さらまわしネタ帳051 - 1時間芸術
どうにも時間の管理が苦手でいけません。いつも時間が足りないという感覚に付き纏われているような日々なので、このコロナ禍での臨時休業を何とかうまくバネにして、この感覚を解消できないかと考えてはいるんですけどね。結局あればあるだけ使う、金欠病みたいなところがあって、全然解消されません。時間があればやりたいことが次から次へと出てきてしまって、結局毎日アップアップしています。
時間の使い方で苦慮しているのは日々の暮らしの場面だけではなく、例えばラジオ番組の企画をするときでも、どうしても毎回時間が足りなくなってしまうんです。しゃべりのラフ原稿は、一応10秒単位で調整できるように作りますからラフでもないんですけど、そのまま読んでいるわけではないので、ラフはラフでしょう。
先週金曜日が本放送だった「音楽が死んだ日」の特集、どういうわけか心残りでいけません。また来年の同じ時期に第2回をやるかと思うほど、かけたかった曲がかけられませんでした。ストーリーを作っていったときに、飛行機事故で亡くなったアーティストをリストアップして、バディ・ホリーとリッチー・ヴァレンス以外は、ジム・クロウチ、リッキー・ネルソン、オーティス・レディングの3人に絞りこんだ時点でもう心残りが生じているんです。
「やっぱりスティーヴィー・レイ・ヴォーンもかけるべきだったかな」とか、「バディ・ホリーに絡めて語るならパッツィー・クラインの方が相応しかったかな」とか、いまだに考えてしまうんです。特にパッツィー・クラインは飛行機事故で亡くなっていますし、「ウォーキン・アフター・ミッドナイト」という大好きな曲もあるカントリー系の人気者ですからね。飛行機事故で亡くなったアーティストはリッキー・ネルソンとパッツィー・クラインに絞って、カントリー系の関係者でストーリーをまとめて、アウトロー・カントリーのウェイロン・ジェニングスにもご登場願うか、という案も捨て難かったんです。
ウェイロン・ジェニングスは、バディ・ホリーのバンド・メンバーとして一緒にツアーをしていたんですけど、極寒のツアーバスで凍傷になる人間が出るほど劣悪な環境だったそうなんです。一緒にツアーをしていた、J.P."ビッグ・ボッパー"リチャードソンという、第3の犠牲者が風邪をこじらせていて、飛行機の席を譲ってやったんです。しかもウェイロン・ジェニングスが飛行機に乗らないと知ったバディ・ホリーは、「じゃあ僕はお前のおんぼろバスが凍っちまう事を祈っててやるよ!」と冗談を飛ばし、彼もそれに返して「じゃあ俺はお前のおんぼろ飛行機が落ちてしまう事を祈っててやるぜ」と言ったんだそうです。当然それを一生後悔することになるわけです。アウトロー・カントリーの人気者は、そんな事情もあって、荒れた生活を続けていたという、なかなか悲しいストーリーです。
自分はウェイロン・ジェニングスの音楽がそれほど好きなわけではありませんが、どうしても忘れられないアルバムが一枚あるんです。ヘッダー写真の「OL' WAYLON」がそれなんですが、1曲目に「LUCKENBACH, TEXAS (Back To The Basics of Love)」という、カントリー・シンガーが好んでカヴァーする曲が収録されているんです。
この曲名は地名なんですが、全く人がいないド田舎の町に誰かさんが持っていた空き家があって、そこを格安スタジオに見立ててレコードを作った人達が何人かおりまして、「基本に立ち返れ」という教訓を込めたものなんです。これがちょいと好きでしてね…。カヴァー曲中心ですが、なかなか沁みるアルバムなんです。
とにかく、1時間に収まる選曲としゃべりでうまくストーリーを完結させることを優先すると、増やしていくよりは、多めに選出しておいて、落としていく方がやり易いんです。自分のお店でやっていたトークイベントは3時間でしたから、毎度30~36曲程度かけるんですけど、あれだって、100曲程度から落として行って構成を練り上げていたんです。1時間という絶対的な枠があるわけですから、その中で薄くなったり、焦点がブレたりしないように工夫しながら、どれだけリスナーさんに伝えられるか、という部分が大事なんです。
物理的に制限があった昔のポップスを称える表現として、「3分間芸術」という言葉があります。大好きな言葉です。自分が目指しているのはおそらく「1時間芸術」なんだと考えています。それでも、今回どうしてもはまらなくて、1曲目にバディ・ホリーのオリジナルだけをかけた「It Doesn't Matter Anymore」の素晴らしいカヴァーをご紹介できなかったことは悔やまれます。ダニー・ガットンはアナログ盤が流通していないから仕方ないんですけどね。残念です。