155)野菜の豊富なアルカリ食の健康作用(その1):がん予防効果
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術155
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【野菜や果物は体をアルカリ化し、肉は酸性化する】
高タンパク食品(肉、魚、乳製品)は有機酸と硫酸の生成を増加させ、酸の負荷を増加させます。野菜や果物のようにクエン酸カリウムやリンゴ酸カリウムなどのカリウム塩が豊富な食品は、重炭酸カリウムに代謝され、体液をアルカリ化する効果があります。
果物や野菜などのアルカリ性食品が少なく、肉や魚や乳製品などの酸性食品を多く含む食事は、血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)を導き、そのことが様々な病気の発症に影響を与える可能性が指摘されています。
アルカリ食の一般的な概念は、血液をアルカリ性にするというものですが、血液のpHは7.35から7.45のアルカリ性pHで非常に厳密に調整されているため、アルカリ食で体内がアルカリ化するわけではありません。同様に酸性食品で血液のpHが酸性状態に変化することはありません。血液のpH緩衝能は高いので、酸性食を多く摂取しても血液pHが酸性化することはありません。しかし、体内の酸塩基平衡において、酸性に傾いた状態に導きます。
食事の酸塩基バランスを表す指標に潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load : PRAL)があります。PRALは以下の式で算出されます。
PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)
つまり、食事中のタンパク質とリンの量は潜在的腎臓酸負荷(PRAL)を増やし、カリウム、カルシウム、マグネシウムはPRALを減らします。
動物性タンパク質は、イオウ含有アミノ酸であるメチオニンとシステインを多く含み、体内で硫酸と水素イオンを形成するため、食事の酸の最大の供給源です。水素イオンは、食事中のリン酸塩の代謝から食事中に提供されます。
動物の肉や卵も、体内で水素イオンを形成する成分を多く含みます。動物性タンパク質、特に肉、卵、チーズは、体内で大量の酸を形成する原因となります。
果物や野菜は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩などの有機アニオンを多く含み、体内で重炭酸塩に変換されます。重炭酸塩は、酸を中和する塩基です。
したがって、動物性食品は正の潜在的腎酸負荷(PRAL)ですが、植物性食品は負のPRALを持っています。さまざまな食品のPRALを下の表に示します。一般的に、肉、魚、乳製品、穀類は食事性酸負荷を高め、野菜と果物と豆類はアルカリ性食品と言えます。油脂類は酸負荷はほとんどありません。
【食事中の酸負荷ががんの発生率を高める?】
食事の潜在的腎臓酸負荷を測定してがん発生率との関連を解析した研究があります。酸性食が発がん率を高める結果が報告されています。以下のような研究報告があります。
95,708人のアメリカ人成人を対象に、潜在的腎臓酸負荷(Potential renal acid load :PRAL)を使用して、各被験者の食事性酸負荷を評価しました。
848,534.0人年(person-years)の追跡期間中に、合計337件の膵臓がん症例が観察され、PRALスコアは膵臓がんのリスクと正の相関が認められました。PRALの高い上位4分の1の群はPRALの低い下位4分の1の群に比べて膵臓がん発生リスクは1.73(95%信頼区間(95%CI):1.21-2.48)でした。
サブグループ分析では、PRALスコアと膵臓がんのリスクとの正の関連性は、65歳以上の被験者よりも65歳未満の被験者でより顕著でした。
この論文の結論は、「食事の酸負荷が高いほど、膵臓がんのリスクが高くなる」「食事からの酸の負荷を減らすことが膵臓がんの一次予防に役立つ可能性がある」というものでした。
1人を1年間追跡すると 1人年(1 person-year)になり、10人を10年間追跡すると 100人年(100 person-years)になります。
この疫学研究では、95,708人のアメリカ人成人を848,534人年(person-years)追跡しているので、平均9年間程度追跡されているコホート研究です。
この追跡期間に337人が膵臓がんになり、食事の酸負荷との関連を解析しています。その結果、食事の酸負荷が多いほど、膵臓がんの発症リスクが高くなることが示されました。
膵臓がんは加齢とともに発生率が増えます。膵臓がんは60歳以上になると増えてきます。65歳以上で急速に増えます。
膵臓がんのリスク要因として飲酒や喫煙や糖尿病や肥満があります。これらの要因があるとより若い時点で膵臓がんになります。高齢者の膵臓がんは加齢(高齢)という要因が最も強くなります。
この研究で、「食事性酸負荷と膵臓がんのリスクとの正の関連性は、65歳以上の被験者よりも65歳未満の被験者でより顕著であった」というのは、発がんにおける食事性酸負荷の影響が、加齢の影響が少ない若い人に相対的に大きくなるためです。以下のような報告もあります。
この研究では、登録時(2003年から2009年)に食物摂取頻度アンケートに回答し、適格基準を満たした43,570人の姉妹研究参加者からのデータを使用しました。
潜在的腎臓酸負荷(Potential Renal Acid Load :PRAL)スコアを使用して、食事に依存する酸負荷を推定しました。スコアが高いほど、タンパク質とリンの消費量が多く、カリウム、カルシウム、マグネシウムの消費量が少ないことを示しています。
登録から少なくとも1年後(平均追跡期間、7.6年)に診断された1,614例の浸潤性乳がんを特定しました。
PRALが高い上位4分の1の群は、PRALが低い下位4分の1の群と比べて、乳がんの発症リスクが高いことが明らかになりました(ハザード比: 1.21; 95%信頼区間:1.04-1.41, p=0.04)。
この関連性は、エストロゲン受容体(ER)陰性(最高対最低四分位数のハザード比:1.67 [95%信頼区間:1.07-2.61]、p= 0.03)およびトリプルネガティブ乳がん(最高対最低四分位数のハザード比:2.20 [95%信頼区間、1.23-3.95]、p= 0.02)で顕著でした。
食事依存性の高い酸負荷は乳がんの危険因子である可能性があり、アルカリ性食事は発がんを予防する可能性があります。PRALスコアは肉の消費量と正の相関があり、果物と野菜の摂取量と負の相関があるため、結果は、果物と野菜が多く肉が少ない食事がホルモン受容体陰性乳がんを予防する可能性があることも示唆しています。
日本人の女性の乳がんは高齢化とは関係なく、年齢調整罹患率も死亡率も増加しています。出産回数の減少や初潮年齢の低下、閉経年齢の上昇など体内のエストロゲン濃度が高い状態が長く続く状況は、ホルモン感受性の乳がんの発生率は高めます。経口避妊薬の使用や閉経後の女性ホルモン補充療法など、体外からの女性ホルモン追加もホルモン受容体陽性の乳がんの発症リスクを上げます。
つまり、ホルモン受容体陽性の乳がんはエストロゲン過剰という発がん要因の寄与が大きいので、食事の酸負荷の影響は相対的に少なくなります。
しかし、エストロゲン受容体陰性およびトリプルネガティブ乳がんでは、エストロゲン濃度は発がんに寄与していないので、食事性の要因が相対的に高くなると言えます。そのため、食事性酸負荷と乳がんの発症の関連性は、エストロゲン受容体陰性およびトリプルネガティブ乳がんで顕著であったことが理解できます。
いずれにしろ、酸負荷が大きい食事はいろんながんの発生リスクを高める可能性があります。したがって、がんの予防において、アルカリ性食品によって食事性の酸負荷を減らし、血液や体液のアルカリ化能を高めることはメリットがあります。
さらに最近の研究では、食事性酸負荷が動脈硬化や糖尿病など生活習慣に起因する疾患に対して影響を及ぼす可能性が示唆されています。慢性腎臓病の発症および進展に食事性酸負荷が関連しているとする多くの報告が集積されています。がん治療においても、食事性酸負荷を減らすメリットは大きいと言えます。