月をうむ 6
第六話 月の宝石
モジャリは、また、こびとの村にやってきました。
満月の日から五日目の月は、まるい形ではなくて、レモンの形に似ています。
レモンの形をした月は、モジャリが飲んだ分だけ欠けてなくなっているように見えました。
モジャリは、きのこ料理店の窓にこっそり近づきます。
月の蜜より甘い蜜を味わわせてくれるヒカリにもう一度会いたかったのです。
けれどモジャリがいくら待ってもヒカリは姿を見せません。
モジャリはイライラ待ちかねて、窓をべんべん叩きます。
ヒカリはびっくりした様子で外に出てきました。
「何してるの? みんなが起きてしまうわ」
満月の翌日から、月が昇るのが少しずつ遅くなっているので、こびと夫妻や彼らの小さな子どもたちはまだ目を覚ましません。
ヒカリはみんなを起こさないように静かに店をそうじしていたのです。
ヒカリの姿を見て、モジャリはうれしそうに、欠けたぼろぼろの歯を見せてにいっと笑いました。
「また月を飲みに来たの?」
ヒカリは困った顔をしてモジャリをじっと見ました。
モジャリは目をギョロギョロとさせながら、あわててヒカリに言います。
「ちがう、おいら、月は飲んでねぇ。ただここでおまえを待っていただけだぁ」
「私を?」
モジャリはぶるぶると震えながらうなずきました。
「……月を飲まないというのなら、話してもかまわないわよね」
ヒカリは独り言のようにそう言うと、モジャリの隣に腰を下ろしました。
モジャリもどすんと座ります。
「ねえ、どうして月を飲むの?」
ヒカリはモジャリに聞きました。
「月の蜜は甘くってぇ、とろとろでぇ、くらくらするほどうまいからさぁ」
モジャリは舌なめずりをして、うっとりと目を細めます。
「でも、月を飲めば、森のみんなに仲間はずれにされるのよ。きらわれ者になっちゃうわ」
ヒカリはやさしくさとすように言いました。
「へん、そんなのへっちゃらさぁ! 月を独り占めできるなら、喜んできらわれ者になってやるよぅ」
それを聞いたヒカリは、一瞬モジャリを非難するような怒った顔をしましたが、怒るよりもなぜか哀しい気持ちになってしまいました。
「……どうしてそんなこと言うの? きらわれ者でいいなんて哀しいわ」
ヒカリは怒り顔から一転、泣きそうな顔でモジャリを見ました。
「な、な、なんでおまえがかなしくなるんだぁ? きらわれ者はおいらだぞぉ。おまえがかなしいと、何だかおいらもかなしくなってきちまうよぅ」
そう言って、モジャリはおいおい泣きだしてしまいました。目からぼろぼろこぼれ落ちたのは、涙ではなく月の石です。白くつややかな石は、ひんやりと輝いています。
「わあ、きれい」
ヒカリは笑顔を見せました。
モジャリは地面に落ちた石を拾い集めてヒカリの前に差し出します。
「これ、おまえにやるぅ」
ヒカリはモジャリの震える手の中の月の石を一つだけ受け取りました。
「ありがとう。うれしい」
ヒカリはにっこり微笑みます。
モジャリはうれしいのに泣きたいような不思議な気持ちになりました。甘い蜜がのどの奥からこんこんと湧き出してきます。
「おいら、もう月は飲まねぇ。おまえが笑ってくれるなら、月の蜜なんていらねぇよぅ」
そしてこぼれたモジャリの涙はもはや白い石とも言えず、これまで見たこともないぐらいに美しく輝く虹色の宝石となりました。
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