3分で読める眠りにつく前の話
『もらったもの』
中学生の頃、誕生祝いに友人から本をもらったことがある。
家族以外から本をもらうのは初めてで、なんだか大人になったような気恥ずかしい嬉しさを感じたのを覚えている。
その本は山田詠美著「ぼくは勉強ができない」だった。私がタイトルを見て笑ってしまったのは、この物語の主人公同様に友人も勉強ができなかったからだ。国語はよくできたが、受験を控えた15歳とは思えないほど学習意欲が低くて、頻繁に遅刻し、授業中もスヤスヤとよく眠っていた。
「お前の自伝か」と照れ隠しで茶化すと、
「まぁ、読んでみ。良いよ。」と嫌味のない笑顔が返ってきた。
内容については(実際に読んで欲しいので)割愛するが、私はその小説がとても気に入った。俺が先に知りたかった、と悔しがりながら何度も読んだ。
先生とか親とか、誰かの示した目標ばかり追って生きてきたけれど、自分が価値を感じられる目標を見つけたいんじゃないか。本心じゃないことに闇雲に取り組んでも、いずれ虚しさに襲われるんじゃないか、なんてことを読みながら考えた。
とはいえ当時は15歳。ただただ周りと同じように進学したかった。ましてや自分にとって価値を感じられるものなんて見当もつかない。大人になった今でも、それが“普通だから”という理由で頑張っていることだらけだ。人と違うことは怖い。同じならそれだけで、誰かが正しさを担保してくれる。でも、その正しさは自分のものじゃない。与えられたものは借り物に過ぎない。
遅刻魔で、国語だけ得意で、ひょうきんで、毎日一緒に涙が出るほど笑いあった、勉強のできない友人から、私は迷うことと選ぶことを教えてもらった。迷った末に選んだ答えが、与えられたものと同じだったとしても、私は迷い、選ぶんだ。