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【施設レポート#2】日本初の「ものづくり系」創業支援施設。台東デザイナーズビレッジ(台東区)
こんにちは!「&ジェンダード・イノベーション」事務局の丹羽です。
「&ジェンダード・イノベーション」では、読者の皆さまに起業をより身近に感じていただくきっかけをつくるべく、起業支援施設の調査レポートや、起業を支援されている方々の生の声を連載としてお届けしています。
今回取材した「台東デザイナーズビレッジ」(通称:デザビレ)は台東区が運営しているクリエイターの支援施設です。主にデザイン、ファッション、雑貨業界でのビジネス立ち上げを目指す方々を対象としています。
本施設ではどのような支援を行っていて、どんな起業家が巣立っているのか。村長(インキュベーションマネージャー)の鈴木さんにお話を伺いました。
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古き良きモノづくりの街と、若きクリエイターが交差する場所
──なぜモノづくりに特化した創業支援施設を設置したのでしょうか?
鈴木氏 「台東デザイナーズビレッジ」は、日本初のものづくり系創業支援施設として2004年に開設されました。
台東区は浅草、上野、秋葉原に囲まれた、ものづくりの事業者が集積するエリアであり、本施設の周辺もファッション雑貨関連のメーカーや問屋、材料屋等が集まっていることから、ものづくりに特化させることになりました。
もともとメーカーや問屋が集積しているエリアですが、現在では台東デザイナーズビレッジの卒業生を含め、周辺には雑貨屋やファッション系ショップ、カフェ等が増えています。
建物は昭和3年に竣工された旧小島小学校をリノベーションしたもので、施設全体にレトロな雰囲気が漂っています。もともと教室だったスペースをアトリエとして入居者が利用しており、各教室からはクリエイターの個性が垣間見えます。
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入居者は創業5年以内のファッション・雑貨クリエイターが主で、約8割が女性です。現在19のブランドが入居しており、アパレル・ジュエリー・雑貨・テキスタイルなど様々なジャンルのクリエイターが集まっています。
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↓現在の入居企業はこちら
入居企業紹介 | 台東デザイナーズビレッジ (designers-village.com)
3年で「事業成果」を生むためには?
台東デザイナーズビレッジでは、入居者に対してコーチ(行動面)、コンサルタント(知識面)、カウンセラー(心理面)の3つの面から総合的なサポートを提供しています。
主な支援内容としては、事業コンセプトのブラッシュアップ、融資や助成金申請のアドバイス、ブランドの成長に不可欠なブランディング、SNS発信のノウハウ提供などがあり、意欲あるクリエイターの成長を後押ししています。
また、ものづくり工場見学の実施、産地や企業とのマッチング、クリエイティブ系書籍を集めた図書室や、展示会に使える什器を揃えているなどモノづくりに特化した施設ならではの施策も提供されているのが特徴です。
入居期間は最大で3年間。入居当初は1人でモノをつくって売る形態のクリエイターが多く、最終的には従業員を抱えるところまで到達する人が多いんだとか。
──入居から卒業までの3年間で、どんなステップを踏んでいくのでしょうか?
鈴木氏 入居直後は、事業の目標・コンセプトを確認します。
次にブランディングの基本を学び、自分がいいと思うものをつくるだけではなく、それに共感してくれるファンを育成していく方法を身に着けていってもらいます。
そこから生産体制、商品の強化、経理業務の基礎や融資や助成金を受ける方法を知り、最終的に従業員の雇用、そして卒業・引っ越し、というのがざっくりとした流れです。
──クリエイターをサポートする上で、どんなことを意識していますか?
鈴木氏 サポート側から見て、3年間でしっかりと成果を生むためのポイントは3つあります。
1つ目は、趣味ではなく仕事として事業に取り組む意欲があるクリエイターに活用してもらえるリソースを提供すること。2つ目が、入居者同士や卒業生、地域との交流。そして3つ目が、クリエイター本人がやりたいことを引き出してあげること。
行き詰っているクリエイターに話を聞いてみると、精神的な不安が事業の妨げになっていることが意外と多いんです。事業に対するコンサルティングや数字に関するアドバイスもさることながら、メンタル面でのサポートも重要なポイントの1つです。
起業支援施設というと事業計画や会計など実務面でのサポートをイメージしがちですが、入居者の意欲を保ち事業を成功に導くには、メンタル面でのサポートもとても重要な要素なんですね。
クリエイターの成長も、街の成長も。
村長の取り組みとして、起業の知識や仲間を求める層を対象にしたクリエイター起業塾や、地域のモノづくり発信イベント「モノマチ」の企画、運営も印象的です。(※現在「モノマチ」は実行委員会が主催)
こうした取り組みにより、入居しているクリエイター、デザイナーのビジネスを成長させるだけでなく、地域のモノづくり産業の発展にも貢献しています。
<モノマチ HP>
ようこそモノマチへ! – モノマチ モノづくり系企業やショップ、職人、クリエイター、飲食店が参加する「街」と「ものづくり」に触れるイベント (monomachi.com)
前述の通り、台東区はもともと問屋、メーカーなどが集積するモノづくりの街。地元に根付いている老舗企業には独自の技術がある一方で、情報発信の文化はあまりないようです。
しかしデザビレに入居しているクリエイターたちにとっては、ブランドの成長のためにSNS等での情報発信は必要不可欠です。そこで、地域のモノづくりを発信するイベント「モノマチ」を企画、開催。デザビレに入居しているクリエイターと、地元企業、地域住民のコラボレーションの機会になっているんだとか。
徐々に規模を拡大し、現在では台東区南部の御徒町~蔵前~浅草橋にかけての2km四方のエリアで100社以上のショップ、メーカーや職人工房などが参加する一大イベントになっています。
──デザビレが位置する新御徒町、蔵前エリアは近年おしゃれなカフェや雑貨屋さんが集まる「洗練されたイケてる 街」のイメージがあります。デザビレの存在がこのイメージに一役買っているのでしょうか?
鈴木氏 デザビレがあるので人気のお店が集まってきた、というのはあるかもしれません。もともとものづくりの街ですし、特に初期は施設周辺にショップを出店する卒業生が多く、段々とカフェや人気のショップが集まってくるようになった印象です。2010年頃からテレビや雑誌での取材も増えてきて、結果として蔵前周辺に「おしゃれな街」のイメージがついてきました。
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デザビレ見学後に改めて蔵前の街を歩いてみると、おしゃれなカフェや雑貨屋さんばかりでなく、地場のメーカー企業や問屋が至るところにあることに気づきます。
一見まったく関係がないように見える地元企業と新しいショップに実は強いつながりがあること、また多くのデザイナーやクリエイターがこの街から巣立っていることを知ると、また少し街の景色が違って見える気がします。
今後も&ジェンダード・イノベーションでは、さまざまな起業支援施設の紹介や、支援者の声をお届けしていきます。
≪施設概要≫
台東デザイナーズビレッジ
ファッションや雑貨、デザイン関連ビジネス分野での起業を目指すデザイナーやクリエイターの支援施設。
1Fが村長室/オフィス5室/ショールーム、2Fがオフィス14室/図書室/制作室/会議室。
<受付時間>9:00~17:00(土・日・祝日除く)
<アクセス>
つくばエクスプレス新御徒町駅下車 A4出口から徒歩1分
都営地下鉄大江戸線新御徒町駅下車 A4出口から徒歩1分
東京メトロ銀座線 稲荷町駅 下車 徒歩10分
東京メトロ日比谷線 仲御徒町駅 下車 徒歩10分
台東区循環バス 東西めぐりん 「三筋二丁目」徒歩1分
台東区循環バス 南めぐりん 「新御徒町駅」徒歩5分
JR御徒町駅 下車 徒歩12分
<施設HP>
台東デザイナーズビレッジ (designers-village.com)