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残したいもの

デーリー東北新聞「ふみづくえ」
リレーエッセイ 2020年8月5日掲載

ジンジャー姉妹 湊山はる

 本来なら8月上旬は八戸にいて、朝市や三社大祭を楽しんでいる予定であった。――しかし残念なことに、コロナ禍で三社大祭は山車行列などが中止。オリンピックも開催できないくらいだからしょうがないのだが、北国の短い夏における大切な楽しみが失われてしまったのは、やるせないの一言に尽きる。それでなくとも、感染者が増え続けている東京から青森に帰るわけにもいかない。そんなわけで、雨の降り止まない東京でぼんやりステイホームする夏を送っている。

 さて、連載も姉妹交代で担当し4回目となったが、「そもそもジンジャー姉妹とは何者なのだ」と思う方も多いのではないだろうか。

 全ての始まりは6年前、軽い気持ちで映画「アナと雪の女王」の挿入歌の南部弁バージョンをYouTubeで公開したことだった。映画が公開中だったこともあり、自分でもびっくりするほど〝 バズった〟。祖母やイサバのカッチャたちの強い訛りに触れて育ったのが功を奏したのか、歌詞を訳す際、すっかり標準語が板に付いた自分の中からスルスルと方言が紡ぎ出されるのが面白く、そこで初めて南部弁の魅力に気が付いたように思う。その後、仕事や出産・育児でバタバタして、いつの間にか5年が経過した頃、「またYouTubeやらないの?」と声を掛けてきたのが姉だ。一人だとまたフェードアウトするのは目に見えている。というわけで姉を巻き込み、八戸から遠く離れた東京の片隅で、ひっそりと「ジンジャー姉妹」が誕生した(ちなみにジンジャーとは、実家が神社だったことに由来していて、ショウガは1ミリも関係ない)

 それ以来、YouTubeで南部弁のカバー曲や解説動画を公開しているのだが、南部弁をおもしろおかしいコンテンツに落とし込もうとはあまり思っていない。そういったアプローチも楽しいが、「方言×笑い」はとても繊細さが求められる。ともすると反感か嘲笑のどちらかに針が振れてしまう。だから、十日市秀悦氏やあどばるーんさんらは素直にすごいなと尊敬している。私たちはそういった表現のバランス感覚を持ち合わせていないし、なるべくニュートラルな形で南部弁を残していきたいのだ。歌でも殊更に「田舎臭さ」みたいなものを強調することなく、原曲を生かして表現することを心掛けている。そうすることで、良く言えば素朴、悪く言えば後進的といったお決まりのイメージを取っ払い、懐かしくも新しい一面を見出してもらえるのではないかと考えている。南部弁を、誰もが視聴できるコンテンツとして淡々と残していくこと。これが私たちのできる方言の「保守」の形であり、活動の理由だ。

――ところで、最後にこれだけは言っておきたい。みんなに「YouTuber、もうかるんでしょ?」と言われる。全然もうからない。もうからないんだよー!今日も本業に追われヒィヒィ言いながら、二足のわらじで動画を作っているのである。でも楽しいからいいのだ!


<デーリー東北新聞社提供> 
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ジンジャー姉妹
八戸市出身の実の姉妹(湊山りえ・湊山はる)によるクリエイティブユニット。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、歌と解説を通して南部弁の魅力を紹介。はるによる「アナと雪の女王」主題歌の南部弁バージョン「雪だるまこへるべ」「生まれではじめで~リプライズ」では、累計1200万回再生を突破。東京都在住。

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