見出し画像

174)フレイル(虚弱)と要介護は突然やってくる

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術174

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【生き物には寿命がある】

人間が生まれてから死ぬまでの時間を寿命といいます。寿命のうちで、継続的な医療や介護に依存しないで自立した生活ができる生存期間のことを健康寿命と言います。寿命に対する健康寿命の割合を高くできれば、個人的には人生の質を高めることができ、社会的には医療や介護に要する負担を軽減できます。(下図)


図: 人生は「健康な時期」と「病気の時期」と「終末期」に分けられる。「健康」は明白な病気が明らかになる前の段階。「病気」は明らかな病気の症状を特徴とする段階。「終末期」は 臓器の損傷、機能不全および機能喪失を特徴とし、死にいたる段階。病気や終末期の期間を短縮し、健康寿命を延ばすことができれば、人生の質を高めることができる。


寿命や健康寿命の長さには大きな個人差があります。100歳以上まで元気に自立している人もいれば、70歳代で老衰という診断で亡くなる人もいます。大した努力もせずに100歳以上の健康寿命を達成できる人もいます。一方で、食生活や生活習慣において健康に良いことを実践しているにも拘らず、がんや心臓病や認知症など複数の成人病を発症し、若いうちから医療や介護の世話になる人もいます。
 
寿命や健康寿命に影響する要因の中に遺伝的素因があります。いわゆる長寿家系というもので、長生きする体質を遺伝的に保持している人たちがいます。

生まれつきの体質、つまり遺伝的要因が寿命の長さにかなり寄与していることは多くの基礎研究で明らかになっています。これは、寿命を延ばす遺伝的要因やそのメカニズムを利用すれば、健康寿命を人為的に延ばすことが可能であることを示唆します。
 
古代の人類の寿命は、地域や時代によって異なりますが、一般には現代よりも短かったとされています。医療や衛生状況が未発達であったため、多くの人々が幼少期や若年で亡くなることが一般的でした。そのため、平均寿命は30代後半から50代前半程度と言われています。
 
明治時代以降、衛生状態や医療技術の進歩によって、寿命が急速に延び、現在の日本では男女とも平均寿命が80歳を超えています。
 
しかし古代でも、100歳を超える人は珍しくなかったようです。紀元前2世紀ころに作られたという中国伝統医学の古典の「黄帝内経」は、伝説上の帝王である黄帝と岐伯という名医との問答の形で、中国医学の根底をながれる哲学や思想がまとめられています。この本は、「昔の人は百歳を超えても衰えはしないと聞いたが、なぜ今どきの人は五十歳ぐらいで皆衰えてしまうのだろうか」といった黄帝の疑問を述べた書き出しで始まり、人間と宇宙や自然との関わりを重視する思想を基盤にして病気の成り立ちや対処法について述べられています。
 
現在でも、医学の恩恵や食生活の豊かさとは無縁の生活で100歳以上生きている人は多くいます。規則正しい生活を送っている人、精神的な安定やストレスの少なさも長寿に寄与する要因となっており、肉体的な要因だけでは寿命は決められないようです。



【加齢と共に心身の活力は低下し筋肉量が減っていく】

加齢に伴い筋肉量の減少や諸臓器機能の低下が進行し、体は虚弱になり、いずれ自立できなくなって、最終的には寿命が尽きます。
 
加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を指しますが、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があります。(下図)


図:加齢に伴って筋力や心身の活力が低下した病態をフレイル(虚弱)という。多くの高齢者は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられている。しかし、フレイルや要介護状態から健康状態に戻すことも可能と考えられている。


加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。

一般に、人の筋肉量は20歳代をピークにして加齢とともに徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。
 
体重に占める骨格筋の量の平均は20歳代で40〜45%程度ですが、40歳代で30〜35%、70歳代で25%程度になります。体重60kgの人が、20歳代で25kgの筋肉量が70歳代で15kgになるイメージです。50年間で筋肉量が40%減少する計算です。一般的に30歳代以降は1年間に0.5%から1%くらいの割合で筋肉量は加齢とともに減少すると言われています。(下図)


図:筋肉量は20歳代から30歳代をピークにして加齢とともに減少する。その減少率は60歳以降顕著になる。


筋肉量が減ると、歩く速度が低下し、転びやすくなります。その結果、歩くときに杖を使うようになります。さらに筋肉量が低下すると自力で歩行できなくなり、車椅子が必要になります。さらに筋力が低下すると寝たきりになります。(下図)


図:加齢と共に筋肉量が減少すると、歩行時につまずいて転ぶようになり、杖が必要になる。さらに筋力が低下すると自立歩行が困難になって車椅子や寝たきりになる。


筋力の低下の度合いは個人差があります。若い頃から運動をして筋肉を鍛えている人は90歳を超えても自分で歩くことができます。一方、日頃から運動していないと、70歳代から杖や車椅子が必要になります。筋力が低下すると転びやすくなり、骨折して寝たきりになることもあります。
 
加齢による筋力の低下、特に下半身の筋肉(腸腰筋や大腿四頭筋)の減少を防ぐことが重要です。その方法として、運動(有酸素運動+レジスタンス運動)とタンパク質の豊富な食事が有効です。その他、筋肉のミトコンドリアの働きを高めるNAD+前駆体(ニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチド)のサプリメントも有効です。メラトニンがサルコペニアを予防するという報告もあります。



【フレイルや要介護状態は突然起こってくる】

加齢に伴う筋肉量の減少や諸臓器機能の低下は、気が付かないうちに少しづつ進行し、気がつくと、年齢相応に虚弱になっています。そのうち自立できなくなって要介護状態に移行します。
 
しかし、それまで健康であった人が、数日間で突然とフレイルや要介護状態に移行する場合があります。それは多くの場合、大きな病気が契機になります。

私は70歳ですが、フレイルや要介護の状態ではなく、つい数週間前までは「健康」と言っても問題ない状況でした。幼稚園から大学卒業までほぼ皆勤で、風邪にかかったことも無いくらい、健康には自信がありました。
 
しかし、7月下旬に新型コロナに感染し、ひどい咽頭痛で2週間くらいは食事が満足に取れず、その後も肺炎を併発し、普通に歩行できるまでに1ヶ月間くらいかかりました。その間に体重は5kg以上減少しました。2週間くらいは起座呼吸(横になると息苦しく感じ、体を起こして座ると楽になる状態で、心不全の症状。)で寝ていて、死ぬかもしれないと真剣に考える病状でした。新型コロナの感染によって「健康」から「フレイル」「要介護」状態に急激に移行し、約1ヶ月かかってなんとか元に戻った感じです。

日頃からフレイルやサルコペニアを予防するための健康増進の対策は重要ですが、大きな病気、特に感染症になると、フレイル状態が一気に進行することを体験しました。誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が増えているのは、感染症が契機になってフレイルや要介護状態を進行させるためです。

2023年の日本人の死因の順位は、悪性新生物(24.3%)、心疾患(14.7%)、老衰(12.1%)、脳血管疾患(6.6%)、肺炎(4.8%)、誤嚥性肺炎(3.8%)、不慮の事故(2.8%)、新型コロナウイルス感染症(2.4%)、腎不全(1.9%)、アルツハイマー病(1.6%)、その他(25.0%)となっています。
 
新型コロナやインフルエンザや風邪や誤嚥性肺炎などの感染症による死亡が、がんや心臓病や脳卒中を超える日も近いと思われます。


世界的に高齢者の割合が急速に増加しています。加齢が多くの疾患の主要な危険因子であることは常識的に納得できます。明白な病気が診断されると、標準的な治療が開始され、これらの病気による死亡を防ぐことによって、人生の「不健康な」段階が延長されます。この戦略により、私たちは不健康で長寿という厄介な立場に陥りました。

かなりの数の人が人生の後半を通して薬物に依存することになります。介護が必要な期間が延長し、社会は医療費と介護費用の増加に苦しんでいます。そのため、近年、健康寿命の延伸が注目されています。現在のところ老化は避けられませんが、老化プロセスと病気の発症を遅らせて健康寿命を延ばすことは可能です。老化を遅らせ、加齢に伴う病気を予防するという抗老化医療も重要だと言えます。


図:標準的な医療は、人生の「不健康な」段階(病気を持って生きる期間)を延長する(AからB)。適切な食事と生活習慣と抗老化医療は、寿命と健康寿命を延ばすことができる(A から C)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?