52)ビタミンDの補充は運動パフォーマンスを高める
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術52
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【ビタミンD欠乏はサルコペニアを引き起こす】
以下のような研究報告があります。
【要旨の抜粋】
ビタミンDの不足(血清25-OHビタミンD 濃度 30 ng / ml未満)は、一般人口の70〜80%に見られるが、身体能力およびサルコペニアの進行に対する長期的な影響はよくわかっていない。
6ヶ月齢のオスのC57BL / 6Jマウス(n= 6)において、十分な量のビタミンD(1000 IU/kg体重)または不十分な量のビタミンD(125 IU/kg体重)の食餌で12か月間(人間で20〜30年間に相当)飼育した。
ビタミンD不足の食餌を与えたマウスは、2週間までに血清25-OHビタミンDレベルの急速な低下を示し、その後のすべての時点で11〜15 ng / mLの間に維持された。
12か月後、ビタミンDを十分量を補充したマウスに比べて、ビタミンD不足マウスは、グリップ持久力(34.6±14.1対147.5±50.6秒、p = 0.001)、上り坂のスプリント速度(16.0±1.0対21.8±2.4メートル/分、p = 0.0007)、および歩幅(4.4± 0.3対5.1±0.3、p = 0.002)において有意な低下を認めた。
ビタミンD不足マウスは、8か月後の除脂肪体重も少なくなった(57.5%±5.1%対64.5%±4.0%、p = 0.023)。一方、ビタミンD3を十分に補充したマウスでは除脂肪体重の減少は認めなかった。筋肉萎縮関連遺伝子のatrogin-1のタンパク質発現もビタミンD不足マウスで増加した。
これらのデータは、慢性的なビタミンDの不足が、筋肉の機能低下とサルコペニアに寄与する重要な要因である可能性があることを示唆している。
加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています
皮膚で生成されたビタミンDや食事やサプリメントで摂取したビタミンDは、肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD(25-OHビタミンD)になり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25-ジヒドロキシビタミンD [1,25(OH)2ビタミンD]になります。この1,25(OH)2ビタミンDが活性型で核内のビタミンD受容体に結合して遺伝子発現などに作用します。
活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンD3は半減期が数時間と短いのに対して、25-ヒドロキシビタミンD(25-OHビタミンD)の半減期は3週間程度で、濃度は1,25(OH)2ビタミンDの1000倍程度なので、25(OH)ビタミンDが体内のビタミンDの貯蔵量の指標として使われています。つまり、血清中の25-OHビタミンDの濃度は体内のビタミンDの量を示す指標です。
除脂肪体重とは、体の全体重から皮下脂肪・内臓脂肪などの脂肪を差し引いた体重です。残った体重は筋肉や内臓、骨格ということになります。除脂肪体重の減少は、筋肉や骨が減ったことを意味します。
Atrogin-1は筋タンパク質の分解に関与し、様々な筋消耗モデルにおいて筋萎縮に先立って発現の亢進が見られます。Atrogin-1欠損マウスは筋萎縮に抵抗性を示すことが明らかになっています。
つまり、このマウスの実験結果は、ビタミンDの慢性的不足は、筋肉量を減少させてサルコペニアを促進し、運動パフォーマンスを低下させることを示しています。
【ビタミンD欠乏は身体機能を低下しフレイル(虚弱)を促進する】
加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。
ビタミンD欠乏はフレイルを促進することが報告されています。以下の様な報告があります。
【要旨】
目的: 十分な25-ヒドロキシビタミンD(25-OHビタミンD)濃度は、身体能力の低下を防ぐ可能性があり、フレイル(虚弱)の予防に重要であると考えられている。この研究では、オランダの高齢者における血清25-OHビタミンD濃度と身体能力および虚弱状態との関連を調査する。
方法: この横断的研究には、65歳以上の男性と女性756人が含まれていた。血清25-OHビタミンD濃度と虚弱状態(Fried基準)を全人口で評価した。虚弱状態のスクリーニングには、歩行速度と握力の機能テストが含まれていた。サブグループ(n = 494)では、Timed Up and Goテスト(TUG)と膝伸展力(knee-extension strength)が測定された。血清25-OHビタミンD状態と身体能力との関連は、重回帰分析によって調べられた。有病率は、血清25-OHビタミンD欠乏症(<50 nmol / L)とフレイルとの関連を定量化するために使用された。
結果: 参加者の45%がビタミンD欠乏症であった。ビタミンD濃度が50nmol/L未満および50〜75nmol / Lの参加者は、ビタミンD濃度が75 nmol / L以上の参加者と比較して、TUGおよび歩行速度テストで有意に低いスコアを示した。握力または膝伸展力については血清25-OHビタミンD濃度との有意な関連は観察されなかった。血清25-OHビタミンD濃度が50 nmol / L未満の参加者は、血清25-OHビタミンD濃度が50 nmol / L以上の参加者と比較してフレイルである可能性が約2倍高かった。フレイル前段階(pre-frail)の状態と血清25-OHビタミンD濃度の間に有意な関連は観察されなかった。
結論: この研究では、血清25-OHビタミンD濃度は、虚弱状態および歩行速度やTUGを含む身体的パフォーマンスの測定値と有意に関連していたが、筋力関連の結果とは関連していなかった。
フレイルの診断はFriedらの提唱したもので、Friedらは身体的フレイルの定義として、1)体重減少、2)疲労感、3)活動量低下、4)緩慢さ(歩行速度低下)、5)虚弱(握力低下)、の5項目を診断基準として、3つ以上に当てはまる場合はフレイルとして診断し、1つまたは2つ該当する場合はフレイル前段階(pre-frail)としています。
Timed Up & Go Test(TUG)は、肘掛のついた椅子にゆったりと腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい早さで歩き、折り返してから再び深く着座するまでの所要時間で評価するテストで、下肢筋力、バランス,歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高く、高齢者の身体機能評価として広く用いられています。
前述のように、ビタミンDの活性型は1,25-(OH)2ビタミンDです。25-ヒドロキシビタミンD(25-OHビタミンD)は体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。したがって、血中25-OHビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます。
通常、血中25-OHビタミンDが50 nmol/L(20 ng/ml)以下が不足状態と考えられています。この報告では、12-OHビタミンD濃度が50nmol/L未満のビタミンD欠乏状態の被験者は、50nmol/L以上の被験者と比較して虚弱(フレイル)である可能性が約2倍高いという結果が得られています。
感染症やがんの予防効果を期待するには、血清12-OHビタミンD濃度を100~150 nmol / L(40~60 ng / mL)に高めることが推奨されています。今までの研究から、血中ビタミンD濃度が不足している人のビタミンD濃度を改善するためにはビタミンDサプリメントを1日4000 IU (100μg)程度が必要であることが示されています。
日光浴などで体内のビタミンD合成を増やすことの他に、ビタミンDを多く含む食事を摂取するか、ビタミンDのサプリメント(1日4000 IU程度)を摂取することは感染症やがんやフレイルの発症と進行の有効と言えます。
【ビタミンDはD2とD3がある】
ビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)の総称です。
ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロール(プロビタミンD2)から生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。ビタミンD2はキノコなどの植物性食品に含まれ、特に白キクラゲや干し椎茸に多く含まれています。ビタミンD3は魚に多く含まれています。
日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。すなわち、日光に含まれるUV-B帯域(波長280~315 nm)の紫外線が皮膚に当たると、表皮内で7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)からプレビタミンD3を経てビタミンD3(コレカルシフェロール)が生成されます。7-デヒドロコレステロールはコレステロールから体内で生成されるので、紫外線を含んだ日光に当たることでビタミンDは体内で作られるビタミンということになります。
体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は、肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンDに変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンDになります。
25(OH)ビタミンDは体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。したがって、血中25(OH)ビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます。(下図)
図:自然界のビタミンDは植物で紫外線の働きで生成されるエルゴステロール(ergosterol; プロビタミンD2)と動物の皮膚で紫外線の働きで生成される7-デヒドロコレステロール(7-dehydrocholesterol; プロビタミンD3)から合成される。ビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシ・ビタミンD3(Calcidiol)になり、さらに腎臓で1α位が水酸化されて1α,25-ジヒドロキシ・ビタミンD3(Calcitriol)となって活性化される。
【ビタミンDは多様な生理活性作用を持つ】
元来ビタミン(vitamin)というのは、生命に必要なアミンの意味で、微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し、生体機能不可欠な有機化合物で、普通は動物体内では生合成されないもので、食物などから摂取する必要があります。
しかしビタミンDは例外で、体内で合成できます。つまり、ビタミンDは体内で生成されることから、ビタミンというよりホルモンに近いと言えます。ただ、ホルモンは生体内で生成されるものに限定されるので、ビタミンDは体内で産生されるだけでなく、食品からの摂取量も多いのでビタミンに分類されています。
欧米の報告では、体内のビタミンDの90%程度は皮膚で紫外線を浴びて生成(7-デヒドロコレステロールからプレビタミンD3を経てビタミンD3)、10%が食事から摂取と言われています。
ビタミンDの主な働きはカルシウム代謝の調節です。ビタミンDは、小腸からのカルシウムの吸収を高め、腎臓からの尿への排出を抑制し、骨からの血中へのカルシウムの放出を高めることによって血中のカルシウム濃度を高める作用があります。
しかし、ビタミンDにはカルシウム代謝や骨形成における役割だけでなく、細胞の増殖や分化や死、生体防御機構、炎症、免疫、発がんなど多岐にわたる生体機能の調節に関与していることが明らかになっています。
例えば、ビタミンDの不足は、くる病や骨軟化症だけでなく、自己免疫疾患、呼吸器感染症、糖尿病、高血圧、循環器疾患、神経筋肉系疾患、がんの発生と深く関連していることが明らかになっています。
がんとの関連においては、ビタミンDの多い状態(日光、食事、サプリメントなど)は多くのがんの発生を予防することが多くの疫学研究で明らかになっており、がん細胞の増殖抑制や細胞死(アポトーシス)や分化の誘導作用によってがん治療にも有用であることが明らかになっています。
【ビタミンD3不足は感染症の重症化を引き起こす】
ビタミンD受容体は生体防御や免疫に関わる細胞(単球、マクロファージ、抗原提示細胞、活性化T細胞など)で発現しています。これはビタミンDが生体防御や免疫に重要な働きを持つことを意味します。したがって、ビタミンD欠乏は自然免疫と獲得免疫を低下させるので、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含め様々な感染症の発症と重症化のリスクを高めます。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染によって発症するCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)は、高血圧や心臓病や糖尿病を有する高齢者が重篤化しやすい傾向が明らかになっています。ビタミンD不足もCOVID-19の重症化の要因の一つになると報告されています。
ヨーロッパの国を対象に、それぞれの国の国民のビタミンDの平均濃度とCOVID-19の発症数と死亡数の関連を検討すると、ビタミンDの濃度とCOVID-19の発症数および死亡数は逆相関するデータが報告されています。つまり、ビタミンDの血中濃度が低いほどCOVID-19の発症数と死亡数が多いという関係です。
【ビタミンD3の補充は死亡率を減らす】
人間の死亡率は100%です。他の生き物も同じです。いずれ何らかの原因(病気や老衰や事故など)で必ず死にます。
「ビタミンD3が死亡率(mortality)を減らす」というのは、「ある一定期間の死亡確率が低下する」ということです。
血清中のビタミンD濃度が低い下位5分の1のグループの人は、ビタミンD濃度が高い上位5分の1に比べて、死亡確率が1.5倍くらいになるというコホート試験の結果が得られています。これは、50歳の人が、ビタミンDが不足している場合は余命が20年に対して、ビタミンDの濃度が高ければ余命が30年になるというレベルの差になります。体内のビタミンDの大半は体内で産生されるものですが、ビタミンDが欠乏している人は多く、食事やサプリメントからのビタミンDの摂取量増加が寿命を延ばすかどうかが注目されています。
「ビタミンDの血清濃度が高い人は循環器疾患やがんの死亡率が低く、全死因死亡率も減少する」ことを示すメタ解析の結果が複数の研究グループから報告されています。いずれも、ビタミンDの血中濃度が高い方が死亡率が低下することが明らかになっています。例えば、次のような報告があります。
この論文は、体内のビタミンDの量の指標となる血清中の25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]濃度と死亡率との関係を検討した、欧州と米国で行われた8つの前向きコホート研究の結果をメタ解析しています。
この研究では、対象は50~79歳の男女計26,018人で、追跡期間中6695人が死亡しています。このうち心血管疾患による死亡は2624人、がんによる死亡は2227人でした。血清中の25-ヒドロキシビタミンDの濃度が高い上位5分の1のグループに比較して、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低い下位5分の1のグループの全死因死亡率のリスク比は1.57(95%信頼区間:1.36-1.81)でした。心血管疾患のリスク比も同様な値で、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低い人は心血管疾患での死亡率が高くなっています。
一方、がんによる死亡の場合は、研究開始時にがんの罹患経験がない人では、25-ヒドロキシビタミンDの濃度の違いによるリスクの違いは認められていませんが、がんの既往歴がある人だけを対象にすると、25-ヒドロキシビタミンDの濃度の高い上位5分の1のグループに比較して25-ヒドロキシビタミンDの濃度の低い下位5分の1のグループの人の死亡リスクは1.70(95%信頼区間:1.00-2.88)でした。
これは、ビタミンDが高い状態は、がんの発生を減らさないが、がんになってからの延命には効果があることを示唆しています。つまり、ビタミンDが再発を予防するとか、がん細胞の増殖を抑制するなどの作用によって、がんサバイバーを対象にした解析では、ビタミンDが多い方が生存期間が長くなるということです。
この論文の結論は、「25-ヒドロキシビタミンDの血清濃度は、国や性別や季節によって顕著に異なるが、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低いと、全死因死亡率および心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率が高くなるのは確実である」となっています。
活性型のビタミンD(1,25(OH)2-ビタミンD)は医薬品として使用されています。一方、通常のビタミンDはサプリメントとして市販されています。
活性型ビタミンDは血清カルシウム濃度を高めるので、使用には注意が必要です。一方、サプリメントのビタミンDは、肝臓で25(OH)ビタミンDに変換されたあと、必要に応じて腎臓で代謝されて活性型になり、その活性化は、副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によって厳密にコントロールされているため、安全性が高いと言えます。
日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。日照時間の短い緯度の高いところに住んでいる人は体内のビタミンDの濃度が低い傾向にあります。また、ビタミンD含有量の多い魚やキノコの摂取量が少ない場合もビタミンD欠乏の原因になります。
家に閉じこもることの多い高齢者は、ビタミンD欠乏になりやすいので、サプリメントで補うメリットは高いと言えます。ビタミンDの不足は感染症や心臓病のリスクを高めることが明らかになっているからです。さらに、前述のように、ビタミンD の補充はサルコペニアやフレイルの進行を抑制し、運動パフォーマンスを高めます。
したがって、高齢者の健康寿命を延ばす目的でビタミンD3のサプリメントの1日4000 IU程度の補充を推奨するエビデンスは高いと言えます。