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映画を多元的に読むとは──『Film Analysis 映画分析入門』

映画を見ることは、ストーリーを追いかけるだけではありません。映像、音、歴史、思想……映画の中にはさまざまな要素が絡み合い、豊かな表現が織り込まれています。『Film Analysis 映画分析入門』は、映画を「トータルに読む」ための視点を与えてくれる画期的な一冊です。本書を読んで感じたポイントや学びをまとめました。


感想:技法と批評の架け橋となる一冊

映画の分析を学ぶ本には、技法解説に偏りがちであったり、高度な批評に重点を置きすぎていたりと、初学者には敷居が高いものが多い印象があります。しかし本書はそのどちらにも偏らず、技法と批評を架け橋としてつなげるバランスに優れていると感じました。

特に注目したのは以下の点です:

  1. 第一部:物理的な対象(技法)の分析
    映像技法の基礎から、カメラアングル、ライティング、編集、音響といった具体的な要素がわかりやすく説明されています。たとえば、『シャイニング』におけるカメラワークがどのように緊張感を生み出しているのか、スチル写真を使った解説が非常に実用的でした。

  2. 第二部:意味上の対象(批評)の分析
    歴史、政治、思想といった大きなテーマに絡めて映画を分析する視点が示されています。たとえば、『ゴッドファーザー』がアメリカ社会の資本主義と家族の力学をどのように描き出しているかを深掘りする内容は、映画の背後にある意味を考えるきっかけになりました。


映画作品を通じて学ぶ「多元的な視点」

本書の特徴的な魅力は、豊富な映画作品を実例として取り上げている点です。これにより、読者が実際に映画を観ながら学びを実践できる構成になっています。

具体的な学び:

  • 『時計仕掛けのオレンジ』や『セブン』
    映像美とテーマの緊張感の融合。どのように観客の感情を揺さぶるか。

  • 『自転車泥棒』や『突撃』
    社会的・政治的背景を反映するストーリーテリングの重要性。

  • 『レボリューショナリー・ロード』や『つぐない』
    叙情的でありながら複雑な人間関係を映像で表現する手法。

映画のジャンルや制作年代が異なる作品を並列的に分析することで、映画の多様性とそれぞれの共通点を学ぶことができました。


本書を読んで得た新しい視点

  1. 映画は「鑑賞」から「体験」へ
    本書を読んだ後は、映画をただ観るだけでなく、製作者の意図や背景にまで目を向けるようになりました。シーンの一つひとつに意味が込められていると考えると、鑑賞そのものが「体験」に変わります。

  2. 批評のハードさへの挑戦
    「技法を知る」ことが批評を理解する第一歩だと教えてくれる本書は、初心者にも批評の世界への入り口を提供してくれます。ただし、それを深く掘り下げるには努力が必要だという現実も示してくれました。

  3. 作品に多面的なアプローチを
    本書を通じて、同じ映画でも「映像技術」「社会的背景」「観客の感情」など、異なる視点から見ることで新たな発見が得られることを実感しました。


まとめ

『Film Analysis 映画分析入門』は、映画をより深く、そして多元的に楽しみたい人にとっての最適なガイドブックです。技法と批評をバランスよく解説しているため、初心者から中級者まで幅広い読者層に適しています。映画の新たな見方を得たい方、批評に挑戦したい方にぜひおすすめの一冊です。

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