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特別企画 リスク性金融商品販売における基本ルール ー 顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果を踏まえてー

 現在、「新しい資本主義」の考えの下、「成長と分配の好循環」の実現に向けた取り組みが推進されている。その一方、金融機関等においては顧客本位の業務運営の確保に向けた取り組みが不十分との指摘がされている現状もある。
 本稿ではリスク性金融商品販売における基本ルールを改めて確認するとともに、実践が不十分と指摘された点を踏まえてとるべき対応を解説する。

               片岡総合法律事務所 弁護士 小柏 光毅

1 顧客本位の業務運営に関する規範・ルールと     ペナルティ

⑴ 顧客本位の業務運営に関する原則
 主要な原則を示し、それに沿った金融機関の自主的な取組みを促す、いわゆるプリンシプルベース・アプローチを採用したものとして、「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「FD原則」という。)が存在する。FD原則においては、金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則が定められ、金融事業者がこれらを踏まえて自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合うことで、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現が目指されている。ここでは、「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」(2024年7月5日付)(注1)(以下「2024年モニタリング結果報告書」という)においても言及されている原則などを中心に、FD原則の内容をいくつか紹介する。
ア 原則2 -顧客の最善の利益の追求
 金融事業者は、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図ることが求められる。ここでは、上記対応を通じて、金融事業者自らの安定した顧客基盤と収益の確保につなげていくことを目指すべきとされており(注2)、金融事業者が収益を上げることが否定されているわけではないという点が注目される。すなわち、顧客の最善の利益を考えた良質な金融商品・サービスを顧客に提供し、顧客側も自分にとって最善の利益につながっていると実感することにより、当該金融事業者への顧客の信頼も高まり、当該顧客のリピートや知人等への照会を通じて顧客基盤が形成されていくことが目指されている。金融事業者としては、顧客の最善の利益を図ることについて、単にペナルティを回避するために対応しているといった意識ではなく、自らの顧客基盤の拡大・収益の増大に寄与するための対応の一つとして位置付けて取り組んでいくことが求められていると考えられる。
イ 原則4 -手数料等の明確化
 金融事業者は、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるように分かりやすく提供することが求められる。
ウ 原則5-重要な情報の分かりやすい提供
 前記イに示された情報のほか、金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるように分かりやすく提供することが求められる。ここで、「重要な情報」として含まれるべき内容について、①金融商品・サービスの基本的な利益(リターン)、損失その他のリスク、取引条件、②金融商品の
組成に携わる金融事業者が販売対象として想定する顧客属性、③金融商品・サービスの選定理由(顧客のニーズ及び意向を踏まえたものであると判断する理由を含む)、④顧客との利益相反の可能性がある場合には、その具体的内容(第三者から受け取る手数料等を含む)及びこれが取引又は業務に及ぼす影響、が挙げられている(注3)。また、金融商品・サービスの複雑さに
見合った情報提供を分かりやすく行うことなども求められている(注4)。
エ 原則6 -顧客にふさわしいサービスの提供
 金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うことが求められる。ここでは、顧客の意向確認や顧客のライフプラン等を踏まえた目標資産額や安全資産と投資性資産の適切な割合の検討に基づいて金融商品・サービスの提案を行うこと、類似商品や代替商品の内容(手数料含む)と比較しながら提案を行うこと、販売後においても顧客の意向に基づき長期的な視点にも配慮した適切なフォローアップを行うことに留意すべきとされている(注5)。また、商品組成に携わる金融事業者が特定・公表する販売対象として想定する顧客属性を理解して販売を行うことが求められている(注6)。
 特に、直近でプロダクトガバナンス(顧客の最善の利益に適った商品提供等を確保するためのガバナンス)の確保に関する内容が追加された点が注目される。すなわち、2024年9月に、FD原則に新たにプロダクトガバナンスに関する内容(後記「プロダクトガバナンスに関する補充原則」を含む)が追加され、原則6においても、金融商品の販売に携わる金融事業者から組成に携わる金融事業者に対して、金融商品の購入者の顧客属性に関する情報、金融商品に係る顧客の反応や販売状況に関する情報を提供するなどして両者で連携を図ることが求められることとなった(注7)。
オ プロダクトガバナンスに関する補充原則
 前記エのとおり、2024年9月に、製販全体として顧客の最善の利益を図ることを目的として、「プロダクトガバナンスに関する補充原則」が追加された。当該補充原則自体は、主に金融商品の組成会社が名宛人となっているが、他方、2024年モニタリング結果報告書においては、販売会社においても、適切な検証期間の下でのリスク・リターンの合理性等や自らの想定顧客層に適した金融商品かどうかについて検証を行った上で、顧客の最善の利益の追求に資するリスク性金融商品の導入を判断すること、金融商品を導入した後も販売実績等を基に商品性を継続的に検証し、必要に応じて商品の見直し等を行うことが重要であるとされている(注8)ため、留意が必要である。

(注1)https://www.fsa.go.jp/news/r6/kokyakuhoni/fdreport/02.pdf
(注2)原則2の(注)
(注3)原則3の(注1)
(注4)原則3の(注3)・(注4)
(注5)原則6の(注1)
(注6)原則6の(注3)・(注4)
(注7)原則6の(注6)・(注7)
(注8)2024年モニタリング結果報告書9頁

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