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冬の和歌5・藤原俊成

定家パパ。
中世和歌の基礎を作った偉大な人である上に俊成の何が偉いって偏屈で陰湿な定家様と大違いで、大変温厚で人当たりが良く評判の良い人であることです。
ちょっとはパパを見習ってくれ(笑)。
定家様がトラブルを起こすたびに各方面取り繕ってくれてありがとう。
徳のおかげか大変長生きして91歳の大往生でした。
歌風はとても品が良いです。中世和歌に多大なる影響を与えた人ですから当然幽玄に余情が基本なんですけど、気品と格調がある。
人柄が表れているのかもしれません。


かつ氷りかつはくだくる山川の岩間にむせぶ暁の声

この歌は素晴らしい。まずはリズムが非常に良い。
上の句のカ行の繰り返しに、結句で再度出てくる「あかつき」の「かつ」。音声的にも大変巧みに構成されている。
岩間で凍っては砕ける山川の水音を咽ぶ声と表現する感覚も素晴らしい。
それが暁なんですよ。夜明けです。闇に光が差す時間です。
そんな音、本当は聞こえないと思うんですよ。
人間には聞こえない微細な音を捉えてそれを夜明けに咽ぶと歌うセンス。
これは厳しい冬の闇に幽かに響く生命ではないですか。
さすがだなあ。


ひとり見る池の氷にすむ月のやがて袖にもうつりぬるかな

非常に美しい歌です。
一人凍りついた池に映る月を見ていたらやがて袖にも映っていた(移っていた)とは、つまり袖が濡れていたということです。泣いていたんです。
ぽつんと池の縁で泣いている、それを美しく月が照らしている、そんな絵が浮かびます。
「やがて袖にもうつりぬる」
なんて優美で品のある言葉なんでしょう。
泣くことをこんなに静かに美しく表現できますか。
激情や悲嘆といった、感情の迸りではなく静謐な美しさが感じられます。
これもさすがとしか言いようがない。



雪ふれば嶺の真榊うづもれて月にみがける天の香久山

真榊といい天の香具山といい格調の高さに満ちた歌ですがなんといってもこの歌は「月にみがける」。
雪が降って木々も埋もれ真っ白になった様子を「月の光に磨かれたような」というわけです。
この「月にみがける」という句は大変はやって、多くの人が真似をしました。
そりゃそうだ。
真っ白な雪は光をはね返して眩しいくらいですが、月が磨いたとくればもはやファンタジーですよ。
このような幻想を中世歌人たちは見ていたんです。


このような歌を暗い部屋の隅で火鉢を抱えて泣きながら苦しんで編み出していたというんだから(定家様談)、優雅なように見えて和歌の世界は大変ですよ。

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