心霊スポットで今からYouTuberたかしを襲撃する 後日談
俺は目を開けると、真っ白い天井と新品に近いLED電球が見えた。
ここはどこだろう…。
頭がぼーっとしている。
いったい、俺の身に何が起きたんだろう。
窓際の近くにあったデジタル時計をみると、ハロウィンイベントから3日経過していて、現在は16時38分と表示していた。
俺は、元の時代に帰れたのか?それとも、あの一連の出来事は強烈な悪夢で実際に起きていないのか?
だが、今俺はどこにいるんだ?
ほんのわずかに匂う薬品の臭いから病院のベットの上にいるのはわかった。
とりあえず、安心してもよさそうだ。
そう思って辺りを見渡すと俺は絶句した。
明らかに知らない二人組ガタイの良いおっさんが俺を見下ろしてじっと見つめていた。
1人はニット帽子の被ったひげ面のおっさんで、居酒屋の店長とか土方の親方とかみたいながっちり体系のおっさん。
もうひとりは金髪短髪でひげ面のおっさんよりもほっそりしているが、トラ柄のTシャツを着ている、いわゆる関西系のおっさん。
どちらも俺は心当たりのないおっさんで、俺は必死に頭の中の記憶を阿佐ってみても該当する知り合いなんていない。
「気が付いたかぁ、あんちゃん」
ドスの聞いた金髪の関西系のおっさんの第一声を聞いた俺は、心臓を直でつかまれた感覚に襲われ思わずベッドから飛び起きそうになったが痛みで自由で動けない。
「ちょっと脅かすなよ、テルやん。ちょっとおにいさん、安心してや。俺たちはたかしの知り合いだから、安心して体をゆっくり休んで聞いて」
「おぉ、すまんな。いきなり知らんいかついおっさんが二人もおったらだれだって身構えるか」
もうひとりのおっさんが、テルやんと呼ばれたおっさんをなだめ、俺に対して優しい口調で語りかける。
俺はそれに気を止めることなく、テルやんの顔をじっと見つめていた。
なんでなのかはわからないが、身体が金縛りにあったかのように自由に動かせなかった。
「なんや?あんちゃん、俺の顔は見覚えあるんか?」
テルやんは怪訝そうな顔で俺を見ているが、俺は口を動かそうとしても動かせん状況になって目が泳ぐ。
「なぁ、どうしたんや?さっきから黙ってても俺に何も伝わらんぞ?」
自分の身体で一体何が起きているのかわからず、ひや汗が一つ俺の額から鼻、口元まで滴り落ちる。
「オオチドロヌマノブテル」
しばらく数十秒ほどテルやんを睨みつけたかとおもったら、俺の口から今まで出したことのないようなドスの聞いた声が勝手に出てきた。
おれ、今なんて言った?オオチドロヌマノブテル?
自分の声なのに、明らかに聞きなれた自分の声じゃない声が出た事に戸惑い、思わず吐きそうになった。
「なんだ。あんちゃん、俺の名前知ってんのか?いや、違うな。おい、あいつまた他人に迷惑かけやがって」
とテルやんは呟き悪態をつく。
あいつ?誰の事だ?
「えっと、まぁあんちゃんには申し訳ないが、状況整理する前にまずは塩と水を飲みなさい」
俺は一旦落ち着いて状況を確認するために警戒を少し解いて、テルやんと呼ばれたおっさんから手渡されたペットボトルの蓋を開ける。
そして、砂漠のように乾ききった喉にミネラルウォーターを押し込み手渡された塩を少し舐めて気分を落ち着かせることにした。
彼らの話を聞くと、どうやらたかしが『ホラーゲーム「閉鎖村」20周年記念YouTubeハロウィンイベント』へ参加する際に呼び出した霊媒師の2人で、テルやんと呼ばれた男の本名は大血泥沼伸晃|《おおちどろぬまのぶてる》。
たかしとはホラーゲームのコラボ実況で知り合ったらしく、本来は今回のハロウィンイベントに参加する前に俺に憑りついている悪霊をお祓いする手はずであったらしい。
特に大血泥沼伸晃は代々の呪いを親子二代で断ち切った実績があることから、俺に憑いている悪霊を祓うことができるだろうとたかしは考えていた。
あれ、この話最近どこかで聞いたような気がする……。
なんか、こう。思い出そうとすると頭がズキズキして思い出せない。
もう一人の居酒屋の店長とか土方の親方とかみたいながっちり体系のおっさんは怪談師で柔道黒帯持ちの白田夏尾|《しろたなつお》。
もしも俺が悪霊に憑りつかれて暴れまわった際には俺を柔道の技で取り押さえるためにたかしに呼ばれたようだ。
「んで、おふたりを派遣したたかしはどこにいるんだ?テルやんさん」
「あぁ、たかしの方は次の仕事へ行ったから今は会えないし、直接会わんほうがえぇな」
とどうも歯切りの悪い言い方をする大血泥沼伸晃ことテルやん。
初対面に対してテルやんと言うのは失礼だけど、大血泥と呼んではいけないと俺の本性がそう言っている。
「まぁ、自己紹介はこれくらいにまずお前さんの身に起きたことを順番に説明するわ」
白田の話によるとどうやら、砂防関係の作業員が俺の事を見つけてくれたようだ。
彼らは旧日暮村跡地から数キロ離れたところにある砂防堰堤の経年劣化の具合を調査をするためにやってきたらしい。
点検中に山の中へ入っていたところ、偶然山の麓に倒れている俺を見つけてそのまま救急車を呼んでくれて、街中の総合病院へと運んでくれたのだ。
発見当時は殺虫剤やらガスのにおい、動物の糞尿の臭いが充満していて、身体のあちこちに怪我をしている状態であと一歩遅かったら後遺症が残っていたほどであった。
特に目の付近に刺さっていた鉄の破片や両腕の皮膚がずる向けて肉が露出しているらしく、そのまま放置していたら感染症の危険が伴っていた。
「とまぁ、あんな目にあっとっても悪運が強いんやなぁ、あんちゃん」
その話を聞いて、背中の悪寒が俺の全身を駆け巡る。
「まぁ、今は病院の中だから安心してくれや」
それを察したのか、白田は病院内のコンビニで買ってきたカロリーメイトとホットココアの缶を手渡した。
俺は有難く受け取ったが、食べる気がしないので脇に置いて話の続きを聞き、ホットココアをゆっくり飲んだ。
ちょっとぬるくはなったが、俺の緊張した精神が徐々に和らぐのにはちょうど良かった。
オカルトブラザーズの川瀬たちに追い回されたり、過去の世界にタイムスリップして小学校の頃のたかしと会ったりと生きた心地がしなかった。
もしもゲーム閉鎖村みたく、どんどん過去の世界へ落ちて行って最終的に元の世界へ帰っていけなくなったらどうしょうとか思っていた。
だが、元の時代へ帰還出来てようやく安心できたと実感していき肩の荷が下りていく。
一方で、あのハロウィンイベントの時に廃寺にいた不審者ことオカルトブラザーズの川瀬が俺を追い回していた間にも事件は起きていたらしい。
出演者の何人が錯乱してスタッフや観客を殴りかかるとか、意味不明な言葉を叫んでどこかへ走って行方不明になる事態になってしまい、イベントは中止。
たかしとテルやん、白田さんの三人が現場に着いた頃には警察と救急車数台が旧日暮村跡地に集まっていて、事態は騒然としたそうだ。
今でも警察が残りの行方不明者を捜索をしているらしく、今回のイベントを主催した企業や関係者が各所で謝罪したり怪我の治療に専念したりしている。
ちなみに、たかしも優夫も怪我も失踪することなく、無事らしくて良かった。
「んで、気になるんやけど、あの旧日暮村跡地の山奥に不審者に追いまわされて逃げた時に何が起きたんや?発見されたときに季節外れの殺虫剤や動物の糞尿まみれでボロボロになっていたらしいけど…」
テルやんは訝しむ表情で質問していたので、俺は二人にこれまでにハロウィンイベントで起きたことを二人に話すことになった。
ハロウィンイベントの会場の奥の廃寺にいた不審者が、オカルトブラザーズの川瀬兄弟で、兄のひろよが弟の首を切断して何か怪しい儀式をしていたこと。
ひろよに追い回されていた際に、タイムスリップして小学校のころのたかしに出会って、殺虫スプレーで作った爆弾を投げられて大けがしたこと。
そのあとでマサルを名乗る謎の幽霊に取りつかれそうになったこと。
あと、竹内正樹を名乗る遭難者に出会って資料を渡されたけど、どこかへ消えたこと。
そのほか、とにかく思い出せることを手あたり次第全部話した。
「やっぱりかぁ」
最後まで話終えるとテルやんが目を不覚つぶってこう切り返した。
「まず、じゅんやくんに謝ることがあるわ。あのオカルトブラザーズの兄弟は二人の知り合いだわ。そして、そいつらを祓うことは俺には出来ん。本当に申し訳ない。」
とテルやんと白田さんは深々と俺に頭を下げた。
途中、テルやんと白田さんが少し小さなため息をする場面がチラホラあって気になっていたが、そういうことかのか。
特にオカルトブラザーズの話やマサルの話に関して強く反応していたのも…。
だが、謝られてもピンと来なくて俺は戸惑っている。
「オカルトブラザーズの川瀬ひろよとまことの2人は今もお前さんの近くにいるんだが、今も生きている生霊なのかも、既に死んでいて死霊になっているも、まったくわからないから俺では除霊ができん。」
なぜなら2人とも3か月前に失踪しとるから、と言い終えたテルやんは窓際の方を睨みつけバツが悪そうにしていた。
俺はゾッとしてテルやんが睨みつけている窓際の方へ目線を向けるも、あの2人の姿はもう見えない。
いや、もうあんな目に合いたくないから見えなくてよかったのかもしれない。
「いや、生霊でも悪霊でもない一種の蟲毒|《こどく》じゃないかな」
「白田さん、蟲毒ってあの?」
俺の知っている蟲毒は100種類もの生きている生物を集め最後の一匹になるまで共食いまたは殺し合いをさせて生き残った生物を使った呪い。
たまに、アニメとか小説とかで聞く呪術のうちの一つだが、詳しいことは俺は知らない。
白田さん曰く、オカルトブラザーズの川瀬は曰く付きの呪われた呪物を収集するのが好きで、特に呪われた人形を専門として収集して動画のネタにしていたらしい。
その趣味をYouTubeやInstagramの動画に挙げてネタにしているインフルエンサーにはなっていたのだが、ある日を境に様子がおかしくなった。
ある日の投稿で突然呪いの人形たちを集めて蟲毒をやると言い始め、部屋一面に呪いの人形コレクションを並べ始めただけの動画を投稿し始める。
そこから次第に目の焦点が合わないまま淡々と怪談を語り始めてある日突然動画の更新を辞めて失踪したのであった。
「蟲毒ってのは、何も何百種類の生き物を集めて共食いや殺し合いさせるだけじゃない。あいつらは、人形に込められた呪い同士をぶつけて呪いを増大させて作ったオリジナルのものを作りたかったみたいだが…あいつ自身がとうとう蟲毒になってもうたかもしれん」
だからテルやんとしても、どう対処すればいいのかわからないとの事だ。
じゃあ、そんな得体の知れないやつが近くにいるのって危ないんじゃないか?
そう思った俺の全身に寒気が襲い掛かりって歯ぎしりして縮こまっていた。
まるで、冷房かつ強風のクーラーを直接かけられたような感覚だった。
「まぁ、あの2人は呪いの人形や怪談集めに執着しとるから、多分呪いを見つけたらどこかへ行くんやないか?だからそこまで心配しなくてもええとは思うわ」