7インチ盤専門店雑記744「ダニーの店で」
偉大なるレコード・コレクターズ誌の2013年6月号がもう10年ほど枕元に置いてありまして、時々パラ見するのですが、10年かかってもスッキリしない悩ましいページがあるんです。見開き2面つまり4ページほどの連載で、アメリカン・ロック・リリック・ランドスケイプというものです。この号で第37回、取り上げているのはリッキー・リー・ジョーンズの「ダニーの店で Danny's All-Star Joint」です。分かる人は分かる、アンタッチャブルな一曲です。書いているのは鎌倉在住のDJ、サーファーのジョージ・カックル氏、…もう本当に心から尊敬してやまない人ですが、やらかしているなぁという記事でもありました。
そもそもリッキー・リー・ジョーンズの歌詞を解析するなんて野暮なことを思いついてしまったのがいけませんやねぇ…。リッキー・リーの歌詞って曲でスラングのレベルを使い分けているので、ネイティブ・スピーカーでも「よくわからないけど…」という接頭辞が100%ついてくる恐ろしいものですよ。アンタッチャブルですって。しかもこの曲、最高レベルのスラングで埋め尽くされておりますぜ…。
スラングと言っていいのか暗喩と言うのか、こういう言葉のやりとりってタイミングが大事で、コンマ1秒返しが遅れただけで、バカにされるというか、瞬時に「わかんない?」と言われてしまいます。まあそもそも舞台がジョイントっていうくらいなので、ヤバめの酒場です。リッキー・リーの文学性の高さは相当のレベルで、同じファースト・アルバムなら「チャック E.」もいいですが、「ラスト・チャンス・テキサコ」あたりがいい例でしょうか…。もう少し一般人が分かるレベルに引き下げてあります。
ところがダニーの店では娼婦的なお下品な女性になりきってスラングを連発するわけですよ。もう全てが色話、原則下ネタと考えて、言葉を置き換えながらでないと理解できません。そもそもコンマ1秒で置き換えできればネイティブ・レベルですって。ネイティブのミスター・カックルでもかなりあやしいわけなんですよ。「…ちゃうな」という箇所まみれなんですね、これが。…よくこれを連載記事にしましたねぇ…。
まずは前提として、クルマ社会の目線を持って読まないといけませんが、例えば「He knows all the under-riders on the boulevard, They got to barefoot cruise when it's forty-weight hard」という部分、lowriderではなくてunder-riderと言うだけで、ダニーは白人のシャコタン乗りを皆んな知っている土地の顔というところまでは読み取れます。後段で簡単に落ちてくれない、いけ好かない野郎という意味が読み取れますかねぇ?
forty-weightはエンジンオイルの40wのことでしょうから高粘性オイルがいきなり出てくるわけですね。オイルがまだ固いということは、濡れないという程度に解釈して、ついでにエッチなお姐さんキャラまで説明しているわけですよ。前提にコーヒー代を受け取らないダニーに、「うけとってよ」と言っているわけで、隙あれば貸しを作っておきたい人間関係まで語っているんでしょうね。ミスター・カックル、ここは意味がないとか言ってますが、…多分いろいろ意味ありますよ。真面目な親父っさん、エッチな女性目線の会話の置き換えができてないだけですよねぇ…。
…とまあ、ここまで書いて思うんですけど、スラングの解析って思い切りダサい行為ですよねぇ…。瞬時の会話のやりとりを長々考えたところで意味ないですしねぇ…。
カナダでホームステイさせていただいたファミリーに娘さんが2人おりまして、やんちゃなお姉さんのほうの言葉は30%程度しか理解できませんでした。帰国前にそのことをディナーのテーブルで白状したら、ご両親が声を揃えて、「それだけでも凄い、ちゃんとリアクションしていた」と言われ、親でも理解できないスラング多めの娘だったんですねぇ…。その時、彼女から「タイミングよくリアクションしてくれたから問題ない」とも言われましてね。推測でも会話は成り立つということで皆んな納得しあったんです。…そんなことを思い出しましてねぇ…。
うーん、リッキー・リー・ジョーンズ、やっぱり難易度高めです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?