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詩)目黒の居酒屋で

独りで目黒の居酒屋に入った このガヤガヤした居酒屋で 買ったばかりの「韓国光州事件の抵抗詩」を少し読みながら ホッピーでも飲もうとカウンターの角に座った ちょっとアクセントが変な店員が お客さんそこお酒出す席だから端によれという 強制的に隣の方と一つの椅子で同席になった どうも いいですか どうぞどうぞ カウンターで独りで飲んでいた彼は話したかったようで いつもここに来るんですかと話しかけてきた いえいえたまたまなんです でもなんだかお見かけしたような そうなんですよよく言われます 後ろにちょんまげ風に髪を束ねた男性はそう言って 実はわたし白血病でして 三年前に分かったんですよと話始めた えっそうなんですか
ぼくはいきなりのことで少し大げさかもしれないがリアクションした やっぱり人生観変わりましたよ 赤ちゃんの血液をもらって骨髄移植しまして そうなんですかそれは大変でしたね いえいえ30分で終わりました イメージとは違ってましたよ でも健康診断とか受けた方がいいですよわたしは50年くらい受けてなかったですからね がんだと言われてなにがいちばん変わりましたか なんだか欲がなくなりましたね 社会に貢献したいとかそう思うようになりました このお店で働いている子みんなミャンマーの子なんですよ 今ミャンマー大変でしょ ぼくなんか今日は2時から田町のピーアークでパチンコして神田屋でせんべろで飲んでそれでここにきてるんだけど 生きるってここに来るといいなあって思うことですよ こうやって初めて会った人とも一緒に飲めるし ミャンマーの子たちも生き生き働いているし ぼくはアパレル女性向けのデザイン40年もやって 一回も給料なんかもらわずに全部請負でやってきた三流いや二流くらいかなデザイナーです でも人生悔いはないですよ
こうやって飲むことがいちばん楽しいしね

それからもいろいろ話した
もうわたし行きますからと男性はふっと立ち上がって出て行った 
目黒の居酒屋でほんの一瞬の邂逅は終わった
お互いの一瞬はそのまま永遠になり(もう会わないだろう)
ぼくもホッピーの残りを飲みおえ 席を立った


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高細玄一(げん)
2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します