清澄白河カフェのキッチンから見る風景 : ホット・クラブ
時の流れの早さに驚いて、書こうと思っていたことがすっ飛んでしまったんですけど、横浜のThumbs Upでホット・クラブ・オブ・カウタウンを観たのがもう20年前なんです。あの3人のテクニックにぶっ飛んだのは数年前のような感覚でいましたからね…。
ドラムレスのアコースティック・スウィング・トリオ、ホット・クラブ・オブ・カウタウンには、一時ズブズブにハマりました。意識して聴かなければ、ノリのいい田舎っぽい音楽を楽し気にやっているだけで済まされてしまいそうなのですが、一旦そのテクニックの凄さや背景にある音楽性の複雑さに気が付くと、これは大学の研究室にでも籠って研究したくなるものを内包しています。
とにかく、フィドルのエラナ・フリマーマン(エラナ・ジェームス)のテクニックと容姿にまず気を取られます。
カワイイおねえさんがニコニコしながら、踊りながら、どえらい高速フレーズを次から次へと繰り出してきます。フレーズはメリハリがきいていて、メチャクチャ正確ですから、相当のテクニックというのは数秒も聴けば分かります。ところが、アンサンブルまで気になり始めると、「オイオイ…」という感じになってしまいます。3人とも凄いじゃねーか、と。
ステージはちょいと芝居がかったこともやりながらだったり、ギターのウィット・スミスが色男的な存在でいろいろ楽しませてくれたりします。ベーシストは何度かチェンジしておりまして、ビリー・ホートンだかジェイク・アーウィンだと思いますけど、誰なのか特定できないんですけど、役割的には優しく見守っているかと思いきや、いきなりスラップ・ベースで暴れ始めたり、ロカビリーに引っ張って行こうとしたり、こちらも楽しませてくれます。
そうそう、思い出したんですけど、横浜で観ていたときも、「これを観て100%理解できる日本人はいないな」と感じていたんです。やっていることは、表面的には楽しそうな演芸会ノリなのに、時々垣間見せる背景の音楽的なルーツのディープなことといったら、「おーい、学者連れてこい」レベルです。
実は最近、同じような感覚になったことがありました。タージ・マハルとライ・クーダーのコラボ・アルバム「ゲット・オン・ボード」を聴いたときです。今のところ、今年リリースのアルバムで一番のお気に入りです。まあ、やっぱりねぇと言いたいところですが、ルーツを知らないと楽しめるものではありません。副題に「The Songs of Sonny Terry & Brownie McGhee」とあるように、ピエモンテ・ブルースのアルバムです。
そもそも、ピエモンテ・ブルースというものをご存知でしょうか?ピードモントとも言います。アメリカ東海岸、南東部のアパラチア山脈の麓あたりを指す言葉でいい表すスタイルです。ギター演奏のスタイルだと言われることが多いようですが、低音弦を親指で押さえてベースラインを形成し、高音弦でメロディを奏でます。でもそれだけではなくて、リズムに関しても特徴があるんです。デルタ・ブルースほどの重さはなく、軽妙で楽し気に聞こえるリズムは独特です。
代表的なアーティストは、タージ・マハルやライ・ク―ダ―がリスペクトを表した2人の他、日本で知名度が高いのはブラインド・ウィリー・マクテル、ブラインド・ボーイ・フラー、レヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスといったあたりでしょうか。加えて面白いのが、白人音楽からの影響もあることでしょう。そう考えて、よくよく聴くと、パーティ・バンドのノリが聞こえてくる気がします。…そうなると、ホット・クラブ・オブ・カウタウンと根っこのところで交わっている???
ホット・クラブ・オブ・カウタウンって、ジャンゴ・ラインハルトのフランス・ホット・クラブ五重奏団へのオマージュというか、ジャンゴとステファン・グラッペリのスタイルを田舎くさくやっているようなイメージで捉えていたんですけど、むしろピエモンテ・ブルースのノリの方が影響は大きいような気がしてきましたね。というか、ドラムレスでリズムに特徴があるピエモンテ・ブルースの影響を垣間見せる技とか、ブルーグラス的なノリでいながら、ロカビリーのノリが出てきたりするあたりでは、ある意味、リズム・チェンジの技を見せつけているわけ???…やっぱり、この人たちって、もの凄いことをやっているんじゃないか、となるわけです。
そういえば、この人たちって、アナログでは聴けないと思っていたんですけど、昨年になって2010年頃のアルバムが突然アナログ・リリースされたんです。タイトルは「What Makes Bob Holler」、これの副題が「A Tribute to Bob Wills and His Texas Playboys」とありまして、「Steel Guitar Rag」なんかのボブ・ウィルズへのトリビュートとなっています。
ボブ・ウィルズは戦前のポピュラー・ミュージックとしてのジャズ・テイストを取り入れながら、カントリー・ミュージックの中でもウェスタン・スウィングのスタイルを確立した人ですね。彼の音楽はロックンロールの勃興やカントリー・ミュージックの確立とも関わっていると言われ、極東の島国でどれだけ頑張って洋楽を聴いていても理解が及ばないほど、壮大な背景を抱えているわけです。
何だかホット・クラブ・オブ・カウタウンをもう一度全部聴き直してみたくなりましたね。CDで買い集めたりしたものの、手元にはベスト盤やら数枚しか残っていません。買い直す気にもなりませんが、配信はまだまだ十分とは言えない状況です。まあ今はYouTubeやら、他にも強い味方がウェブ上にいますけど、動画で観る限り、パーティ・バンド的な楽しい演奏や趣向に目を奪われ、ルーツィな部分の勉強には向きません。…なんだか楽しくなってきたな。
YouTubeでエラナさんの家の裏庭でやった演奏とか出てきまして、これなんか彼女らにしてみればシンプルな曲ですけど、リズムとか解析してみたくなる演奏ですね…。
こりゃあ時間がいくらあっても足りないや。
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