167)テロメア短縮を阻止して寿命を延ばす方法
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術137
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【正常細胞は分裂できる回数に限界がある】
ヒトの正常細胞の分裂回数は50回程度が限界と言われています。1960年代にアメリカの生物学者レオナルド・ヘイフリック(Leonard Hayflick)は、培養した正常細胞の分裂回数には限界があることを発見しました。人間の胎児から取り出した線維芽細胞を培養すると次第に分裂の速度が落ちて、約50回の分裂回数が限界で、いくら栄養物質や増殖を促進する物質を加えても分裂することはできずに最後は死んでしまいます。
一方、成人の人間から取り出した線維芽細胞の分裂できる回数はその年齢に応じて減少していることも明らかになっています。すなわち、細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は死を向かえるプログラムが働き出すのです。
このように、正常な細胞が分裂できる回数には限界があることを「ヘイフリックの限界(Hayflick Limit)」と言います。ヒトの正常細胞の分裂回数は約50回が限界ということで、それ以上は分裂できないので、寿命があるということになります。
【細胞分裂するたびにDNAのテロメアが短くなる】
細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は分裂できなくなります。細胞の分裂回数に限界を設けているのがテロメアです。
染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、なくなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。
DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。
DNA鎖を複製するDNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。
短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。細胞分裂を止めた老化細胞が増えると、体の諸臓器の機能が低下します。
つまり、テロメアとは「命の回数券」のようなものであり、分裂する度に回数券を一枚づつちぎって使い、やがて使い切ってしまうと細胞の寿命がくるというわけです。
ちなみに生殖細胞や幹細胞(骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。
抗老化の研究分野では、テロメラーゼの活性を高めて幹細胞の分裂能を高め、組織や臓器の老化による機能低下を抑制することを目的にした治療法が研究されています。一方、がん治療の領域では、がん細胞のテロメラーゼ活性を阻害する薬を開発して、がん細胞の無限の増殖能を阻止する治療が研究されています。
【テロメラーゼ活性がテロメアを再生する】
細胞が分裂して増殖するには自身のDNAを複製する必要があります。このDNAポリメラーゼによるDNA複製の仕組みではDNA鎖の両端(テロメアDNA)が完全には複製されず、徐々に失われていきます。通常、1回の細胞分裂で、テロメアから50から100塩基分が失われてテロメアが短縮していきます。テロメアの短縮が限界に達すると、細胞はもはや分裂することが出来なくなります。
多くのがん細胞ではテロメラーゼ(telomerase)と呼ばれるテロメア合成酵素が活性化しており、この酵素の働きによってテロメアが安定に維持されます。通常であれば、細胞分裂するたびにテロメアが短縮するのですが、がん細胞ではテロメラーゼ活性を亢進して、テロメアを再生して短縮を阻止しています。がん細胞が無限に分裂出来るのはこのためです。
生殖細胞(卵子や精子)や組織幹細胞もテロメラーゼ活性があり、無限に増殖できます。
テロメラーゼ(telomerase)はテロメアの末端にTTAGGGのリピート配列を付加することで染色体DNAの末端を維持する酵素です。テロメラーゼは逆転写酵素活性を持つヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase :TERT)と、テロメアリピートの鋳型として機能するRNA要素(テロメラーゼRNA要素:TERC)から構成されます。
テロメラーゼ活性が低い細胞は細胞分裂ごとにテロメアの短縮が進み、やがてヘイフリック限界と呼ばれる細胞分裂の停止が起きます。テロメラーゼは、ヒトでは生殖細胞・幹細胞・がん細胞などでの活性が認められ、それらの細胞が分裂を継続できる性質に関与しています。このことから、テロメラーゼ活性を抑制することによるがん治療法となり、活性を高めることは細胞の分裂寿命の延長による抗老化療法となります。
【ドコサヘキサエン酸はテロメア短縮を抑制する】
「ドコサヘキサエン酸(DHA)の継続的摂取が寿命を延ばす」、「血中のDHA濃度が高いと長生きする」、「DNAはテロメアを延ばす」といった報告が増えています。例えば、以下のような論文があります。
この研究では、2,494 人の米国人男性を対象に、 総オメガ-3 または総オメガ-6 脂肪酸摂取量と白血球テロメア長との関連を調べました。その結果、ドコサヘキサエン酸(DHA) の摂取が白血球テロメア長と正の関連があることが示されました。
ツナ缶を食べた男性は、食べなかった男性よりも白血球テロメア長が長いことが示されました。この論文の結論は、「DHA の摂取量が多く、マグロの缶詰の消費量が多いほど、白血球テロメア長が長くなる」となっています。
白血球テロメア長は、オメガ3(n-3)不飽和脂肪酸やオメガ6(n-6)の総摂取量では無く、ドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取量が多いほど長いという結果です。テロメアが長いほど、残された寿命が長いと一般に考えられていますので、DHAの摂取あるいはDHAを多く含むマグロの缶詰の摂取量が多いと、長生きするという結果です。以下のような報告もあります。
シンガポールの中国人を対象としたこの前向きケースコントロール研究では、血漿オメガ6:オメガ3比と白血球テロメア長および 冠動脈疾患リスクとの逆相関が観察されました。この関連は、オメガ6不飽和脂肪酸ではなく、オメガ3不飽和脂肪酸の摂取量の増加によって引き起こされました。特定の n-3不飽和脂肪酸と白血球テロメア長との関連性を調べると、EPA と DHA の両方の血漿レベルが高いほど、白血球テロメア長が長くなり、冠動脈疾患リスクが低下することがわかりました。
油に多く含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)がテロメアの短縮を抑制して寿命を延ばす効果は多数報告されています。以下のような報告もあります。
この臨床試験では、65歳以上の軽度認知障害の成人33人を、エイコサペンタエン酸(EPA)群、ドコサヘキサエン酸(DHA)群、コントロール群に無作為に分けました。1日にEPA群(n=12)はEPA 1.67 g + DHA 0.16g、 DHA群(n=12)は1.55 g DHA + 0.40 g EPA、コントロール群(n=9)はオメガ6のリノール酸2.2 g のサプリメントを6カ月間摂取しました。
テロメア短縮は、DHAおよびEPAグループよりもリノール酸グループで最大でした。この論文の結論は「テロメアの短縮は、オメガ3多価不飽和脂肪酸の補給によって弱められる可能性がある」と言っています。
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を1日2g程度摂取すると、テロメアの長さが延長することはありませんが、加齢に伴うテロメアの短縮を抑制する効果が認められたという臨床試験の結果です。
テロメアの短縮と心血管系の罹患率および死亡率との強い関連性がいくつかの集団で報告されています。以下のような報告があります。
この研究では、オメガ3脂肪酸の血中濃度と、生物学的年齢のマーカーであるテロメア長の時間的変化との関連を調査しています。2000年9月から2002年12月までに募集され、2009年1月まで追跡された安定した冠状動脈疾患を有する608人の外来患者の前向きコホート研究(追跡期間中央値は6.0年;範囲5〜8.1年)です。患者はカリフォルニア州サンフランシスコのベイエリアの外来クリニックから募集されました。
追跡開始時と5年間のフォローアップ後に白血球テロメアの長さを測定しました。追跡開始時のオメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸)の血中濃度と5年間のテロメア長の変化との関連を調査しています。
中央値6年の追跡期間中に、276人の参加者(45%)がテロメア長の10%を超える減少を示しました。そして、追跡開始時のDHAとEPAの血中濃度が高いほど、テロメアの短縮率が低下することが明らかになりました。
白血球テロメアの長さは、心血管疾患の患者の罹患率と死亡率を独立して予測する生物学的年齢のマーカーとして知られています。この研究では、海洋オメガ3脂肪酸(DHAとEPA)のベースラインレベルが、5年間にわたるテロメアの減少と関連していることを示しています。
つまり、オメガ-3脂肪酸が冠状動脈性心臓病の患者の細胞老化を防ぎ、死亡率を低下させる可能性を示唆しています。オメガ3脂肪酸は抗炎症作用や抗酸化作用があり、全身の酸化ストレスを軽減することによってテロメア短縮を抑制する可能性が指摘されています。
さらに、テロメラーゼ活性を高める作用も指摘されています。最近まで、テロメラーゼの発現は生殖細胞、幹細胞、およびがん細胞に限定されると考えられていました。しかし、現在、末梢血単核細胞で低レベルのテロメラーゼ活性が実証されています。1日3gのオメガ3魚油の補給を含む包括的なライフスタイルの変更の採用は、正常な成人の白血球におけるテロメラーゼ活性の有意な増加と関連することが報告されています。
対照的に、培養した結腸直腸がん細胞を使った実験では、EPAとDHAはテロメラーゼ活性を抑制し、テロメラーゼレベルを低下させました。(Biochim Biophys Acta. 2005 Oct 15;1737(1):1-10.)
つまり、オメガ3脂肪酸は、細胞の状況に応じてテロメラーゼに双方向の影響を与える可能性があると推測されます。がん細胞ではテロメラーゼ活性を抑制して増殖を抑制し、正常組織ではテロメラーゼ活性を高めて寿命を延ばす可能性があります。
したがって、DHAとEPAはテロメアの老化を標的とする抗老化療法において、非常に有用な栄養成分と言えます。1日2gから5g程度のDHAやEPAを摂取して、血中のDHA/EPA濃度を高めることは寿命を延ばす効果が期待でき、がんの予防にも効果が期待できます。
【スペルミジンはテロメア短縮を抑制して寿命を延長する】
ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ物質で体内でアミノ酸から合成されます。体内には20種類以上のポリアミンが存在しますが、代表的なポリアミンとしてスペルミジン,スペルミン,プトレシンが挙げられます(下図)。
ポリアミンは全ての動物やヒトの細胞内で,成長期に盛んに合成されます。核酸やタンパク質の合成を促進する作用があります。ポリアミンがないと細胞は増殖ができません。ポリアミンはアミノ基によるプラスの電荷で核酸類と強く結合しており、核酸の立体構造の維持に関与すると考えられています。生体内では前立腺、膵臓、唾液腺など、精子や酵素を作る組織に多く含まれます。
さらに、スペルミジンは発毛促進作用、抗炎症作用に基く動脈硬化抑制作用など様々な機能を合わせ持っています。髪の毛や爪の成長を促進し、艶を促進するので、美容やアンチエイジング(抗老化)のサプリメント素材としても注目されています。
スペルミジンの外来性の補給は、酵母、線虫、ハエ、マウスなどの多くの種において寿命と健康寿命を延ばします。人間でも、スペルミジンレベルは加齢とともに低下し、内因性スペルミジン濃度の低下と加齢に伴う生体機能低下との関連の可能性が示唆されています。
最近の疫学データはこの概念を支持しており、スペルミジンが豊富な食品によるポリアミンの摂取増加は、心血管疾患とがんに関連する死亡率を減少させることを示しています。食事からのスペルミジンの摂取が多いと寿命が延びることが複数の疫学研究で明らかになっています。以下のような報告があります。
この住民参加の前向きコホート研究は、食事中のスペルミジン含有量とヒトの死亡率との間の潜在的な関連性を検討しました。45〜84歳の829人の参加者が含まれ、食事は栄養士が実施した食物摂取頻度アンケート(2540項目の評価)を繰り返して評価されました。追跡調査中に341人が死亡しました。
すべての原因による死亡率(1000人年あたりの死亡数)は、スペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が40.5(95%信頼区間:36.1〜44.7)、中央の3分の1の群が23.7(95%信頼区間:20.0〜27.0)、摂取量の多い上位3分の1の群が15.1(95%信頼区間:12.6〜17.8)でした。
年齢、性別、およびカロリー摂取量を調整した20年間の累積死亡率は、スペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が0.48(95%信頼区間:0.45〜0.51)、中間の群が0.41(95%信頼区間:0.38〜0.45)、摂取量の多い上位3分の1の群が0.38(95%信頼区間:0.34〜0.41)でした。
スペルミジン摂取量が平均から1SD(標準偏差)の増加当たりの、年齢、性別、カロリー比を調整した全死因死亡のハザード比は0.74(95%信頼区間:0.66〜0.83; P <0.001)でした。スペルミジン摂取量の上位3分の1と下位3分の1の群の間の死亡リスクの差は、5.7歳(95%信頼区間:3.6〜8.1歳)の年齢差に相当するものでした。
つまり、スペルミジンの摂取量が多いと、45歳以上の集団で、20年間の死亡率が半分以下になることを示唆しています。スペルミジンを多く摂取すると、5歳以上も延命する可能性を示唆しています。
スペルミジンの抗老化作用のメカニズムとしてオートファジーの誘導が最も重要と考えられていますが、さらにテロメア短縮を抑制して寿命を延長するメカニズムも報告されています。以下のような報告があります。
この実験では、高齢のマウスに飲料水中のスペルミジンを6か月間投与するだけで、加齢性病変の発生を大幅に抑制できることを示しています。これらには、脳のグルコース代謝の調節、明確な心臓の炎症パラメーターの抑制、腎臓と肝臓の病理学的異常の減少、および加齢による脱毛の減少が含まれます。
興味深いことに、スペルミジンを介した抗老化作用はテロメア短縮の抑制と関連しており、スペルミジン投与のアンチエイジング効果の背後にある新しい細胞メカニズムを示唆していました。
スペルミジンの抗老化作用の主なメカニズムはオートファジーの誘導ですが、テロメア短縮を抑制する効果もあるという報告です。
スペルミジンは動物や植物や微生物などほとんどの生き物に存在するので、私たちは食事からスペルミジンを摂取しています。鳥のレバーや納豆、キノコ類、チーズ、小麦胚芽などに多く含まれます。スペルミジンは大豆に多く含まれ、大豆を発酵して作る納豆や味噌や醤油にはさらに含有量が高くなっています。
私たちは、1日に平均10mg程度のスペルミジンを食事から摂取していますが、食事の内容によって食事から摂取するスペルミジンの量は大きな個人差があります。
胎児や新生児の細胞ではスペルミジンを含めポリアミンの合成能力が高く、細胞の増殖能も高くなっています。 しかし、加齢とともにポリアミンの体内産生量は減少します。年齢を重ねるごとにスペルミジンやスペルミンを合成する酵素の量や活性が低下するためです。
したがって、高齢者がポリアミンの原料であるアルギニンやオルニチンをサプリメントとして摂取しても,スペルミンやスペルミジンの合成量や体内量が増加するわけではありません。したがって,スペルミンやスペルミジンは高齢者では不足する傾向にあります。これが、スペルミジンを多く含む食品やサプリメントを摂取するメリットの理由です。
ポリアミンの分子量は250以下で、低分子のアミノ酸と同程度なので、小腸から効率よく吸収され、血中に移行して生体内で効率良く利用されます。また、スペルミジンやスペルミンを分解する酵素は腸内には無いため、大部分がそのままの形で腸管から吸収され、全身の組織や臓器に分布される事がわかっています。サプリメントとしてはスペルミジン含有の多い小麦胚芽を材料にして、スペルミジンを濃縮した製品が販売されています。
【黄蓍(オウギ)はテロメラーゼを活性化して細胞を若返らせる】
黄耆はマメ科のキバナオウギおよびナイモウオウギの根で、病気全般に対する抵抗力を高める効果があります。体表の新陳代謝や血液循環を促進し、皮膚の栄養状態を改善する効果や、細胞の代謝機能を増強し、再生肝におけるDNA合成を促進します。マクロファージやリンパ球を活性化して、細胞性免疫や抗体産生を高める効果もあります。
漢方では生命エネルギーを「気」という概念で現し、気の量に不足を生じた状態を気虚(ききょ)といいます。気虚とは生命体としての活力である生命エネルギーの低下した状態であり、新陳代謝の低下・諸々の臓器機能の低下・抵抗力の低下した状態です。元気がない・疲れやすい・食欲がない、手足がだるいなどの症状が出てきます。
黄耆は気を補って気虚を改善する補気薬の代表です。漢方治療で高麗人参と並んで極めて使用頻度と有用性の高い生薬です。漢方で人参と並んで滋養強壮薬の代表のオウギ(黄耆)は欧米でもアストラガルス(Astragalus)と呼ばれてサプリメントとして人気があります。
この黄耆から精製されたTA-65という成分が、テロメラーゼの活性を亢進してテロメアを伸ばす作用が報告されています。TA-65の本体はシクロアストラゲノール(Cycloastragenol)という成分です。このTA-65をマウスの餌に補給すると、がんの発生率を高めることなく、正常細胞のテロラーゼ活性を刺激してテロメアの長さを伸ばすという報告があります。
このタイトルの日本語訳は「テロメラーゼ活性化因子TA-65は短いテロメアを伸長し、がんの発生率を増加させることなく、成体/老齢マウスの健康期間を延長する」となります。
このTA-65という成分は米国ではサプリメントとして販売されています。
漢方的発想では、黄耆に含まれるある単一の活性成分をカプセルに入れて飲むより、黄耆そのもの、あるいは他の生薬と組み合せて煎じ薬(漢方薬)として摂取するのが良いように思います。黄耆には、シクロアストロゲノール以外にも、様々なサポニン成分や多糖類など健康作用のある活性成分が多く含まれるからです。
黄耆に含まれるアストロガロシドIIとイソアストロガロシド Iが、脂肪組織からのアディポネクチンの産生を高める作用が報告されています。アディポネクチンは肝臓や筋肉細胞の受容体に作用してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、インスリン抵抗性を改善し、動脈硬化や糖尿病を防ぐ作用、抗老化と寿命延長効果を発揮します。
アストロガロシドIIとイソアストロガロシド Iとシクロアストロゲノールはいずれもサポニンという成分です。サポニンというのは、本来は、水に混ぜて振ると石けんのように持続性の泡を生ずる化合物群に付けられた名称です。サポニンの名前は泡を意味する「シャボン(サボン)」に由来します。サポニンが泡立つのは、界面活性剤としての性質を持つからです。
サポニンは構造的にはトリテルペンやステロイドに糖が結合した配糖体の一種です。糖の部分は水酸基が多く親水性であるのに対して、非糖部(トリテルペンやステロイド)は疎水性の性質を持ちます。つまり、同じ分子内に親水性と疎水性という両極端な性質をもった部分構造が共存していることになり、この構造的特徴が緩和な界面活性様作用をもたらします。
高麗人参や黄耆にはサポニンが多く含まれ、それらの薬効の重要な活性成分となっています。漢方治療では高麗人参と黄耆を組み合わせた処方が多く使われています。このような漢方薬を日頃から服用しておくと、体力と免疫力を高め、老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果が期待できます。
【運動は正常細胞のテロメラーゼ活性を高める】
運動が細胞のテロメラーゼ活性を増加することが報告されています。以下のような論文があります。
このシステマティック・レビュー(系統的レビュー)とメタ分析は、1 回の運動と長期の運動トレーニングが テロメラーゼ逆転写酵素の発現とテロメラーゼ活性に及ぼす影響を特定することを目的としています。
PubMed、Scopus、Science Direct、および Embase データベースを使用して、ヒトおよびげっ歯類の試験を検索しました。適格な臨床試験から得られた結果に基づいて、1 回の運動と長期の運動トレーニングはともに正常細胞のテロメラーゼ逆転写酵素およびテロメラーゼ活性を亢進することが明らかになりました。持久力のあるアスリートは、非アクティブなアスリートと比較して、白血球のテロメラーゼ逆転写酵素およびテロメラーゼ活性の増加を示しました。
これらの調査結果は、運動トレーニングがテロメラーゼ逆転写酵素発現とテロメラーゼ活性を増加させる安価なライフスタイル要因であることを示唆しています。定期的な運動トレーニングは、テロメラーゼ依存メカニズムを通じてテロメアの消耗を軽減し、最終的に健康寿命と寿命を延ばす可能性を示しています。
つまり、運動とテロメラーゼ活性の関係を検討した動物実験やヒトでの臨床試験を調査し、メタ解析した結果、定期的な運動がテロメラーゼ活性を亢進し、健康寿命を延ばすという結論です。
【瞑想はテロメラーゼ活性を高める】
瞑想(めいそう)とは、心を落ち着けたり、集中させたりするための実践や技法を指します。瞑想の目的や方法は多岐にわたり、精神的な平和や自己認識の増進、宗教的な目的、身体的および精神的な健康の向上など様々です。
瞑想が精神的および肉体的健康に影響を与えることは、いくつかの研究によって明らかになっています。瞑想がテロメラーゼ活性を高めることが報告されています。以下のような報告があります。
この研究は、瞑想の継続的な実践が、健康な成人の生活の質、マインドフルネスの状態、血漿テロメラーゼレベルに利益をもたらすかどうかを調査しました。
さまざまな地域にある瞑想センターから30人の長期にわたる熟練した瞑想者が採用され、年齢と性別が一致した30人の健康な非瞑想者が対照群として採用されました。
マインドフルネスと生活の質のレベルは、それぞれファイブ ファセット マインドフルネス アンケート (Five Facet Mindfulness Questionnaire :FFMQ) と生活の質アンケートを使用して測定され、血漿テロメラーゼ酵素のレベルは酵素免疫吸着法を使用して測定されました。
熟練した瞑想者のグループは、対照グループよりもマインドフルネスのレベル ( p < 0.001) と生活の質 (p < 0.001) が統計的有意に高いことが明らかになりました。同様に、熟練した瞑想者では非瞑想者と比較して、血漿テロメラーゼレベルがより高い結果でした(p = 0.002)。
マインドフルネスレベルと血漿テロメラーゼレベルは、瞑想実践の継続時間と有意な関係を示しました(それぞれ、 p = 0.046およびp = 0.011)。回帰分析により、マインドフルネス・レベルが血漿テロメラーゼ・レベルを有意に予測することが示されました( p < 0.001)。
これはスリランカのコロンボ大学医学部からの研究です。
マインドフルネスとは、過去の経験や先入観といった雑念にとらわれることなく、身体の五感に意識を集中させ、「今この瞬間の気持ち」「今ある身体状況」といった現実をあるがままに知覚して受け入れられている状態のことです。生産性やストレス耐性向上といったメリットから、ビジネスでも注目されています。
マインドフルネスは、仏教における瞑想がベースになっています。瞑想は、腹式呼吸や呼吸と連動したおなかの動き、五感を使う体験などを通して、過去や思考、感情にとらわれない心を育成するものです。
瞑想がこのマインドフルネス状態を高めることは簡単に理解できます。それと同時に血漿中のテロメラーゼ活性を高める効果があるというのが、この研究の結果です。瞑想で寿命が延びる可能性を示唆しています。
以下も同じ研究グループが同じ対象を使って、瞑想のテロメアに関連した効果を検討しています。
遺伝子のプロモーター部分のメチル化は遺伝子発現を抑制します。瞑想は、ヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のプロモーター領域のメチル化を減らし、テロメラーゼの発現を亢進し、テロメア長を延ばすことを示しています。
瞑想を長く実践している人は、体内の炎症マーカーや酸化ストレスが低下し、その結果、細胞の老化を抑制する効果があることが報告されています。炎症や酸化ストレスの低下は、テロメア短縮を抑制することになります。
さらに、瞑想自体に、遺伝子発現レベルに作用して、テロメラーゼの発現と活性を高める作用があるようです。
運動や瞑想はテロメア短縮を抑制して、寿命を延ばす効果が期待できます。瞑想の実践法に関しては、書籍やDVDやセミナーや教室などで学ぶことができます。「進行がんが瞑想で消えた」という話もあります。
以上のように、酸化ストレスや慢性炎症を軽減することはテロメア短縮を抑制します。さらに黄耆、運動、瞑想のようにテロメラーゼ活性を高めてテロメアの長さを伸ばすことも可能です。これらを組み合わせれば、健康寿命を延ばすことができます。