
ウインドウ散歩ー心躍る聖なる窓 銀座花伝MAGAZINE Vol.61

街に恋する、ということがある。それは筆者が街で心躍る景色をひたすら写真に撮ったことから始まる。
街に心が躍る理由を探し続けていた、ということかもしれない。
そして、ある時に気がついた。
自分は景色ではなく、「色」を撮り続けていたと言う事実にだ。
近代、この街の商店街の幕開けは、「窓」(ウインドウ)によってもたらされた。日本で初めてウインドウが生まれた街だからだ。
店主たちは、創意を凝らし、歌が聞こえるような物語のある「窓」を造り続けてきた。「窓」を訪ねて見つけた、心揺り動かされるその世界をご紹介する。写真散歩の世界へようこそ。
銀座は、日本人が古来から持ち続ける「美意識」が土地の記憶として息づく街。このページでは、銀座の街角に棲息する「美のかけら」を発見していく。

1.瞬間の窓ー心躍る聖なる散歩
銀座の街のイメージは?と街の人々に尋ねると、
「それは白ですよ」
という答えが返ってくる。
そこには、
「色の中で最も高貴な気品のある色でありながら、いかようにも染まる」
と言うような秘めた理由が隠されている。
そんな声を耳奥で聞きながら、聖夜の街を歩くと、400年の歴史のある街が
「窓」(ウインドウ)で始まっているという話を思い出した。
そうなのだ、この街にはその時代の時間を切り取った「瞬間の窓」の景色があるのだ。
🌟丸い窓の中で

まさに、あらゆる色に染まると形容されたウインドウそのものだ。それは、スノードームの形をして建物の玄関に鎮座している。
理由はわからないが、「天からのもの」と名前がつけられていた。猫がテーマらしいから、猫好きにはたまらない窓です。
🌟人の心の変化を感じる景色

コロナ前には、ガラス全面にゴールドだった黄金の窓が、2024年にはバイオレットの高貴さに変わっている。この4年間に、人々の心が変わったかのように、窓の色も変わった。
🌟仕立て屋のファンタジー

銀座はテーラーの街だ。
既制服が当たり前になった今でも、数は少なくなったが、しっかりとこの街に根を下ろして、英国の生地や仕立てを通じて、紳士の美意識を伝えてくれる。そんな老舗の窓は、いつもファンタジーに満ちている。
🌟NYの香りのクールさ

この街で「クールな窓」と言ったら、バーニーズニューヨークだ。いつもハッピーなキャラクターたちが、ご機嫌な音楽を演奏している。この窓の前に立つと、何だか踊り出したくなるから不思議だ。
🌟落書きのエレガンス

落書きの中にエレガンスがある。女性の靴の老舗専門店だ。軽やかなドローイングの中に可愛いバッグが置かれたりしている。時計の壁の向こうから、賑やかな女子たちの語らいが聞こえてきて、何だかソワソワする。
🌟歴史のモザイク

革製品の専門店の窓には、「馬」が登場する。小さな窓だけど、その中に物語がいつも隠れていて、耳を澄ませたくなる。
「なになに? モザイクはこの店の誕生ストーリーのお話?」そう尋ねても
窓の中の馬は答えてはくれない。
🌟伝統工芸の美

日本の伝統工芸が、モダンと結びついてとんでもない美を作り出した。傘の骨組みってこんなに美しかったのか。透けているのに、仄かな灯りを感じさせる。この窓の名は「在る美」っていうんだって。
🌟ペインティングの妙

ペインティングの手が途中で止まったような、無秩序な窓の組み合わせ。アースカラーの濃淡が「青」の協奏曲を奏でている。最近はイルミネーションでエネルギーを使うことは、あまり歓迎されない。どこまでも、アースにやさしく、、、、、。
🌟「つなぐ」「むすぶ」森

リボンは人を繋ぐ象徴だという。考えてみると、プレゼントにリボンはつきものだから、「リボンの森」を創りたくなったのかな。ガラスに鼻をくっつけてじっと中を見入ると、細い、太い、長い、短いリボンがたおやかに窓の中で踊っているかのようだ。
🌟南国へ一気旅

窓の中で何か会話をしているようだ。冬だというのにそちらは南国?。革で作られたヤシの幹が妙にリアルだ。外は木枯らしが吹いているのに、バカンスかな? 別世界の人々が確かにいるって、実感するよね。
🌟映る楽しさ

宝石店の窓には「サボテン」が浮かんでいた。花言葉は確か「燃える心」だったような。ガラス面に映る大通りの向かい側のビルのイルミネーションがシャボン玉のように装飾されて、窓の中を一層華やかにしている。
こんな映り方も、この街ならではの楽しみ方だ。
🌟除夜の鐘が鳴り終わるまで

この時計塔を見ると、この街の象徴だってすぐに分かる。時計の周りには、モンスターが取り囲んでいて、鬱蒼とした森の中に身を潜める王宮みたいに見える。時々、モンスターの目が動いて、窓を覗く人々に挨拶をする。実にチャーミングだな。
除夜の鐘が鳴り終わるまでは、この景色が窓の中にある。

2.編集後記(editor profile)
こうして街の窓の景色を、アトランダムに並べてみると、確かに「あらゆる色に染まる」という、街のイメージももっともだという気がしてくる。
本当に「白」というのは不思議な色だ。いや色と言えるのかどうか。そこに内包されている多様な精神性と言ったらいいのか、「白」には哲学があり、美意識があり、人生があり、地球の全てがある。
本年のノーベル文学賞を受賞した、韓国生まれのハン・ガンさんの「すべての、白いものたちの」という作品を読んで、後退りするような「白」への洞察に衝撃を受けた。
「私はあなたの目で見るだろう。白菜のいちばん奥のあかるく白いところ、いちばん大切に護られた、幼い芯葉を見るだろう。
昼の空に浮かんだ、涼やかな半月を見るだろう。
いつか氷河を見るだろう。うねり、くねり、青い影をたたえた巨大な氷を、生命だったことは一度もなく、そのためいっそう神聖な生命のように見えるそれを、仰ぎ見るだろう。
ー中略
それら白いものたち、すべての、白いものたちの中で、あなたが最後に吐き出した息を、私は私の胸に吸い込むだろう。」
本日も最後までお読みくださりありがとうございます。
責任編集:【銀座花伝】プロジェクト 岩田理栄子
〈editorprofile〉 岩田理栄子:【銀座花伝】プロジェクト・プロデューサー 銀座お散歩マイスター / マーケターコーチ
東京銀座TRA3株式会社 代表取締役
著書:「銀座が先生」芸術新聞社刊
