルと、ケトルベルのハンドルに触れる部分つまり手のひらや手首の付け根に少量のチョークを着けるのが一般的ですが、なかには前腕部分全体につける人や、ラックポジション時に肘と身体が触れる部分、つまりTシャツと肘にチョークを着ける選手もいます。

世界チャンピオンのセルゲイ・リュビンスキもジャークの際にチョークを使用しています。
少し分かりづらいですがワールドレコードホルダーのデニスは前腕全体にチョークをつけます。

2 トレーニングギアを使おう!

 トレーニングギアは重要です。ジャークの時は衣服は綿のTシャツが好まれてます。そしてシューズはウェイトリフティング用のカカトが少し高くなっているもの、そしてウェイトトレーニング用のベルトが好まれています。ベルトはナイロンベルトではなく革製のベルトで、そして幅が太いものよりも、やや細身のベルトが好まれています。

ベルトの上に肘を乗せることで疲労を抑えています。
リーボック社製のリフティングシューズは大人気!

3 Tシャツを水で濡らす!

 ロングサイクルやジャークを行う際に、Tシャツのラックポジションの時に肘が触れる部分水で濡らすことで、その部分の摩擦が強くなりラックポジションの時に肘が滑りづらくなります。摩擦が弱いと肘が滑りやすくなりラックポジションが安定しなくなります。そのため着用するシャツも、水に濡らすことで摩擦が強くなる素材の物が好まれます。具体的には綿のTシャツが好まれ、ポリエステル地の物は推奨されません。


4 重さにこだわらない!

 始めたばかりの頃から50回も100回もジャークは出来ません。まず10回出来るようになったら次は15回、それも出来るようになったら次は20回、と漸増的に負荷を増やします。けれど、「SNSで見かけるチャンピオン達は何百回もやっているのに、、、もっと回数増やさないといけないのではないか。」と思うかもしれません。しかしそのチャンピオン達も血の滲むような努力が前提にあります。フルマラソンの完走を目標に今日からマラソンを始めた人がいきなり10km走ったりはしませんよね。まずは500mから、次は1km、と段階的に負荷を上げると思います。野球だって素振りやキャッチボールから始めると思います。
しかしSNSにたくさんいる素晴らしいアスリートのパフォーマンスを見てそれをすぐ真似したくなるものです。これは何もケトルベルスポーツだけに言えることという訳ではありません。ジムを見渡すと、見栄のせいかそれとも結果を急ぎすぎているのかあまり綺麗とは言えないフォームで無理をして100kgのバーベルを担いでスクワットをしたり可動域を狭めて100kgのベンチプレスをしている人をたくさん見かけます。ジムに通ったことがある人なら一度は見たことがあるくらい良くあるありふれた光景だと思います。これの是非については皆さんいろんな意見があることとは思いますが、少なくともおそらくみんな「そんな無理しなくていいのに」とか「もっと軽くした方がいいんじゃない」とかぐらいは心のどこかで一度は思ったことがあると思います。笑 しかし本当にその通りで、どんなスポーツにも共通して言えますが、いきなりトップアスリートと同じことが出来るわけがありません。千里の道も一歩からです。とは言え、やっぱり見栄をはりたくなる気持ちも結果を急ぐ気持ちも理解できます。私も実はそうでした。12kgのロングサイクルですら10分に届かないのに、どんどん重たいケトルベルを買い足して高重量でトレーニングをしていました。高重量でトレーニングすれば記録が伸びると思っていたのです。もちろんそれは全てが間違いという訳ではありませんが、高重量でトレーニングして効果があるのは基礎がしっかりと出来ている人だけです。基礎をしっかりと作れていないのに高負荷のトレーニングを行うのはリターンよりも怪我のリスクの方が高いので避けるべきです。私はその後トレーニングの方法を変えて軽重量のトレーニングを徹底して行いました。私の人生初の競技会は2015年16kgのロングサイクルに出場する予定でしたが、12kgでトレーニングをすることが一番多かったです。16kgでトレーニングをしても重たすぎてろくにトレーニング量を確保出来なかったからです。できても3〜4分くらいのセットを1セット出来るか出来ないかという具合です。12kgの場合は4分と3分のセットを1セットずつ、という感じで16kgの時よりもトレーニング量を確保することが出来ました。それならば12kgでトレーニングした方がトレーニング効果が高いだろうと思い、大会で使用する重量よりも軽い重量でトレーニングを行っていました。ロングサイクルは12kgでトレーニングをしていましたが、スナッチの場合は8kgでトレーニングをしていました。とにかくスナッチが苦手で苦手で、16kgが10回できるようになったからじゃあ次は20回、と思ってトレーニングいくらしても一向に出来るようにならないのです。それならばと12kgでと思ってもやっぱり回数が増えません。見栄を捨てて8kgで、とにかく回数にこだわってトレーニングをするようにしてから漸く回数が増えるようになりました。ケトルベルリフターはボディビルダーではありませんので、高重量10回のようなトレーニングは必要ありません。軽くてもいいのでたくさん回数をこなさなくてはなりません。実際の競技も挙上するケトルベルの重さを競っているわけではなく、挙上する回数を競っています。とにかく重さにこだわらないようにしましょう。

世界大会のアップ場の風景。世界大会で使用されるケトルベルは全て新品の物を使用する。アップ場のケトルベルは既存の物を使用することが多いが、ソウルで開催された世界大会で使用する全てのケトルベルは新品!どれもピッカピカ!

5 ペースを速くしすぎない

 ジャークで素晴らしい結果を残すためにペース配分は大切です。しかし世界チャンピオンになるような人のジャークを見ていると10分で150回やる人も珍しくありません。これが適正なペースなのかと思い真似してやると1分ももたずに撃沈、なんてことはよくあることかと思います。世界チャンピオン達の記録は年々更新を続けており、かの95kg超級のバイアスロンチャンピオンのイワン・マルコフはついに180回を記録アンタッチャブルレコードを達成しました。しかしこのようなリフティングを初心者が真似するのは本当に禁物です。いきなりこのようなペース配分で10分間もジャークし続けるなんて無謀なのでペースを抑えるようにしましょう。もしロングサイクルの経験がある方なら、ロングサイクルと同じペース、もしくはそれよりもほんの少し早いペースで十分です。たとえばロングサイクルを10分で50回行ったことがある方ならジャークは50~60回くらいを目標にします。1分あたり5、6回のペースです。一度ジャークしたら10秒ほどラックポジションで休み、またジャークをする。これの繰り返しです。世界チャンピオンのリフティングと比較してみるとかなりゆっくりのんびりに見えますがこれで本当に十分なのです。世界チャンピオン達もまたこれくらいのペースから始めて何年何十年と練習と大会参加を繰り返しあそこまで素晴らしいパフォーマンスを発揮できるに至ったのです。まずは10分できるペース配分を見つけてからそこから徐々に練習を重ねペースを速めていけば良いのです。

選手によって最適なペースは様々!自分と向き合い、その時の自分のポテンシャルを全力で引き出して競います。本当の対戦相手は自分自身!

6 ラックポジションを練習しよう

 ラックポジションはジャークを伸ばす上で最重要とも言える部分です。この時が唯一、上腕三頭筋や三角筋を休めることのできる時間とも言えます。ラックポジション無しではどんなアスリートも10分ジャークし続けることは出来ません。しかしケトルベルスポーツを一度でもやったことある人なら「ラックポジションの姿勢が辛すぎる!」「この姿勢で休めるとか嘘でしょ!」と思ったことがあると思います。ラックポジションの姿勢ってめちゃくちゃ辛いですよね。休めると言っていますがみんなが想像しているような「休めば休むほど回復していく」というものではなく、「次の一回分くらいなら回復はするけどそれ以上回復することはなく、それを超えてラックポジションを続けているとジワジワと体力が削られていく」というものだと思ってください。しかしそれでもラックポジションで休みながら間欠的に挙上し続けることが大切なのです。小見出しの通り、ラックポジションの練習が必要なのですが具体的にどのような練習をすれば良いのか。なにも「よし!今日はラックポジションだけを3分続けてみよう!」といったようなことではありません。普段のトレーニングからラックポジションの意識を落とし込むことが大切なのです。そのために大事なことですが、たとえばジャークの3分セットで20回を目標にトレーニングを開始したとします。しかし予想よりも早くこなすことができて2分30秒で20回できたとします。そしたらそこで終わりではなく、タイマーが鳴る残り30秒までジャークを続けてください。このように「1回でも多く」「1秒でも長く」続けるように毎回意識してトレーニングをする。その意識がラックポジションを向上させます。
けれど、タイマーが鳴る前にケトルベルを置いてしまったとしても落ち込む必要はありません。ラックポジションも他の技術と同様にいきなりできるようになるわけではありません。トップアスリートのラックポジションを見るととても簡単にやってるように見えますが、彼らもまたラックポジションを上達させるために数々のトレーニングやストレッチをたくさん行っています。

骨格や体型によって最適なラックポジションは様々!でも最終的に共通することはつらくてもとにかくガマン!

7 ドロップを練習しよう!

 ドロップ(ケトルベルを降ろす瞬間)もラックポジションと同じくらいに重要です!ジャークを練習する時にバンプ(挙上時)ばかりを練習して一向にドロップを気にしない方もいますが、ドロップも同じくらい大事です。ジャークの競技では何十回と繰り返しとケトルベルを挙上します。それと同じ回数だけケトルベルを降ろす数も増えます。この時にできる限り余計な力を抜いて体力の消耗を防ぐ必要があります。ただ力を抜いてケトルベルを降ろすだけ、これが意外なほど難しくラックポジションに真っ直ぐ無駄なく降ろすようにしても、軌道が逸れてしまいケトルベルを落としてしまいそうになったり、本来のラックポジションからは著しく異なる姿勢となってしまったりすることがあります。これらを矯正することでよりジャークの成績を伸ばす可能性があります。


8 普段の練習も大会と同じように!

 普段の練習から大会の時と同じようにトレーニングをする。非常に当たり前のことのように聞こえますが、言うは易く行うは難しかと思います。大会の日はみんな気をつけて前日から栄養があって身体に良いものを食べたり、しっかりと睡眠を取って、ということはすると思いますが、普段の練習はと言えば忙しい合間を縫ってトレーニングをしたりするものかと思います。例えば睡眠時間が普段より短くなっていたり、直前の食事がカップ麺であったり、運動する時間帯もいつもと違って夜遅くになってしまっていたり、いろいろな要因からなかなかコンディションを一定に保つことは難しいです。これらももし可能であるなら出来る限り一定に保ちたいところですが現実難しいという人もいるでしょう。ただ例えばトレーニングする時のギア等は大会の時と同じ物に統一するべきでしょう。トレーニングする人の中には忙しいがあまり、トレーニングに適さない服装や、サンダルのような靴を履いて行う人もいます。これはさすがに避けるべきです。競技会で着用する予定のトレーニングギアとシューズを着用してトレーニングをするべきです。プロ野球選手だって試合の当日にいきなり普段の練習で使わないグラブやバットを使ってプレイするのとはありません。ケトルベルスポーツリフターも同様です。大会にあわせて、わざわざ高価な新しいシューズやベルトを手に入れる必要はありません。大会の時に必要なものは普段のトレーニングの時に着用しているトレーニングギアとシューズです。
 また大会の時にだけチョークを使用して普段のトレーニングではチョークを一切使わない人もいますがこれも避けるべきです。チョークも使えば誰でも記録が伸びる魔法のアイテムというわけではなく技術の一つです。大会でいきなりやろうとしない方が良いです。私は2015年の初のケトルベルスポーツの競技会でこの失敗をしました。普段チョークを使わないのに記録を伸ばしたい一心で大会でぶっつけでチョークを使用して競技をしたのです。競技終了後、慣れないケトルベルと手のひらの摩擦に手のひらの皮はすっかり負けてしまい、出血してしまいました。手のひらの皮が剥けてしまうのは、「頑張ったあかし」とかではなく技術不足です。手のひらの皮が剥けないような技術とチョーク技術を習得しなければいけません。

2015年競技会後に筆者の手のひら。写真ではあまり痛そうには見えませんが出血もしていましたし、シャワーの時は地獄のような痛みでした。笑

9 トレーニングを記録しよう!

 トレーニング記録は大事です。たとえばパワーリフティングやウェイトリフティングはバーベルに付け足されるウェイトが増えたり、同じ重さでも反復できる回数が増えたりすることで記録の向上がわかるので成長が測定しやすいと言えます。反面ケトルベルスポーツは常に同じ重量で競技をするので成長が測定しにくいと言えます。「あれ?12kgのスナッチって自己記録って何回だっけな?」「ジャーク何回だっけな?」なんてことすごくあります。これでは次の目標設定もそれに向けたトレーニングの強度設定も出来ません。トレーニング記録をつけることで、トレーニングのマンネリ化を防いだり、漸増的過負荷のトレーニングが確実に行えるようになると思います。

世界大会ジャークプロクラスのアップ風景。この時間帯アップ場はケトルベルスポーツ強豪国のロシア、カザフスタンの選手で埋め尽くされる。

10 回数にこだわろう!

 トレーニングをする際に例えば5分セットをする場合、ただ5分をこなすことばかりが目標になってしまい、回数へのこだわりがなくなってしまうことがあります。しかしケトルベルスポーツはリフティングした時間を競っているのではなく、あくまで「回数」を競っています。あらかじめ決めた時間をこなした時確かに達成感はあります。しかし例えば競技会において、9分で55回ロングサイクルを行った人と、10分フルタイムでやり抜き50回ロングサイクルを行った人を比較すると、後者の方が達成感を感じているかもしれませんが、記録は前者の方が高いです。もちろん普段のトレーニングで時間にこだわってトレーニングすることも大切なのですが、それだけになってしまわないようにしましょう。


11  あとはひたすらジャーク!!

 ジャークを伸ばすために一番必要なのは、補強トレーニングをしたりとかストレッチをしたりとかランニングをしたりとかではなく、しっかりとジャークをやり込むことです。「ジャークのロングセットがいつまで経っても上達しない。だから補強トレーニングを頑張る。」という方をよく見かけますが、ジャークのロングセットを上達させたいならジャークのロングセットにトライしなければいけません。いきなり10分できなくても良いんです。1分出来るようになったら1分10秒、次は1分20秒と、少しずつ時間と回数を伸ばすのが最良です。実は私もケトルベルの練習があまりに厳しいので1か月ほどケトルベルトレーニングから離れランニングトレーニングをずっと続けたことがありました。その時は多少ケトルベルの記録にもいい恩恵がありましたが、ケトルベルトレーニングに復帰した最初のセッションは本当につらかったです。長期間ケトルベルから離れていたことで、いつも出来ていたようなことさえつらくなってしまったのです。そこから記録を戻すのは本当に大変でした。やはりケトルベルトレーニングを一切やらない期間が1か月近くあるのはあまり良いことではないと思います。
 トレーニングには特異性の原則というものがあります。身体は与えられたストレスに対して特異的に適応するというものです。噛み砕いて言うと、サッカーを上達させたいなら野球の練習ではなくサッカーの練習をしないといけない、ということです。短距離走を速くしたいならマラソンじゃなくて短距離走をやる、ということです。バスケでジャンプ力をあげたいなら、バスケの練習だけじゃなくジャンプの練習をする。身体はトレーニングしたことしか強くならないということです。そしてそのような特異的な適応を経て得た能力はしばらくトレーニングをしていないままでいると、その能力を徐々に失ってしまうのです。
 でもつらい練習をするのって大変だから、出来ることばかりを練習したくなってしまいます。出来ることを伸ばしていれば、いつか自然に苦手なことも出来るようになっているだろうと淡い期待を抱きながら。もちろんそれが叶うこともありますがとても珍しいことです。ジャークばかり練習していてスナッチが上達することも、その逆もあまり起きないです。初心者ならまだしも上級レベルともなるとまずその可能性はないと思いましょう。世界チャンピオンクラスの選手でさえも、普段バイアスリートの選手がロングサイクルにトライするとかなりの苦戦を強いられますし、その逆でロングサイクリストがバイアスロンにトライしてもかなりの苦戦が強いられます。超人ヒーローのように見える彼らもまたそのような苦労があります。地味にも見える練習をコツコツと地道に続けることが成功への一番の近道ということを忘れてはいけません。


 いかがでしたか?ジャークの記録を伸ばすTipsの11選でしたが、そのどれもが特別なことではなく地味なことに見えるかもしれません。しかし当たり前に見ることを地道に当たり前に続けることが成功への最短の道だと思います。どうか皆様のジャーク記録の向上に役立てば幸いでございます。

世界チャンピオン、ジョニー・ベニーゼ。2017年の世界大会においてジャークの試技を終えた直後。150回という素晴らしい記録で試技を終え、優勝をほぼ確実なものまでにした時の写真。もちろん彼はその大会の優勝者です。

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渡辺陽介


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