さらまわしネタ帳043 - ブラインド・ウィリー・マクテル
ボブ・ディランの曲に「ブラインド・ウィリー・マクテル」というものがありまして、評論家もアーティスト連も名曲と認めるものでありながら、オリジナル・アルバムには収録されていないんです。1983年の「Infidels」というアルバムを作っているときのセッションで録音されたということですが、何で収録しなかったんでしょうね。
「Infidels」はディランがキリスト教に宗旨替えしてボーン・アゲイン・クリスチャンになった後、ユダヤ教に戻って最初のアルバムです。スライ&ロビーのリズムにミック・テイラーのギターという面白い布陣の時期です。プロデュースはマーク・ノップラーですが、途中で放り出して自分のツアーに出かけてしまったということで、仕上げはボブ・ディラン本人がやったとのことで、いわくつきのアルバムですね。Wikipediaなどを読むと、やたらとアルバム未収録曲がありまして、どうも中途半端になってしまったんですかね?私はアルバム1曲目の「ジョーカーマン」とか、結構好きですけどね…。
「ブラインド・ウィリー・マクテル」のメロディはトラッド・ジャズの「セイント・ジェームス・インファーマリー・ブルース」を下敷きにしているとのこと、あまりよく知らない曲なので、ふーんといったところですが、でもボブ・ディランの「ブラインド・ウィリー・マクテル」としての評価がもの凄く高いんですよね。ノーベル賞とかとってしまうと、そうなってしまうんですかねぇ…。
まず、1991年にリリースされた編集盤「ブートレグ・シリーズVol.1-3」にディランがピアノを弾いているヴァージョンが収録されます。アコースティック・ギターをマーク・ノップラーが弾いており、「なんでこれが未発表だったのさ」と話題になりました。90年代、ザ・バンドがこの曲をカヴァーしたりもしておりまして、ライヴでも結構やったようですね。
これが2021年には「ブートレグ・シリーズVol.16」で2種のフルバンド・ヴァージョンがリリースされます。こちらはギターがミック・テイラーでして、2種というのはキーボードがオルガンのものとピアノのものなんです。「…なんでこれが未発表だったのさagain」です。この音源は7インチ・シングルとして表裏に収録して、レコード・ストア・デイのアイテムとしてもリリースされました。ヘッダー写真はそのRSDの7インチ盤です。
そもそも、なんでブラインド・ウィリー・マクテルなんですかね。1901年生まれ、1959年没、1930年代から50年代にかけて活躍した実在のブルースマンですが、本名はWillie Samuel McTellでして、Blind Sammieとも表記されます。全盲ですが、アメリカ南部を旅してまわり、いろいろな音楽スタイルを吸収したので、ブルースにとどまらない多彩な曲調が特色とでも申しましょうか、音楽的な才能は相当のものだったようです。
ボブ・ディランはアメリカの黒歴史と奴隷制度の犠牲になった黒人ブルースマンに関して思うところがあったようで、21世紀になってからも、「High Water (for Charley Patton)」とか「Goodbye Jimmy Reed」といった続編のように言われる曲を作っています。「High Water」の歌詞に出てくるのはビッグ・ジョー・ターナーだったりするんですけど、やたらと水浸しになっていることを嘆いている歌詞でして、日本人の自分にはなかなか本質的な部分まで理解できておりません。
結局のところ、何を歌っても、彼の場合、ワーキングマンズ・ブルースなのかもしれませんけどね。彼の詩集を読んでいると、人権問題に関する批判的な歌詞が多いことに驚かされます。こういった一連のブルースメンを題材にしたスタイルの曲にも、当然通底する考えがあるのでしょう。理解しようとしても限界があると思うので、自分はそのスタンスや読んで理解できる範囲内での歌詞などから、彼の思うところを感じ取ることしかできません。でも、そういう人なんだということは、この2~3年でよーく判りました。やっぱり、ボブ・ディランって凄い人です。これが最近の率直な感想です。