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183)炎症誘発性の食事が寿命を短縮する
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術183
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【炎症には急性と慢性がある】
炎症とは、体が感染や外傷、化学物質、免疫反応などによって損傷を受けた際に、体内で発生する防御反応のことです。損傷を修復し、感染を防ぎ、回復を促進するための生体反応です。
炎症は急性と慢性の2つに分けられます。
急性炎症は軽い切り傷、風邪、急性の咽頭炎など、外傷や細菌感染や急性の化学物質の暴露などで起こります。初期の免疫応答として、赤み、腫れ、熱、痛みが伴います。体の防御機構が迅速に反応し、損傷を修復しようとします。通常は数日から数週間で収束します。
慢性炎症は長期的な刺激や、持続的な免疫系の異常(例: 自己免疫疾患、慢性の感染、持続的な化学物質の暴露)で起こります。炎症が持続することで、組織の変性・壊死や線維化が進行し、さまざまな慢性疾患(動脈硬化、がんなど)を引き起こす可能性があります。
急性炎症は通常、体の防御反応として有益ですが、慢性炎症は老化や発がんを促進し、さまざまな健康問題を引き起こす原因となります。
【慢性炎症が体の老化を促進する】
加齢は様々な慢性疾患の発症の最大のリスク要因になっています。加齢とともに、関節炎、2型糖尿病、心血管疾患、腎臓病、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性、虚弱(frailty)、サルコペニア(筋肉減少症)、呼吸器疾患、ある種のがんなど様々な慢性疾患の発症頻度が高まってきます。
このような加齢関連疾患の発症に慢性炎症が関わっていることは広く認識されています。慢性炎症は体の老化促進し、加齢関連疾患の発症を促進し、悪化させます。このように、慢性炎症と加齢関連疾患との間には強い関連があり、悪循環を形成しています。
慢性炎症を引き起こしている原因を除去することによって、老化や加齢関連の慢性疾患の発症や進展を遅延させることができると考えられています。
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【慢性炎症はがんの発生と老化を促進し、寿命を短縮する】
通常、急性炎症は数日で収束します。しかし、何らかの原因によって炎症が数ヶ月あるいは数年間続く場合があります。この慢性炎症は、自己免疫疾患、糖尿病、動脈硬化、変形性関節症など様々な原因で起こります。
慢性炎症は体内で活性酸素の産生を増やし、がんや生活習慣病の発生を促進し、さらに老化スピードを加速し、寿命を短縮することガ多くの研究で明らかになっています。
体内の炎症の指標として血液中の白血球数があります。白血球は炎症反応で動員され、血液中に増えます。血液中の白血球数とがん死亡リスクが正の相関を示すことが複数の疫学研究で報告されています。以下のような報告があります。
WBC count and the risk of cancer mortality in a national sample of U.S. adults: results from the Second National Health and Nutrition Examination Survey mortality study.(米国成人の全国サンプルにおける白血球数とがん死亡リスク:第2回国民健康栄養調査死亡率調査の結果)Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004 Jun;13(6):1052-6.
この研究では、1976年から1980年までの30〜74歳の7,674人の第2回国民健康栄養調査(NHANES II)の参加者を対象に、1992年12月31日までの死亡率の追跡調査を行なっています。
年齢、性別、人種を調整した後、白血球数の上昇と総がん死亡率のリスクの上昇との間に関連性が観察されました。白血球数が上位4分の1の群と下位4分の1の群のがん死亡の相対リスクは2.23(95%信頼区間:1.53-3.23)でした。
喫煙、身体活動、肥満度指数、アルコール摂取量、教育、ヘマトクリット値、および糖尿病を調整した後でも、白血球数と総がん死亡率との関連は有意のままでした。白血球数が上位4分の1の群と下位4分の1の群のがん死亡の相対リスクは1.66(95%信頼区間:1.08-2.56)でした。
これは米国の疫学研究ですが、以下の論文はオーストラリアからの報告です。
Association between circulating white blood cell count and cancer mortality: a population-based cohort study.(循環白血球数とがん死亡率との関連:人口ベースのコホート研究)Arch Intern Med. 2006 Jan 23;166(2):188-94.
オーストラリアのシドニーの西にあるブルーマウンテン地域での登録時(1992年1月1日から1994年12月31日)でがんのない49歳から84歳の3189人の人口ベースのコホート研究です。主要評価項目は、2001年12月31日時点での全てのがんによる死亡率です。
その結果、循環白血球数が高いほど、すべてのがんによる死亡率が高いことが示されました。
年齢、性別、教育、BMI、ヘマトクリットレベル、アルコール消費量、身体的不活動、喫煙、毎週のアスピリン使用、糖尿病または空腹時高血糖状態、および空腹時血糖値を調整した比例ハザードモデルでは、すべてのがんの死亡率の相対リスクは、循環白血球数が上位4分の1の群(白血球数が7400細胞/ μL以上)と下位4分の1の群(白血球数が5300細胞/ μL以下)を比較した死亡率のハザード比は1.73(95%信頼区間:1.18-2.55)でした。
つまり、循環白血球数が高いほど、その後のがん死亡率が高いということです。循環白血球数は体内での炎症反応のレベルの指標と考えられるので、炎症ががん死亡率を高めることを意味しています。
【食事の内容が体内の慢性炎症状態に影響する】
免疫応答や炎症反応は感染症などに対する体の防御システムとして重要ですが、慢性的な軽度の炎症が老化を促進しています。
この体内の慢性炎症の状態は、食事の内容によって影響を受けることが明らかになっています。つまり、体内の炎症性サイトカインを増やすような食事成分や、逆に炎症を抑制するような食事成分が知られており、炎症を抑制する食事が老化を抑制し、寿命を延ばすことも明らかになっています。
例えば、体内の慢性炎症はうつ症状やうつ病のリスクを高めます。慢性炎症を軽減する食事がうつ症状の軽減に役立つことが知られています。
魚を多く食べるとうつ病を発症するリスクが低下することが報告されています。これは魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の抗炎症作用による効果だと考えられています。
また、野菜や水溶性食物繊維の摂取量が多いとうつ病のリスクが低下することが報告されています。これは野菜に含まれるフラボノイドや水溶性食物繊維が抗炎症作用を有するからだと考えられています。
このように、食事成分の中には炎症を抑制するものと、炎症を促進するものがあることが明らかになっています。
食事が体内の炎症レベルに与える影響を評価するための指標として食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index:DII)があります。
Dietary Inflammatory Index(DII)は、食品の栄養成分が炎症にどのように影響するかを考慮して、食事全体の炎症リスクを評価します。DIIのスコアは、特定の食品が炎症を促進するか抑制するかに基づいて計算されます。高いDIIスコアは、炎症を促進する可能性が高い食事を示し、低いDIIスコアは、炎症を抑制する可能性がある食事を示します。
高いDIIスコアは、慢性炎症や関連する健康問題(例:心血管疾患、糖尿病、がん)のリスクを高める可能性があります。逆に、低いDIIスコアの食事は、炎症を抑える効果があるとされています。食事性炎症指数(DIIスコア)を高める食品として以下のようなものがあります。
1. 加工食品:加工肉(例:ソーセージ、ベーコン)、ファストフード、スナック菓子など。
2. 高糖分の食品:砂糖が多く含まれる飲料(例:ソフトドリンク、エナジードリンク)、スイーツ、デザートなど。
3. 高脂肪食品:特に飽和脂肪酸を多く含む食品(例:バター、ラード、トランス脂肪を含むマーガリン)。
4. 精製穀物:白パン、白米、白いパスタなど、精製されて栄養素が取り除かれた穀物製品。
5. 高塩分食品:塩分が多い食品(例:インスタント食品、塩辛いスナック、加工された食品など)。
6. 赤肉と加工肉:牛肉や豚肉、特に調理過程で発生する有害物質や添加物を含む加工肉。
これらの食品は、体内での炎症を引き起こす可能性があり、その結果、慢性疾患のリスクを高めることがあるとされています。(下図)
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【抗炎症食を多く食べると寿命が延びる】
食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index:DII)は、食事が炎症状態に与える影響を多くの文献に基づき総合的に評価するための指標で、2011年から2012年にかけてサウスカロライナ大学(米国)のShivappaらにより研究開発されました。
そこでは、2010年12月までに発行された約6,500件の論文をスクリーニングしたうち、適格な1,943件から特定した45種類の栄養素や食品の摂取量について、炎症促進性あるいは抗炎症性をスコア化しています。
対象としている生体内の炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRPの6種類です。これらが増加するものを(+1)、減少するものを(-1)、影響がないものは(0、ゼロ)として採点しています。
このスコアと個人の摂取量を掛け合わせて算出した値が、正なら炎症を促進する食事、逆に負なら炎症を抑制する食事と評価をします。
高いDIIスコアは、炎症を促進する可能性が高い食事を示し、低いDIIスコアは、炎症を抑制する可能性がある食事を示します。高いDIIスコアは、慢性炎症や関連する健康問題(例:心血管疾患、糖尿病、がん)のリスクを高める可能性があります。逆に、低いDIIスコアの食事は、炎症を抑える効果があるとされています。
炎症を抑えるためには、抗炎症作用がある食品を多く摂取することが推奨されます。食事性炎症指数(DIIスコア)が低い食品は、体内の炎症を抑える可能性があるとされています。具体的には、以下のような食品がDIIスコアを低める傾向があります:
1. 果物:特にベリー類(ブルーベリー、ストロベリー)、リンゴ、オレンジ、キウイなどは抗酸化物質とビタミンCが豊富で、炎症を抑える作用があります。
2. 野菜:特に緑葉野菜(ほうれん草、ケール、ブロッコリー)、トマト、ピーマンなど。これらはビタミン、ミネラル、抗酸化物質が豊富で、炎症を軽減する助けになります。ブロッコリーなどのアブラナ科野菜の摂取が、全身の慢性炎症と死亡率の低下に関連していたことが、米国・サウスフロリダ大学の研究で報告されています。
3. 全粒穀物:玄米、全粒パン、オートミールなど。精製されていないため、繊維や栄養素が多く含まれており、炎症を抑える効果があります。
4. ナッツと種子:アーモンド、くるみ、チアシード、フラックスシード(亜麻仁)など。これらは良質な脂肪、抗炎症作用のある成分が含まれています。
5. 脂肪の多い魚:サーモン、マグロ、サバなどの魚は、オメガ-3脂肪酸が豊富で、炎症を抑える効果があります。
6. 豆類とキノコ類:豆類は食物繊維と植物性タンパク質が豊富で、炎症を抑える助けになります。豆類とキノコ類に含まれるポリアミンに慢性炎症を抑える働きがある可能性が示唆されています
7. ハーブとスパイス:ターメリック(クルクミン)、ジンジャー(生姜)、シナモンなど。これらは抗炎症作用を持つ成分が含まれています。
8. 健康的な脂肪:オリーブオイルやアボカドなど、オレイン酸を含む食品。これらは炎症を抑えるのに役立ちます。
これらの食品は、抗炎症作用のある栄養素や成分を多く含んでおり、体内の炎症を軽減するのに役立つとされています。健康的な食事を心がけることで、炎症を抑え、全体的な健康を改善することができます。
以上から、野菜や果物、ナッツ、豆類、全粒粉の穀物、オメガ3系多価不飽和脂肪酸(脂の多い魚)、オレイン酸(オリーブオイル、アボカド)が多く、赤身肉、加工肉、揚げ物、スナック菓子など高糖分の食品、精製穀物の少ない食事は体内の炎症状態を低下すると言えます。このような炎症を低下させる食事を抗炎症食と言います。
このような食事が、老化の進行を抑え、寿命を延ばします。その逆のものを多く食べれば、老化が速く進行し、寿命が短くなります。
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【米国成人の60%は炎症誘発性の食生活】
米国成人の多くが、炎症を引き起こす食生活を送っていて、そのことが、がんや心臓病、その他の深刻な健康リスクを押し上げている可能性のあることが米国オハイオ州立大学から報告されています。以下のような報告があります。
Socio-demographic differences in the dietary inflammatory index from National Health and Nutrition Examination Survey 2005-2018: a comparison of multiple imputation versus complete case analysis.(2005年から2018年までの国民健康栄養調査における食事性炎症指数の社会人口学的差異:多重代入法と完全症例分析の比較)Public Health Nutr. 2024 Sep 27;27(1):e184.
この報告では、2005~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の成人34,547人(平均年齢47.8歳、女性51.3%)のデータが用いられました。過去24時間以内に摂取したものを思い出すという方法により食事内容を調査しており、その結果に基づき、エネルギー調整食事性炎症指数(energy-adjusted dietary inflammatory index;E-DII)を算出しました。
エネルギー調整食事性炎症指数(Energy-Adjusted Dietary Inflammatory Index, E-DII)は、食事が引き起こす炎症の度合いを評価するための指標である食事性炎症指数(DIIスコア)を食事の総エネルギー(カロリー)摂取量で調整したものです。
これにより、食事の炎症指数が「摂取するカロリー量」だけでなく、「食事の質(炎症を引き起こすか、抑えるか)」に基づいて評価されるようになります。エネルギー摂取量を調整することで、食事の炎症性が過剰なカロリー摂取の影響を受けないようにするのです。
その結果、「米国の成人の57%が炎症を起こしやすい食生活を送っており、その割合は男性、若年者、黒人、教育歴が短い人、収入の低い人でより高かった」ということを明らかにしています。
エネルギー調整食事性炎症指数(E-DII)は、n-3系脂肪酸、フラボノイド、アルコール飲料、ニンニクなど、45種類の食品や栄養素の摂取量を元に算出されます。結果は-9~+8の範囲にスコア化され、0未満は炎症を抑制する食事、0以上は炎症を誘発する食事であることを意味します。
解析対象者のE-DIIは平均0.44(95%信頼区間0.39~0.49)と0を上回り、米国成人は全体的に炎症を誘発しやすい食生活を送っていることが示されました。また、全体の57%は炎症誘発性の食生活、34%は抗炎症性の食生活であり、9%は中間的な食生活であることが分かりました。
果物や野菜をたくさん食べていたとしても、アルコールや赤肉を取り過ぎていれば、全体的な食生活は炎症誘発性に傾きます。健康増進の手段として、抗炎症作用のある食品を増やし、炎症促進性の食品を減らすというバランスが重要です。野菜や果物を多く摂取しても、ステーキやケーキやお菓子を多く摂取していたら、野菜や果物の健康作用は消滅するということです。
全粒穀物、緑黄色野菜、サーモンなどの脂肪分の多い魚、豆類、ベリー類などが抗炎症作用のある食品とされており、これらはいずれも、健康的な食事スタイルとして知られる地中海食で積極的に摂取される食品です。ニンニク、ショウガ、ウコン、緑茶、紅茶なども抗炎症作用を有しています。
【世の中で推奨されている食品ガイドは科学から乖離している】
世の中で推奨されている食事は、健康を増進する科学的根拠に100%基づくものではありません。動物性食品や加工食品・超加工食品を販売する大企業の思惑がかなり入っています。
その一番良い例が、1977年の米国におけるマクガバン報告です。その年、ジョージ・マクガバン上院議員と彼の食品諮問委員会は、米国における慢性疾患(心臓病と糖尿病)の罹患率の増加に対応して、最初の食事目標を発表しました。
この米国の食品目標の初版では、飽和脂肪を減らすために肉、乳製品、卵の摂取を減らすこと、および塩分と砂糖の摂取を減らすことを強く推奨していました。
しかし、この内容にロビイストは激しく反応し、報告書の文言を変更して赤身の肉の消費を増やし、「飽和脂肪の摂取を減らす肉、鶏肉、魚を選ぶ」ことに成功しました。
ロビイスト(lobbyist)とは、特定の利益団体や企業、団体の代表者として、政治家や政府関係者に対して影響力を行使し、政策や立法に関する意思決定を自らの側に有利に導こうとする人を指します。
つまり、企業や政治の利益によって食品ガイドが科学から乖離したのです。1977年は、米国において公衆衛生(人間の健康)の保護よりも企業の健康と富の保護が優先されるようになった年となりました。
それ以降、科学でなく、企業のロビー活動と圧力に屈した米国の食品ガイドラインを反映した食品ガイドラインが世界中で登場し始めました。その結果、より健康的で伝統的な食事が、米国のそれほど健康でない食事に置き換えられるようになりました。
【食事は不健康な方向に進化している】
栄養は間違いなく健康の基盤です。食事の内容が発症に影響する疾患として、心血管疾患、いくつかのがん、高血圧、脳卒中、肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪性肝疾患、腎疾患、認知症、アルツハイマー病などがあります。米国では、低品質で肥満を引き起こす食事が喫煙を上回り、早死にする主な原因となっています。
1945年の第二次世界大戦の終結以来、世界経済は飛躍的に成長しました。それと並行して、栄養に関する2つの傾向が生まれました。それは、動物由来製品の消費量の増加と、加工食品および超加工食品の消費の増加です。
このような食事は、酸化促進性および炎症促進性であり、人体の健康に非常に有害ないくつかの特性を持っています。
米国に限らず日本でも、炎症誘発性の食事が好まれ、増えています。最近の子供の食事を見ると、炎症誘発性の食品が大半を占めています。
幼少期からこのような炎症誘発性の食習慣を続けることで生じる病理学的影響は蓄積され、後年になって様々な病気の発症を促進します。生活習慣病やがんの発生率を減らすには、子供の頃からの食事、特に食事性炎症指数に注意すべきです。慢性的な酸化ストレスと全身性炎症は、多くの疾患を引き起こし、寿命を短くする原因になります。