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冬の和歌4・九条良経

新古今和歌集冬より良経の和歌をいくつか。
九条良経、家柄も地位も申し分無いし歌は上手いし書に至っては天才の域。
言う事なしかと思いきや、ある晩、38歳の若さで変死してしまう、という悲劇の人です。

良経の和歌は非常に観念的なものが多く時に何を言っているのか解釈に苦労することもあります。
言葉で現実を超えたものを作ろうとしていた人です。
さらに、太政大臣まで上りつめるような人生だったにも関わらず、良経の和歌には明るさや大らかさがあまり感じられません。
観念的なせいもありますが、どうにも陰鬱で退廃的なのです。
まるで、自分の不吉な運命を予感しているかのように。
彼は1度政変で不遇の身となってから、大復活した人なので華やかなように見えて諸行無常を身にしみて感じていたのかもしれません。
しかし、大変歌が上手いのは間違いないです。中世和歌のレベルを押し上げた一人だと思います。


消えかえり岩間にまよふ水の泡のしばし宿かる薄氷かな

要は「ゆく川の流れ」です。川を流れる水の泡という非常に微細な部分を彼の目は見ています。
その水の泡が岩間にはね返り迷い消えていく。上の句だけで儚さに満ちている。
それが、「しばし宿かる」ほんのわずかな間、休憩するのは流れを塞き止める薄氷。
わずかな休息を支えるものでさえ、薄氷というこれまた脆く儚いあっという間に消えてしまうものなのです。

冬の寒々しさの中、絶望的なほどの儚さ、空しさを描いた歌。
彼に何があったのか、と思いますよ。

枕にも袖にも涙つららゐてむすばぬ夢をとふあらしかな

またしても一読しただけで寒々しい歌。
枕も袖も涙で凍りついて、夢を見ようと目を閉じても嵐に妨げられ夢さえ見ることができない。
……だ、だからあなた一体何があったんです???
涙で袖が凍る、それ自体はテンプレですが嵐まで来ちゃったよ、って感じですね。
完全に幻想の世界です。
何があった、と書きましたが彼が別に手痛い失恋を経験したとか言いたいわけではないです。
彼が、このような絶望を歌に詠むことを好む心性であったということです。


かたしきの袖の氷もむすぼほれとけて寝ぬ夜の夢ぞみじかき

先の歌と似ています。またも涙で袖が凍りついて碌に眠ることもできずほんの短い夢しか見られないのです。
これは本歌もほぼ同じ内容を歌っているので、余程このシチュエーションが好きなのか?と思っちゃうわけです。
その本歌(源氏物語)
とけて寝ぬ目覚めさびしき冬の夜にむすぼほれつる夢の短さ

本歌が結句の「夢の短さ」を長々修飾する形でやや冗長なのに対して、
SV+SVという形に整理してむすぼほれ-とけての対比が鮮やかになりよりくっきりした絶望が味わえるというさすがの技術です。

最後に。

水上やたえだえこほる岩間よりきよたき川にのこるしら波

珍しく、叙景歌。
ここまで陰鬱で退廃的な幻想詩が続いたので、あらあなたこんなに美しい歌が詠めたのねと思ってしまう(笑)
清冽で美しい冬の景色です。
ただ、彼のこれまでの歌を考え合わせると、凍りついた上流の岩間からわずかに凍らずに流れてきた白波というのは、幽かな本当に幽かな、そしてすぐ消えてしまう希望だったりするんだろうか。
なんて、深読み。
本当に、なんで、栄華の頂点で死んでしまったんだろう。

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