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ケトルベルロングサイクルのテクニックとトレーニング理論

目次
1. ジャークテクニック
2. ロングサイクルテクニック
3. トレーニング理論

1. ジャークテクニック
クリーン
 ケトルベルを用いて行われる古典的なプレストレーニングでは、ケトルベルを胸の前方の位置で保持する姿勢(ラックポジション)に持ち上げる動作(クリーン)が1回だけであるため、一部のアスリートはこの動作のテクニックをあまり重視せず、それはエネルギーの浪費につながります。
 クリーン動作を始める前にいくつかの予備的な動作を必要とします。床に置いたケトルベルをラックポジションまで挙上するためには、床に置いたケトルベルをすぐに前方向に挙上するのではなく、予備的に後方に「スイング(振る)」する必要があります。ケトルベルを脚の間を通してスイングする動作を予備的に行ってこの動作は達成されます。
 ケトルベルを離地する開始姿勢(スタートポジション)では、ケトルベルはアスリートのつま先のラインから10〜15cm前の位置にあります。 ケトルベルは通常、前向きです。アスリートは小さく脚を曲げ、体を前に傾け、上からハンドルをつかみます。その後、背中を真っ直ぐにし、身体の後ろまで脚の間を通してケトルベルを振ります。この時、脚は伸ばして動作していますが、完全に伸ばし切っているわけではありません。この動作によってケトルベルが後方にスイング(振り子のように推進)された後、振り子のように膝の後方の位置から元の位置に戻り始めたら、その動作を止めることなく骨盤と膝を少し前方に動かし、ケトルベルを爆発的に加速(ドライブ)させます。ケトルベルのドライブが終わるまで腕部はケトルベルを持つためだけに機能されます。(ケトルベルを握る以外の腕部の運動は行われない)
 ケトルベルを振る際は、ケトルベルを誤って放り投げてしまわないようにしっかり握るようにしましょう。多くのアスリートは誤ってケトルベルを放り投げてしまわないように、ケトルベルのハンドルを握った際、人差し指の爪を親指で押さえつけて握ります。(写真1,1)ただし一部のアスリートは(写真1,2)の様に握ります。

ケトルベル握り方1

(写真1,1)親指で人差し指を押さえ付けるようにするケトルベルの握り方

ケトルベル握り方2

(写真1,2)親指と人差し指が触れないケトルベルの握り方

キャッチ-ハンズインサーション
 ドライブ動作の後、ケトルベルは慣性力を用いて上昇を続けます。この慣性モーメントを応用して、ケトルベルが上昇を続けているうちに肘をケトルベルの下にすばやく入れ、手をケトルベルのハンドルのアーチの内側に突き刺す(ハンズインサーション)必要があります。ケトルベルが前腕に触れたらすぐに、肩を下げ、膝を曲げます。その際足の裏は完全に地面に設置しています。これらの動作を行うことにより、ケトルベルが胸に接触する際に発生する衝撃を和らげ、ケトルベルをラックポジション(ケトルベルを胸の前の位置で持った姿勢)まで持ち上げる動作を容易にします。膝を曲げてケトルベルをラックポジションで保持した動作を完了した後、脚をまっすぐにします。
 ラックポジションが窮屈に感じられる場合には、手をケトルベルのハンドルのアーチの奥深くまで押し込み、正しいラックポジションまで素早く修正する必要があります。

ラックポジション
 ラックポジション(写真1,3、1,4、1,5)足の幅は肩幅と同じ幅(もしくはそれよりやや広い幅)に広げ、脚は膝関節伸展筋群の力を用いてしっかり伸ばします。この姿勢は後のケトルベルを頭上に押し出す動作に大きく影響します。
 ケトルベルのハンドルのアーチは手のひらの付け根の位置にあり、手首の関節にひっかかっています。このグリップ方法によって指を負荷(ケトルベルを強く握りこんで保持する労力)から解放することが可能になります。ケトルベルのボディは、前腕と肩に位置します。肘を下げ、体に押し付けます。
 体は後方にややゆったりと傾け、骨盤を前に出します。背骨には負荷がかかりません。正しいラックポジションではリラックスすることができます。肘は腸骨稜上部に当て鋭角に曲げます。もちろんこの姿勢は容易に出来ることではありませんが、手をリラックスする効果もまたこの姿勢を強調することで達成されるのです。
 ラックポジションで多くのアスリートが使用するテクニックの一つは、ラックポジションで、ケトルベルのハンドルを掴むことです。例えば(写真1,3)では右手は左手の指を掴み、左手は右手に保持するケトルベルのハンドルを掴んでいます。ただし、強く握りこんでしまうと握力の浪費につながるため強く握りこみすぎないようにする必要があります。

ラックポジション1

(写真1,3)Ivan Denisovのラックポジション

 肘を腸骨稜上に置くためには、まるで身をかがめるように肩を前方に持ってくる必要があります。この姿勢では、ケトルベルの重さは背骨を迂回して肘関節から直接骨盤にかかります。つまりラックポジションでは背骨に負荷はかからず、アスリートは筋肉をリラックスする機会を得ます。
 初心者の場合、ラックポジションの姿勢をとるための股関節と腰椎の柔軟性が欠けるため、わずかに膝が曲がっている場合にのみこのラックポジションは達成されます。したがって膝関節を曲げることなく、腰椎と股関節の柔軟性を用いて背部を後方に変位できるよう、十分に柔軟性を発達させる必要があります。ラックポジションでは臀部もまたリラックスする必要があります。臀部が緊張してしまう場合には、膝関節の後面の柔軟性の欠如が疑われます。

ラックポジション2

(写真1,4)ラックポジションのフェーズで第1種テコとして機能する骨盤

ラックポジション3

(写真1,5)ケトルベルを挙上する前のスタートポジション

 脚はまっすぐ伸ばされ、足の幅は肩幅程度かもしくは足部が自然に曲がるように肩幅よりもやや広くする必要があります。足の位置は、スタートポジションだけでなく、ケトルベルを挙上した姿勢でも、ケトルベルを上部に保持し膝を曲げた姿勢でも、アスリートの安定性を確保する必要があります。胴体はやや後ろに傾いており、骨盤は前方にあります。重心は足の裏全体にあります。肘はアスリートの体格や体質に応じて、肘を合わせて全面の腹部に押し込むか、肘を離して身体の横に押し付けることができます。腕の筋肉はできるだけリラックスします。ケトルベルは腕に密着し、肘は腹部の上に設置するためケトルベルは腕の筋肉の力に依存することなく保持されます。この場合、身体をやや後方にずらすことと骨盤を前方に移動させることでケトルベルはしっかりと胸の前方で固定され、ラックポジションの際の手の筋肉のリラックスを最大化するのに役立ちます。
ラックポジションを習得するには、何度も肘の位置(近づける、離す)や、ケトルベルの位置(上、下)、足幅を変更し最適な位置を知る必要があります。 最も適切な位置を見つけその位置をよく覚えてください。ラックポジション中、目線はやや上を見ます(水平から約15度上程度)。
 ラックポジションを上達させるために、ケトルベルを2つラックポジションの姿勢で持ったまま維持するという練習方法があります。はじめは1分くらいの長さから始め、慣れてきたら徐々に時間を延長します。この練習を行う際は補助者が近くにいることをお勧めします。ケトルベルを降ろすとき、疲労のためにケトルベルを誤って投げ落としてしまう可能性があるためです。もし補助者がいない場合は、軽量のケトルベルからはじめるようにしてください。

バンプ

バンプ

バンプ2

バンプ3

(写真1,6)バンプ

 ラックポジションからケトルベルを勢いよく爆発的に押し出す(バンプ)動作は、一度曲げた膝(ファーストディップ)を勢いよく伸ばす力によって行われます。(写真1,6)この時、腕と胴体、肘と骨盤の相互作用は最大になります。膝を勢いよく伸ばす動作は、足首が底屈する(つま先立になる)動作と同時に行われます。ケトルベルが骨盤上から勢いよく押し出された瞬間、アスリートはすぐに腕に力を入れ頭上までケトルベルを押し上げます。これにより、この後に続く再び身体をしゃがみ込ませる動作(セカンドディップ)を身体にかかるケトルベルの負荷を抑えて行うことができるようになります。ファーストディップを行う際の一番の課題は、その後に続く膝を伸ばす動作を強力に行うための条件を整えることです。

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