82)微細藻類由来のドコサヘキサエン酸(DHA)の有用性
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術82
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【地球温暖化は魚のドコサヘキサエン酸(DHA)の量を減らす】
魚油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は魚の体内で合成されているのではありません。EPAとDHAを作っているのは微細藻類です。
動物プランクトンが微細藻類を食べ、小型魚がプランクトンを食べ、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖によって、サバやサンマやカツオやマグロなどの魚油にEPAやDHAが蓄積しています。人間はこれらの魚を食べることによってEPAやDHAを摂取しています。(下図)
図:オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は微細藻類が合成している。プランクトンが微細藻類を食べ、小型魚がプランクトンを食べ、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖によって、魚油にEPAやDHAが蓄積している。人間は魚からDHAとEPAを摂取している。
オメガ3系多価不飽和脂肪酸のDHAやEPAは、がんや循環器疾患や認知症やうつ病など多くの病気を予防する効果があります。「地球温暖化は食物中のオメガ3系多価不飽和脂肪酸の量を減らし、その結果、がんや循環器疾患やうつ病など多くの病気を増やす」という意見があります。以下のような報告があります。
【要旨の抜粋】
近年、地球規模の気候変動は、海洋生態系を含む多くの生物学的および環境的要因に悪影響を与えることが示されている。特に、地球規模の気候変動は、大気中の二酸化炭素、紫外線照射、および海水温の上昇に関連しており、その結果、海洋植物プランクトンの成長が低下し、オメガ3多価不飽和脂肪酸の合成が低下する。
海洋植物プランクトンは、正常な人間の成長と発達に不可欠な栄養素であり、人間の健康に多くの有益な効果をもたらすオメガ3多価不飽和脂肪酸の主要な生産者である。したがって、気候変動が海洋に及ぼすこれらの有害な影響は、私たちの食事におけるオメガ3多価不飽和脂肪酸の利用可能性を低下させ、オメガ3多価不飽和脂肪酸の現代的な欠乏と、組織のオメガ6/オメガ3不飽和脂肪酸の比の不均衡を悪化させる可能性がある。これらは、心血管疾患、がん、糖尿病、および神経変性疾患のリスクの増加に関連している。
「気候変動がDHAとEPAを産性する微細藻類の発育を阻害し、その結果、人間がDHA/EPA不足になり、心血管疾患、がん、糖尿病、神経変性疾患などの病気が増える」という意見です。
この論文の著者はマサチューセッツ総合病院とハーバード大学医学部の脂質医学技術研究所(Laboratory for Lipid Medicine and Technology)の所長のJing X Kang博士です。Kang博士は遺伝子改変技術でDHAを合成できるマウスの作成など、オメガ3不飽和脂肪酸の研究では極めて著名な研究者です。
地球規模の気候変動の影響は、世界的な気温の変化と、メタンや二酸化炭素などの大気中の温室効果ガスの増加にすでに現れています。温室効果ガスの増加は成層圏のオゾン層の破壊を悪化させ、さらなる紫外線照射を促進しています。このような変化はDHAやEPAを産生する微細藻類の減少を引き起こし、人間にこれらのオメガ3多価不飽和脂肪酸の欠乏が起こると、心血管疾患、がん、糖尿病、神経変性疾患など多くの疾患を増やすという理屈です。(下図)
図:オメガ3多価不飽和脂肪酸が地球の気候変動と人間の健康にどのように関係しているかを示すフローチャート。地球規模の気候変動によって気温上昇、二酸化炭素の増加、紫外線照射の増加が起こっている(①)。これらの変化はオメガ3多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の産生源である微細藻類の増殖を減少し、DHA/EPAの産性能を低下する(②)。食物連鎖によって魚に蓄積するDHAとEPAが減少し(③)、食物からのDHA/EPAの摂取量が減少し、オメガ6/オメガ3比が上昇する(④)。その結果、がん、循環器疾患、糖尿病、認知症、うつ病などの病気が増加する(⑤)。つまり、地球規模の気候変動がこれらの疾患を増やすことになる。
以下のような論文もあります。カナダのライアソン大学(Ryerson University)の生物化学部(Department of Chemistry and Biology)からの報告です。
【要旨】
植物プランクトンは、水界生態系における主要なエネルギー源であり、オメガ3長鎖不飽和脂肪酸の供給源である。植物プランクトンの成長と生化学的組成は、気候温暖化の結果として上昇し続ける温度など周囲の環境条件の影響を受ける。
水温の上昇は、細胞膜の流動性の向上性維持の観点から植物プランクトンによるオメガ3長鎖不飽和脂肪酸の生産を低下させる可能性がある。これを調査するために、海洋および淡水植物プランクトンの6つの主要なグループからの952種の脂肪酸プロファイルを使用して調査を実施した。
温度は、オメガ3長鎖多価不飽和脂肪酸の割合の減少、およびオメガ-6多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の増加と強く相関していた。線形回帰モデルに基づいて、水温が2.5°C上昇すると、世界的な生産量がエイコサペンタエン酸(EPA)で8.2%、ドコサヘキサエン酸(DHA)で27.8%減少すると予測された。
世界のEPA供給の大部分に寄与する珪藻によるEPAの世界的な生産量の以前に発表された推定値を使用して、海洋温暖化の結果として毎年14.2Mt(1420万トン)のEPAの損失を予測する。
オメガ3多価不飽和脂肪酸は、主に植物プランクトンによって生成され、水生および陸生生物の一連の重要な生理学的機能にとって極めて重要な栄養素である。したがって、気候温暖化の結果としてのこれらのオメガ3不飽和脂肪酸の生産の減少は、最適な生理学的機能のためにこれらの化合物に依存する生物種に悪影響を与えると予測される。
この論文も前述のKang博士の論文と同様に、『地球の温暖化が微細藻類によるDHAとEPAの産生を低下させる』という指摘です。さらに、オメガ6多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の増加も指摘しています。つまり、オメガ6/オメガ3比を増やすので、人間の健康に悪影響を及ぼすことを指摘しています。
つまり、地球温暖化が人間の食事のオメガ6/オメガ3比を高めることになって、多くの病気の発症を増やす可能性を示唆しています。
人間の食事におけるオメガ3多価不飽和脂肪酸の主な供給源は水産物です。具体的には、海洋植物プランクトンやその他の単細胞藻類がオメガ3多価不飽和脂肪酸、特にEPAとDHAの主な生産者であり、すべての水生生物の食物連鎖の基盤となっています。人間は、この食物連鎖の複数のレベルを通じてオメガ3 多価不飽和脂肪酸を取得します。
植物由来の亜麻仁油と紫蘇油(えごま油)は、別のオメガ3多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の優れた供給源ですが、α-リノレン酸からEPAおよびDHAへの代謝変換が非常に低いため、植物からDHAとEPAの需要を満たすには不十分です。これらの3種類のオメガ3 多価不飽和脂肪酸は、EPAとDHAがより有益であるという明確な生物学的機能を持っているためです。
したがって、海洋植物プランクトンは、比較的大量のEPAとDHAの脂肪酸組成のために、私たちの食事における重要なオメガ3多価不飽和脂肪酸の利用可能性を維持する上で特に価値があります。ただし、植物プランクトンは気候や環境の変化に対して非常に脆弱です。
地球規模の気候変動による自然界におけるDHA/EPAの産生はすでに減少が進んでいます。ここ数十年間で野菜の栄養価が低下しているという指摘があります。同様に海産物のDHA/EPA含有量も減っていくと予想されます。サプリメントでDHA/EPAを補充する意味も最近は増していると思います。
【ベジタリアン(菜食主義者)はDHAが不足しやすい】
『ベジタリアン(vegetarian)』とは、肉や魚介類などの動物性食品を食べず、野菜などの植物性食品を食べる人のことです。日本では『菜食主義者』とよばれています。卵製品と乳製品は本人の判断に任せられており、食べても構いません。
肉や魚介類のほか、卵製品や乳製品、蜂蜜を含めた動物性食品を一切口にしない人のことを『ビーガン(vegan)』と言います。日本では「完全菜食主義者」と呼ばれています。ビーガンの人のなかには、肉や魚介類などの食品だけでなく、衣類や生活用品も動物性のものを使わない人もいます。ビーガンの思想は動物愛護が基礎になっているためです。
一般に、「ベジタリアンでいることは健康に良い」と言われています。がん、高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病や認知症などを引き起こすリスクが減少するという研究結果も報告されています。
しかし、食生活が極端になってしまうことから、かえって健康に良くないという考えも指摘されており、一概に健康に良いとは言い切れません。
完全菜食主義のビーガンにとって特に懸念される微量栄養素には、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、長鎖n-3(オメガ-3)脂肪酸のDHAが含まれます。ビーガンがこれらの栄養素で強化された食品を定期的に摂取しない限り、適切なサプリメントを摂取する必要があります。
n-3(オメガ-3)脂肪酸にはα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサンエン酸(DHA)があります。
α-リノレン酸は炭素数18で二重結合は3個です。EPAは炭素数20で二重結合は5個です。DHAは炭素数22で二重結合は6個です。
α-リノレン酸は亜麻の種子(亜麻仁)の油の亜麻仁油、荏胡麻(エゴマ)の種子のエゴマ油(紫蘇油)など植物油に多く含まれます。
一方、EPAとDHAは微細藻類や魚に多く含まれ、植物にはほとんど含まれません。体内でα-リノレン酸からEPAには多少の変換はありますが、人間ではα-リノレン酸を摂取してもDHAにはほとんど変換されません。従って、完全菜食主義のビーガンの人はDHAが不足することが指摘されています。(下図)
図:α-リノレン酸(①)は亜麻の種子や荏胡麻(エゴマ)の種子など植物油に含まれる(②)。エイコサペンタエン酸(③)とドコサヘキサエン酸(④)は微細藻類(⑤)や魚類(⑥)に多く含まれるが植物油には含まれない。α-リノレン酸を摂取すると一部はエイコサペンタエン酸に変換される(⑦)。しかしドコサヘキサエン酸への変換は極めて少ない(⑧)。したがって、完全菜食主義の人はドコサヘキサエン酸が不足しやすい。
ある報告によると、ビーガン食にはDHAが含まれておらず、乳製品と卵を含む菜食主義者の食事は1日約0.02 g のDHAしか含まれていません。
通常、DHAは1日に200mg(0.2g)から300mg(0.3g)が最低必要と言われています。菜食主義の妊婦の場合、胎児のDHA不足は神経精神機能に障害を起こす可能性があります。DHAは人間の体内でほとんど合成できませんが、中枢神経系と網膜の主要な構造脂肪酸であり、その利用可能性は脳の発達に不可欠です。
【菜食主義の人は微細藻類由来DHAのサプリメントの摂取が推奨されている】
前述のように、魚に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は魚の体内で合成されているのではありません。EPAとDHAを作っているのは微細藻類です。プランクトンが微細藻類を食べ、小型魚がプランクトンを食べ、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖によって、サバやサンマやカツオやマグロなどの魚油にEPAやDHAが蓄積しています。人間はこれらの魚を食べることによってEPAやDHAを摂取しています。
菜食主義の人は魚を食べることができません。魚由来のDHA/EPAも動物由来という理由で拒否される場合もあります。しかし、微細藻類は植物ですので、微細藻類由来のDHA/EPAの摂取は抵抗がありません。菜食主義者のDHA補充の目的で微細藻類のDHAが注目されています。以下のような論文があります。
【要旨】
現在、α-リノレン酸は菜食主義者における最も広く使用されているオメガ3多価不飽和脂肪酸であるが、人間の健康に強く関連しているエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に変換されるのはごくわずかである。
現在、EPAとDHAの主な食事源は魚油であるが、魚油は菜食主義者には使用できない。
代替の供給源として、亜麻仁、クルミ、藻油などが含まれるが、EPAおよびDHAへの変換を検討する必要がある。この系統的レビューは、菜食主義における長鎖オメガ-3(n-3)多価不飽和脂肪酸のバイオアベイラビリティ(生体利用能)を調べる介入研究からの情報を得ることを目的としている。
過去10年間に発表された10の主要な論文のうち、7つの論文ではナッツや種子由来の油からのα-リノレンがDHAにまったく変換されなかったことを報告していた。3つの研究は、微細藻類由来油の摂取が血液中の赤血球と血漿DHAの有意な増加につながることを示した。
菜食主義者の長鎖オメガ-3(n-3)多価不飽和脂肪酸の代替供給源に最適な投与量を特定し、これらを毎日の食事にどのように利用できるかを特定するために、さらなる研究が必要である。藻油の潜在的な役割は特に有望であり、さらなる研究が必要な分野である。
植物油に含まれるα-リノレンがドコサヘキサンエン酸(DHA)にほとんど変換されないこと、微細藻類由来油の摂取が血液中の赤血球と血漿DHAの有意な増加につながることを指摘しています。以下のような報告もあります。
【要旨】
背景:菜食主義者は、魚や動物製品を消費する雑食性の集団よりも、事前に形成されたドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取量が少ない可能性がある。そのため、菜食主義者の人々は、水産物を消費する人々よりもオメガ3指数が最大60%低い。
海洋食物連鎖におけるDHAの主要な生産者である藻類は、海洋または動物製品を消費しない人々にDHAの代替供給源を提供する。この系統的レビューは、藻類型のDHAの補給と菜食主義者集団におけるDHA濃度の増加との関係の証拠を調べることを目的としている。
方法:SCOPUS、Science Direct、およびWeb of Scienceの科学データベースを検索して、菜食主義者(ビーガンを含む)の集団による藻類DHA消費の影響を評価する関連研究を特定した。
結果:4件のランダム化比較試験と2件の前向きコホート研究が選択基準を満たした。含まれているすべての研究は、DHAの藻類源が、ベジタリアン集団のDHA濃度(血漿、血清、血小板、赤血球画分を含む)、およびオメガ3指数を大幅に改善することを報告した。これまでの研究数が少ないため、時間または用量反応は明らかではなかった。
結論:将来の研究では、藻類のDHAを使用して、菜食主義者の長鎖n-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に対処し、これらの個人の潜在的な生理学的および健康上の改善を調査する必要がある。
菜食主義者のDHA不足を解決する方法として微細藻類由来の油が有効という提案です。
微細藻類由来オイルを補給すると菜食主義者の心臓病のリスクを低下できることが報告されています。以下のような報告があります。
この二重盲検試験では、エイコサペンタエン酸(EPA)を含まない藻類由来のドコサヘキサエン酸(DHA)の菜食主義者の心臓病危険因子に対する影響を検討しています。
健康な菜食主義者(男性12人、女性12人)は、DHA(1.62 g / 日)またはコーン油のいずれかを6週間毎日摂取しました。
DHAの摂取により、血清リン脂質のDHAレベルが246%(脂肪酸100g当たり2.4gから8.3 g)、血小板リン脂質のDHAレベルが225%(脂肪酸100g当たり1.2gから3.9 g)増加しました。
EPAレベルは、血清リン脂質で117%(脂肪酸100g当たり0.57gから1.3 g)、血小板リン脂質で176%(脂肪酸100g当たり0.21gから0,58g)増加しました。血清および血小板分析に基づいて、DHAからEPAへの逆変換率はそれぞれ11.3および12.0%でした。
血清および血小板リン脂質中のアラキドン酸レベルは減少しました。DHA補給による総コレステロールおよびLDLコレステロールの絶対量に有意な変化は見られませんでしたが、総コレステロール:HDL-コレステロール比、LDL-コレステロール:HDL-コレステロール比および血清トリグリセリド濃度は時間の経過とともに中程度の減少を示しました。
結論として、DHAサプリメントは(血清と血小板の)DHAステータスを著しく高め、心臓病のリスクを低下させることが示唆されました。
菜食主義者だけでなく、通常食の人も微細藻類由来の油の有用性が指摘されています。それは海洋汚染が深刻になり、メチル水銀やマイクロプラスチックなどによる魚の汚染が、魚食を制限するレベルまで悪化しているからです。
日本の厚生労働省や米国食品医薬品局は、マグロなどの大型魚に水銀濃度が高い例をあげ、妊婦や子供は食べないようにと呼びかけています。
【メチル水銀は子供の脳の発達を損なう】
昨今の環境汚染によって、有毒なミネラルが大型に魚に蓄積しているという問題が浮上しています。
長鎖多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)の豊富な食事は、過去100万年から200万年の間における人類の知能の急速な発達を維持するための絶対的な要件でした。人類の脳は、DHAを多く含む魚を食べるようになって大きくなったと考えられています。DHAは人間の体内でほとんど合成できませんが、中枢神経系と網膜の主要な構造脂肪酸であり、その利用可能性は脳の発達に不可欠です。
胎児および乳児の発育の段階でのDHAの欠乏は、脳の発達を損なう原因となっています。DHA摂取の少ない母親の乳児は、精神運動機能や立体視力の発達における異常が多くみられることが示されています。
DHAの摂取不足は子供の自閉症スペクトラム障害や広汎性発達障害と関連していることが指摘されています。
英国脳栄養化学研究所の教授マイケル・クロフォード博士は「日本人の子供が欧米人の子供と比較して知能指数が高いのは、日本人が昔から魚を多く食べてきた食習慣によると考えられる」と1989年に発表して話題となりました。
さらに、DHAはがんや循環器疾患の予防や治療に有効です。認知症やアルツハイマー病などの有効な治療法の無い神経変性疾患の改善にも効果が期待できます。したがって、DHAの摂取を増やす目的で魚を多く食べることは、脳機能の発達促進や健康増進や病気の予防に役立ちます。
しかし一方、海洋汚染の進行によって、メチル水銀やマイクロプラスチックなど有害物質が魚に蓄積し、魚の多食の危険性も指摘されています。
水俣病は、メチル水銀化合物に汚染された魚介類を長期間たくさん食べることによって起きる中毒性の神経系疾患です。発生源は化学工場で、工場排水に含まれていたメチル水銀が海や川に流れ出し魚などに蓄積し、それを食べた人が発症しました。
メチル水銀は毒性が強く、血液により脳に運ばれ、やがて人体に著しい障害を与えます。また、母親が妊娠中にメチル水銀を体内に多く取り込むと、胎児の脳に障害を与えます。
魚は自然界に存在する水銀を食物連鎖の過程で体内に蓄積するため、日本人の水銀摂取の80%以上が魚介類由来となっています。魚摂取が増えるとメチル水銀の体内摂取が増え、胎児の脳の発育に悪影響を及ぼすことが明らかになり、厚生労働省は平成15年(2003年)に妊婦の魚摂取に関する注意事項を公表しています。つまり、妊婦や小児は魚は多く食べてはいけない食品になっています。
【気候変動は魚の有機水銀汚染を加速している】
現在、人間の活動の直接の結果として、毎年推定2,220トンの水銀が環境に放出されています。これらの排出量は、現在の水銀排出量全体の約30%を占めています。現在の水銀排出量の約60%は、以前に土壌や水に堆積した人為的水銀の環境リサイクルに起因しています。残りの10%は火山などの自然源から来ています。
石炭の燃焼と「職人による小規模の金採掘」は、現在の水銀排出の2つの主要な人間の発生源です。すべての石炭には水銀が含まれており、石炭が燃やされると、水銀は大気中に放出され、最終的には川、湖、海に沈殿するまで長距離を移動することができます。
職人による小規模の金採掘では、水銀を使用してアマルガムを形成し、金を岩石から分離します。アマルガムは加熱されて水銀を沸騰させ、金を残します。この際、気化と流出した水銀の水路への流出によって水銀が環境に放出されます。これらの発生源から環境に放出された無機水銀は、河川や湖や海では、海洋微生物によって強力な神経毒性物質である有機形態の水銀であるメチル水銀に変換されます。
食物連鎖のなかでメチル水銀が生物濃縮され、私たちが食べる魚を汚染します。魚のメチル水銀濃度が増えていることが報告されています。
石炭火力発電所が減って来たアメリカやヨーロッパに囲まれる北大西洋でクロマグロの水銀汚染が改善されてきたことが報告されています。
しかし一方で、温暖化によって降雨量が増え、地上にある自然有機物が水の流れを通して海へと移動し、魚の水銀汚染が増えていることが指摘されています。以下のような論文があります。
【要旨】
この論文では、気候変動ストレス要因(温度、海洋酸性化、海面上昇、低酸素症)が河口および海洋生物相(藻類、甲殻類、軟体動物、サンゴ、魚)に与える影響の概要を説明する。
また、河口および海洋生物相における汚染物質の移動、汚染物質の毒性(成長、繁殖、死亡率への影響)および汚染物質の生体内蓄積に対する可能性のある相互作用の影響(気候変動ストレッサーと汚染物質の複合影響)を評価した。
気温の上昇と極端な出来事は、河口と海洋環境における疎水性と親水性の両方の汚染物質の放出、分解、輸送、および移動を促進する可能性がある。
入手可能な汚染物質の毒性傾向データと情報に基づいて、いくつかの高リスク汚染物質の毒性は、気候変動ストレス要因のレベルの増加とともに増加する可能性があることが明らかになった。気候変動と汚染物質の相互作用の影響は、シーフード生物における汚染物質の生体内蓄積を促進する可能性がある。
気候変動と汚染物質の現実的な相互作用の影響に関する文献は不足している。したがって、将来の研究は、河口と海洋生物相に対する気候変動のストレッサー要因と汚染物質の複合効果に向けられるべきである。河口および海洋生物相を保護するには、温室効果ガスの排出(気候変動を引き起こす)と化学汚染物質の両方によって引き起こされる汚染防止のための持続可能な解決策が必要である。
地球温暖化は降雨量を増やし、汚染物質の陸から水への移動を促進し、河口および海洋生物相における汚染物質が増え可能性があります。つまり、温暖化の影響で近海魚に水銀汚染が進む可能性を指摘しています。以下のような論文もあります。
スウェーデンの研究者たちが地球温暖化で進む近海の水銀汚染について報告しています。
この論文によれば、温暖化によって降雨量が増え、地上にある自然有機物が水の流れを通して海へと移動します。海水に移動する自然有機物は今世紀末までに15%~20%増えるとされ、移動した自然有機物のなかには水銀も含まれます。それが微生物によって水俣病の原因となったメチル水銀へと変化します。食物連鎖のなかでメチル水銀が生物濃縮され、私たちが食べる魚を汚染します。魚の水銀濃度がこれまでの7倍も増える可能性もあると指摘しています。
最近は、世界中の至る所で大雨が起こっています。この大雨は、陸地の水銀を海洋に流し込み、海洋と魚の水銀汚染を促進しています。
【培養した微細藻類由来DHAが注目されている】
がんや認知症や循環器疾患の予防や治療にDHAやEPAが有効であることは確立しています。従って、DHAやEPAの多い脂の乗った魚を多く食べることが推奨されています。しかし、魚のメチル水銀やマイクロプラスチックなど海洋汚染に由来する有害物質の魚への蓄積の問題が、魚食を安易に推奨できない事態になっています。
メチル水銀は毒性が強く、血液により脳に運ばれ、やがて人体に著しい障害を与えます。母親が妊娠中にメチル水銀を体内に取り込んだことにより、胎児の脳に障害を与えることもあります。
魚は自然界に存在する水銀を食物連鎖の過程で体内に蓄積するため、日本人の水銀摂取の80%以上が魚介類由来となっています。魚摂取が増えるとメチル水銀の体内摂取が増え、胎児の脳の発育に悪影響を及ぼすことが明らかになり、厚生労働省は平成15年(2003年)に妊婦の魚摂取に関する注意事項を公表しています。つまり、妊婦や小児は魚を多く食べてはいけないと言っています。
海洋でDHAとEPAを作っている微細藻類を培養して、培養した微細藻類からDHAとEPAを取り出せば、汚染物質がフリーのDHA/EPAを製造できます。閉鎖環境での培養のため、汚染の心配がありません。植物由来なので菜食主義者も抵抗なく摂取できます。(下図)
図:オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は微細藻類が合成している(①)。プランクトン(②)が微細藻類を食べ、小型魚(③)がプランクトンを食べ、大型魚(④)が小型魚を食べるという食物連鎖によって、魚油にEPAやDHAが蓄積している。人間は魚油からDHAとEPAを摂取している(⑤)。環境中の水銀(⑥)が魚に取り込まれてメチル水銀になって魚に蓄積する(⑦)。DHAとEPAを産生している微細藻類をタンク培養して油を抽出すると(⑧)、汚染物質がフリーで、植物由来のDHA/EPAが製造できる(⑨)。
がん治療には1日3から5グラムのDHAの摂取が有効であることが多くの研究で示されています。通常の魚油の場合、DHA含有量は10%から20%程度です。1日5グラムのDHAを摂取するには25gから50gの魚油の摂取が必要になります。
そこで、微細藻類の中でもDHA含有量が極めて多いシゾキトリウム(Schizochytrium sp.)をタンク培養して製造したDHA(フランス製)を原料にした「微細藻類由来オイル(DHA含有量51%)」を製造してがん治療に使用しています。