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176)スペルミジンは高齢者の死亡率を低下する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術176

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【細胞は自分のタンパク質を分解して若返りを行なっている】

細胞内のタンパク質は絶えず分解して新しいタンパク質と入れ替わっています。古くなったタンパク質を分解して新しいタンパク質を合成することによって、細胞成分の若返りを行なっています。このタンパク質の若返りに重要な役割を担っているのがオートファジーという現象です。  
 
オートファジー(Autophagy)という用語はギリシャ語の「自分」(オート;auto)と「食べる」(ファジー:phagy)を組み合わせた用語で、文字通り「自分を食べる」という意味を持ちます。日本語では「自食作用」と訳されています。  

オートファジーは細胞内の一部を少しづつ分解する細胞内のリサイクルのようなものです。例えば、私たちは食事から1日50~100グラム程度のタンパク質を食べています。一方、私たちの体内では、1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成しています。つまり、口から食べているタンパク質より、ずっと多い量の自分のタンパク質を食べているのです(図)。


図:体内ではオートファジーによって1日に200グラム程度の自分のタンパク質をアミノ酸に分解し、それに相当するタンパク質を合成することによって、細胞内のタンパク質の若返りを行っている。




【細胞が栄養飢餓になるとオートファジーが亢進する】

定期的な断食(絶食)や継続的なカロリー制限を行うと体が若返ります。その理由は断食やカロリー制限をするとオートファジーが亢進して、細胞が若返るからです。

食事からの摂取カロリーを減らすことを「カロリー制限」と言います。食事中のビタミンやミネラルやタンパク質などの栄養素の不足を起こさずに摂取カロリーだけを30~40%程度減らす食事です。このカロリー制限は酵母から線虫、ハエ、マウス、霊長類に至る数多くの生物種において、老化を遅延して寿命を延ばし老化関連疾患の発症を遅らせる最も再現性の高い方法であることが、多くの研究で証明されています。
 
30~40%のカロリー制限というのは軽度から中等度の飢餓状態であり、それに対して生体は様々な適応応答を行うために、代謝や防御機能に関与する遺伝子の発現レベルでの変化が生じます。
その一つがオートファジーの亢進です。

オートファジーは細胞内タンパクや小器官を二重の脂質膜で包み込み、これをリソソームに輸送して分解する仕組みです。細胞が飢餓条件下におかれると、細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れます。その後、膜は細胞質内の異常タンパク質や細胞内小器官を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成されます。 オートファゴソームがリソソームと融合して内包物は分解されます。自己消化で得られたアミノ酸は栄養源として再利用されます(図)。


図:細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、異常なタンパク質や細胞内小器官を取り込む(①)。その後、膜は細胞質を取り込みながら伸長し(②)、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成される(③)。 オートファゴソーム内にはミトコンドリアなどの大きな細部内器官も含まれる。オートファゴソームがリソソームと融合すると(④)、内包物は分解される(⑤)。自己消化で得られたアミノ酸や脂肪酸や核酸は細胞内の物質合成に再利用される(⑥)。(参考:Nature Cell Biology,9, 1102-1109, 2007 )


細胞は栄養飢餓に陥るとオートファジーにより細胞質内のタンパク質や小器官(ミトコンドリアや小胞体など)の一部を分解および再利用し、細胞の生存に必要なエネルギーやアミノ酸を得ています。
 
さらに、オートファジーを使い老廃物や損傷したミトコンドリア、病原体、異常タンパク質を除去しており、それにより神経変性疾患、がん、糖尿病、心不全、各種の炎症や感染症など、さまざまな疾患の発症を抑制していることが明らかになっています。つまり、オートファジーは細胞内の老化した成分を除去して細胞を若返らせる作用があります。断食が細胞を若返らせるメカニズムもオートファジーの亢進が重要です。



【スペルミジン補充は老化を抑制し、寿命を延ばす】

「健康寿命や寿命を延長する」という効果が少なくとも3種類以上の種(線虫、ショウジョウバエ、マウス、サルなど)で確認され、少なくとも3カ所以上の研究グループで確認されているという基準を満たす抗加齢法として、断食、カロリー制限、運動、スペルミジン、メトホルミン、レスベラトロール、ラパマイシンなどが報告されています。

スペルミジンはポリアミンの一種です。ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ物質で体内でアミノ酸から合成されます。体内には20種類以上のポリアミンが存在しますが、代表的なポリアミンとして スペルミジン,スペルミン,プトレシンが挙げられます(下図)。


図:ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ。


ポリアミンはすべての動物やヒトの細胞内で,成長期に盛んに合成されます。核酸やタンパク質の合成を促進する作用があります。ポリアミンがないと細胞は増殖ができません。ポリアミンはアミノ基によるプラスの電荷で核酸類と強く結合しており、核酸の立体構造の維持に関与すると考えられています。生体内では前立腺、膵臓、唾液腺など、精子や酵素を作る組織に多く含まれます。
 
さらに、スペルミジンは発毛促進作用、抗炎症作用に基く動脈硬化抑制作用など様々な機能を合わせ持っています。髪の毛や爪の成長を促進し、艶を促進するので、美容やアンチエイジング(抗老化)のサプリメント素材としても注目されています。
 
スペルミジンの外来性の補給は、酵母、線虫、ハエ、マウスなどの多くの種において寿命と健康寿命を延ばします。人間でも、スペルミジンレベルは加齢とともに低下し、内因性スペルミジン濃度の低下と加齢に伴う生体機能低下との関連の可能性が示唆されています。

食事からのスペルミジンの摂取が多いと寿命が延びることが複数の疫学研究で明らかになっています。以下のような報告があります。

Higher spermidine intake is linked to lower mortality: a prospective population-based study.(スペルミジン摂取量の増加は死亡率の低下に関連している:人口ベースの前向き研究)Am J Clin Nutr. 2018 Aug 1;108(2):371-380.

この住民参加の前向きコホート研究には、45〜84歳の829人の参加者が含まれます。食事は、1995年、2000年、2005年、および2010年に栄養士が実施した食物摂取頻度アンケート(2540項目の評価)を繰り返して評価されました。1995年から2015年までの追跡調査中に、341人が死亡しました。
 
すべての原因による死亡率(1000人年あたりの死亡数)は、スペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が40.5(95%信頼区間:36.1〜44.7)、中央の3分の1の群が23.7(95%信頼区間:20.0〜27.0)、摂取量の多い上位3分の1の群が15.1(95%区間:12.6〜17.8)でした。

年齢、性別、およびカロリー摂取量を調整した20年間の累積死亡率はスペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が0.48(95%信頼区間:0.45〜0.51)、中間の群が0.41(95%信頼区間:0.38〜0.45)、摂取量の多い上位3分の1の群が0.38(95%信頼区間:0.34〜0.41)でした。
 
スペルミジン摂取量が平均から1-SD(標準偏差)の増加当たりの、年齢、性別、カロリー比を調整した全死因死亡のハザード比は0.74(95%信頼区間:0.66〜0.83; P <0.001)でした。
スペルミジン摂取量の上位3分の1と下位3分の1の群の間の死亡リスクの差は、5.7歳(95%信頼区間:3.6〜8.1歳)の年齢差に相当するものでした。

つまり、この疫学研究は、スペルミジンが豊富な食事が人間の生存率の増加に関連していることを示しています。スペルミジンの摂取量が多いと、45歳以上の集団で、20年間の死亡率が半分以下になることを示唆しています。スペルミジンを多く摂取すると、5歳以上も延命する可能性を示唆しています。



【スペルミジンはオートファジーを誘導して寿命を延ばす】

以下のような論文があります。

Autophagy mediates pharmacological lifespan extension by spermidine and resveratrol.(オートファジーは、スペルミジンとレスベラトロールによる薬理学的寿命延長を仲介する)Aging (Albany NY). 2009 Dec 23;1(12):961-70.

スペルミジンは酵母、線虫、ハエの実験系で寿命を延ばすことが示されており、そのメカニズムとしてオートファジーの誘導が指摘されています。同様にレスベラトロールも、様々な生物の細胞でオートファジーを誘導し、寿命を延ばす効果が報告されています。

スペルミジンとレスベラトロールの寿命延長効果がオートファジー誘導と関連することは、遺伝子操作や薬物によってオートファジーを起こらなくした細胞ではスペルミジンとレスベラトロールの寿命延長効果が認められなくなることから証明されています。

つまり、この論文はスペルミジンとレスベラトロールによる細胞保護作用と抗老化作用はオートファジーの誘導を介して発揮されるということを報告しています。
 
この論文はフランスの国立衛生医学研究所(INSERM)からの報告で、グイド・クレーマー(Guido Kroemer)の研究室からの報告です。グイド・クレーマーは、細胞死におけるミトコンドリアの役割の理解に貢献してきた細胞生物学者で、ヨーロッパの複数の科学アカデミーのメンバーであり、細胞生物学で最も高く引用されている著者の一人です。 最近は、オートファジーやスペルミジンの研究も行なっています。

したがって、スペルミジンとレスベラトロールの抗老化作用と寿命延長効果にオートファジーの誘導が重要であるというこの論文の結論は信頼性が高いと思います。
 
前述のように、オートファジーはタンパク質を分解して細胞内で再利用するリサイクル・システムとして重要です。一般に、加齢に伴いオートファジー反応が低下します。老化した組織や臓器においてオートファジー反応が低下すると、機能不全ミトコンドリアが効率的に除去されなくなります。機能不全のミトコンドリアは活性酸素の産生を増やすことで組織の酸化傷害が亢進します。
 
オートファジーを使い老廃物や損傷したミトコンドリア、病原体、異常タンパク質を除去しており、それにより神経変性疾患、がん、糖尿病、心不全、各種の炎症や感染症など、さまざまな疾患の発症を抑制していることが明らかになっています。つまり、オートファジーは細胞内の老化した成分を除去して細胞を若返らせる作用があります。断食が細胞を若返らせるメカニズムもオートファジーの亢進が重要です。
 
オートファジーが抑制されると腫瘍が発生しやすくなります。これは、細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になると考えられています。


スペルミジンの外来性補給は、マウスを含むさまざまなモデル生物の加齢および加齢性疾患にさまざまな有益な効果を発揮します。たとえば、スペルミジンの摂食は寿命を延ばし、心臓と神経を保護し、抗腫瘍性免疫応答を刺激し、メモリーT細胞形成を刺激することで免疫老化を回避する効果があります。
 
これらの老化防止効果の多くは、オートファジーの活性化を通じてタンパク質恒常性を確保するスペルミジンの能力と関連があると考えられています。スペルミジンは、オートファジーの主要な負の調節因子の1つであるEP300を含むいくつかのアセチルトランスフェラーゼの阻害を通じてオートファジーを誘発します。
 
オートファジーを起こしにくくする遺伝子改変は、寿命に対するスペルミジンの有益な効果を無効にします。これはスペルミジンの寿命延長効果がオートファジーの活性化が関与していることを意味します。
以下のような報告があります。

Cardioprotection and lifespan extension by the natural polyamine spermidine.(天然ポリアミンスペルミジンによる心臓保護と寿命延長)Nat Med. 2016 Dec; 22(12): 1428–1438.

マウスを使った実験で、スペルミジンの投与は、心臓のオートファジー、マイトファジー、およびミトコンドリアの呼吸を強化し、心筋細胞の機械的弾性特性を改善することを報告しています。心臓機能の改善効果はオートファジーが起こらないように遺伝子改変したマウスでは認められなかったので、オートファジーの活性化がスペルミジンによる心臓機能の活性化に必須であることを明らかにしています。



【スペルミジンはテロメア短縮を抑制して寿命を延長する】

スペルミジンの抗老化作用のメカニズムとしてオートファジーの誘導が最も重要と考えられていますが、さらにテロメア短縮を抑制して寿命を延長するメカニズムも報告されています。以下のような報告があります。

Novel aspects of age-protection by spermidine supplementation are associated with preserved telomere length.(スペルミジン補給による年齢保護の新しい側面は、テロメア長の保持と関連している)Geroscience. 2021 Apr;43(2):673-690.

【要旨】
老化は、心不全、神経変性、代謝異常、テロメア短縮、脱毛など、分子的、細胞的、生理学的な機能低下を引き起こす。
興味深いことに、分子レベルでは、細胞のリサイクルおよび洗浄プロセスであるオートファジーを誘発する能力は、多くの生物において年齢とともに低下し、加齢に伴う老化現象の原因となっている。

ここでは、高齢のマウスに飲料水中の天然オートファジー誘導物質スペルミジンを6か月間投与するだけで、加齢性病変の発生を大幅に抑制できることを示す。これらには、脳のグルコース代謝の調節、明確な心臓の炎症パラメーターの抑制、腎臓と肝臓の病理学的異常の減少、および加齢による脱毛の減少が含まれる。

興味深いことに、スペルミジンを介した抗老化作用はテロメア短縮の抑制と関連しており、スペルミジン投与のアンチエイジング効果の背後にある新しい細胞メカニズムを支持している。
 


スペルミジンの抗老化作用の主なメカニズムはオートファジーの誘導ですが、テロメア短縮を抑制する効果もあるという報告です。
 
細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は分裂できなくなります。細胞の分裂回数に限界を設けているのがテロメアです。

染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、なくなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。

DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。

DNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。

短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。


図:染色体の末端にはテロメアという構造があり(①)、この部分のDNAはTTAGGGという配列が多数繰り返されている(②)。細胞分裂するたびに、このテロメア部分のDNAは短くなり(③)、テロメアが無くなった時点で、細胞はそれ以上に分裂することができなくなり、細胞死が誘導される(④)。


つまり、テロメアとは「命の回数券」のようなものであり、分裂する度に回数券を一枚づつちぎって使い、やがて使い切ってしまうと細胞の寿命がくるというわけです。

ちなみに生殖細胞や幹細胞(骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。
 
抗老化の研究分野では、テロメラーゼの活性を高めて幹細胞の分裂能を高め、組織や臓器の老化による機能低下を抑制することを目的にした治療法が研究されています。

この論文の研究は、スペルミジンにテロメラーゼ活性を高めてテロメア短縮を阻止する効果を示唆しています。


【スペルミジンは認知機能を良くする】

スペルミジンが認知症を予防することが指摘されています。以下のような研究があります。

Spermidine in dementia:Relation to age and memory performance(認知症におけるスペルミジン:年齢と記憶能力との関係)Wien Klin Wochenschr. 2020; 132(1): 42–46.

【要旨の抜粋】
スペルミジンがオートファジーによってアミロイドベータプラークを溶解するプロセスを誘導する能力を持っていることが報告されている。 この報告は、年齢および記憶能力と血清スペルミジンレベルとの関連に焦点を当てている。

これは、記憶能力に対する経口スペルミジン補給の効果を検討している進行中の多施設プラセボ対照試験の前提となる。記憶力テストは、オーストリアのシュタイアーマルク州の6つのナーシングホームで60〜96歳の80人の被験者に対して実施された。 スペルミジン濃度を測定するために血液サンプルを採取した。

結果は、スペルミジン濃度と記憶能力検査スコアの間に有意な相関関係があることを示した(p = 0.025)。 この結果に基づいて、スペルミジンは神経認知の変化(老人性痴呆またはアルツハイマー病)の診断のためのバイオマーカーとして適切である可能性があると結論付けることができる。 
 

つまり、血中スペルミジン濃度の低下は、記憶力の低下と相関するという結果です。したがって、サプリメントなどによるスペルミジンの補充は、記憶力や認知機能を向上させ、アルツハイマー病や認知症の治療に対する有効性が示唆されるということです。そこで、この研究グループはスペルミジンをサプリメントで補う臨床試験を実施しています。


The positive effect of spermidine in older adults suffering from dementia.(認知症の高齢者におけるスペルミジンのプラスの効果)Wien Klin Wochenschr. 2021; 133(9): 484–491.

【要旨の抜粋】
現在の世界中の認知症の有病率は3,560万人と推定され、2050年までに1億1,500万人に増加する。したがって、十分に根拠のある認知症の診断と十分に研究された治療オプションが緊急に必要である。今までの研究で、スペルミジンがオートファジーによってアミロイドベータプラークを溶解する重要なプロセスを引き起こす能力を持っていることが示されている。

さらに、天然のポリアミンのスペルミジンの投与が、老化したモデル生物の記憶力低下を防ぐことができることを示している。この多施設二重盲検予備研究は、高齢者の認知能力に対するスペルミジンの経口補給の効果に焦点を当てた。

記憶力テストは、オーストリアのシュタイアーマルク州の6つのナーシングホームで60歳から96歳までの85人の被験者に対して実施された。スペルミジン濃度の測定と代謝パラメーターの測定のために血液サンプルを採取した。

結果は、より高いスペルミジン投与量で治療されたグループの軽度および中等度の認知症の被験者において、スペルミジンの摂取量と認知能力の改善との間に明確な相関関係があることが示された。テストパフォーマンスの最も実質的な改善は、軽度の認知症の被験者のグループで見られ、ミニメンタルステート検査(MMSE)で2.23ポイント(p = 0.026)、言語の流暢性で1.99(p = 0.47)増加した。比較すると、スペルミジン摂取量が少ないグループは、認知能力は変化なし、あるいは低下を示した。
 
 
アルツハイマー病は老年性認知症の原因としては最も頻度が高い神経変性疾患です。アルツハイマー病の脳の病理所見で最も特徴的なのが「老人班」です。この老人班はアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積から構成されています。Aβはアミロイド前駆体たんぱく質(APP)から酵素(βおよびγセクレターゼ)によって切断されて産生される38〜43アミノ酸からなるペプチドです。
 
脳内のAβの濃度はAβの産生と除去(クリアランス)のバランスによって決定され、そのバランスが破綻することによって脳内Aβが増加し、Aβの蓄積・凝集によって神経細胞障害が引き起こされ、最終的にアルツハイマー病が発症します。アルツハイマー病では脳組織内にアミロイドβたんぱく質の凝集塊が蓄積することによって神経細胞内で炎症反応が起こって、細胞死が引き起こされます。
 
スペルミジンはオートファジーを促進し、アミロイドβプラークを分解します。つまり、スペルミジンはオートファジーを促進するメカニズムで神経細胞内のアミロイドβの除去を促進し、炎症反応を阻止し、アルツハイマー病の発症や進行の防止に有用である可能性があるということです。


図:脳組織にマイロイドβタンパク質(①)が蓄積すると、神経細胞が細胞死を起こして脳が萎縮し認知症(アルツハイマー型認知症)になる(②)。スペルミジンはオートファジーを亢進し(③)、アミロイドβタンパク質の蓄積を阻止する(④)。スペルミジンは抗炎症・抗酸化作用、ミトコンドリア機能亢進、核酸やタンパク質の合成亢進などの効果もある(⑤)。これらの作用によって、スペルミジンはアルツハイマー病の発症を予防し、抗老化と寿命延長効果を発揮する。



【高齢者はスペルミジンのサプリメントでの補充が有効】

スペルミジンを外部から補給すると、酵母、線虫、ハエ、マウスなど、さまざまな種で寿命と健康寿命が延びます。ヒトでは、スペルミジン濃度は加齢とともに低下し、内因性スペルミジン濃度の低下と加齢による劣化との間に関連がある可能性が示唆されています。最近の疫学データはこの考えを裏付けており、スペルミジンを多く含む食品によるこのポリアミンの摂取量の増加が、心血管疾患や癌に関連する全体的な死亡率を低下させることを示しています。
 
ポリアミンの分子量は250以下で、低分子のアミノ酸と同程度なので、小腸から効率よく吸収され、血中に移行して生体内で効率良く利用されます。また、スペルミジンやスペルミンを分解する酵素は腸内には無いため、大部分がそのままの形で腸管から吸収され、全身の組織や臓器に分布される事がわかっています。
 
スペルミジンの体内での合成量は加齢とともに低下します。スペルミジンの多い納豆、味噌、チーズ、鶏のレバー、マッシュルーム、マンゴー、ドリアンなどを多く食べることは有効です。さらにサプリメントでの補充も有効です。サプリメントとしてはスペルミジン含有の多い小麦胚芽を材料にして、スペルミジンを濃縮した製品が販売されています。
 
このようなサプリメントや食事から、スペルミジンを1日に20mg程度摂取すると、認知症や心臓疾患の発症を予防し、寿命を延ばす効果が期待できます。髪の毛や爪の成長促進や艶を高めるので、美容にも有効です。
 
ビタミンは体内で合成できないので、食事から摂取する必要があります。スペルミジンは体内で合成されるのでビタミンではありません。

しかし、スペルミジンは若いときには十分な量で生体内に合成されますが、老齢期には合成されません。したがって、加齢とともにスペルミジンはビタミンの地位に進化し、生体恒常性に必要なオートファジーの維持を確保するには外部から補充する必要がある言えます。
 
つまり、高齢者にはスペルミジンはビタミンと同様であり、食事やサプリメントから積極的に摂取する必要があると言えます。60歳以上の人がスペルミジンを積極的に摂取すると、認知症や心臓疾患の発症を低下し、寿命を5年以上のばすことができると言えます。

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