月をうむ 1
トタンの屋根に月が流れて落ちてくる
とろとろ甘い月の蜜
てのひらでそっと飲み干した
心で照らす陰と陽
夢のしじまに月をうむ
第一話 満月の夜
まっくら森はいつも夜。朝も昼もおとずれません。
さわざざざざぁーんとうねる木々。枝葉のすき間は網のよう。ぽつぽつひっかかる星は、かすかな白い豆電球。満ちては欠ける月の灯は、心もとないカンテラです。
今夜は満月。
まっくら森が最も明るくなる夜です。
満月の夜は切りかぶだらけのぽっかり広場で大集会が開かれます。
まっくら森の住人が、広場にわらわら集って、まんなかにある大きな古い切りかぶをかこみます。
噂話が大好きな聞き耳ウサギは、住人たちの輪の中から、まんなかの切りかぶに向かって耳をぴんとのばしました。
うさぎの耳のアンテナは、切りかぶの上にいる物知りフクロウとランプ屋の小人じいさんの会話をぴたりととらえます。
「そりゃもうおどろいたのなんのって!」
小人じいさんは言いました。
「わしはランプを作るため、いつものように月見草畑に行ったんだ。夜光蝶がまき散らすリン粉のかかった月見草を煎じて、発光薬を作るためにな。こりゃわしの長年の研究成果のたまものだ。リンリンうるさいスズランの鈴の鳴り物を取ってだな、花びらの内側にたっぷりと発光薬を塗り込めば、一連なりのスズランランプのできあがりというわけだ」
小人じいさんのいつもの自慢話に住人たちはうんざり顔です。
それでも途中で話の腰を折ってしまうと、小人じいさんはつむじを曲げて、それ以上話すのをやめてしまうので、フクロウや森の住人たちは、毎度の話にあきあきしながらも、辛抱強く聞いていました。
けれども好奇心旺盛な聞き耳ウサギは、がまんできずに住人たちをかきわけて、前に進み出て言いました。
「それで? 月見草畑で一体何があったんだい?」
ウサギに先を急かされて、小人じいさんはちょっぴりムッとしましたが、すでに気はすんでいたので、そのまま話を続けることにしました。
モモンガとコウモリは、ひまつぶしのケンカをやめて、いよいよ耳をかたむけます。
みんなの関心が高まる中、小人じいさんは大げさにせき払いをして、話を続けました。
「月見草畑はいつもより明るく、まぶしいくらいだった。今夜が満月だからという、ただそれだけの理由じゃない……いや、それも少しは関係していたかもしれん。何しろまぶしかったのは、月の光を反射する夜光蝶の羽だったのだから。問題は、その蝶の数だ。そりゃもうたくさんの蝶が飛んでいた。たまげたよ。生まれて初めて見る光景だ。夜光蝶の大群がぶつかりあって、羽がこすれて、青い火花のようにリン粉が飛び散っていた。だが、大量のリン粉が降り注ぐのは月見草なんかじゃない。ありゃ何だ?あれは……あれは……」
「だからそれは何なんじゃ?」
フクロウは焦れて言いました。
「それがわからんから、物知りのおまえさんに聞いとるんだ!」
小人じいさんは切りかぶの前でぴょんぴょん飛び上がり、フクロウを怒鳴りつけました。
「とにかくそこに行ってみよう」
聞き耳ウサギはそう言うや、月見草畑に我先にと駆け出しました。
フクロウやほかの獣、小人たちもウサギの後に続きます。
妖精たちも、薄いヴェールのような背中の羽を次々さわっと広げると、スズランランプをしゃんしゃんかかげて飛んでいってしまいました。
広場がしーんとなった頃、ぽっかり夜空にぷかぷかと満月が浮かんできました。
第二話 月見草畑
第三話 キノコ料理店
第四話 森の嫌われ者
第五話 森のルール
第六話 月の宝石
第七話 半分の月
第八話 異変
第九話 おとぎばなし
第十話 どっぷり沼の大ナマズ
第十一話 初月の痛み
第十二話 地下図書館の古い本
第十三話 会合
第十四話 月宿る
第十五話 月を産む
第十六話 生まれた月
第十七話 ママの秘密
最終話 月の女神
#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門
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