見出し画像

7インチ盤専門店雑記641「She Makes My Day」

1991年秋頃、ヴァンクーヴァー郊外のサレーという都市の市役所に派遣研修名目で放り込まれておりました。日替わりでお世話係の担当者が就いてくれ、毎度自分の担当業務や実績を紹介してくれる、実に有り難い日々でした。毎日初対面の人間と長時間過ごさなければいけないので、精神的な負担が大きいプログラムであることは周囲の誰もが認めているものでしたが、ただしそれは人によって違いますよね。自分の場合は楽しい毎日で、大体が午前中、早ければ30分程度で打ち解け、仲良くなってしまうので、帰国前は大勢から食事に行こうと誘われたり、自宅に招かれたり、タイヘンなことになっておりました。女性スタッフが担当の日は、香水の匂いがうつってしまい、ホスト・ファミリーにからかわれてタイヘンということもありましたね。…どこで何してきたって。「カナダに移住する気はないか」と延々口説かれていただけです。

そんな研修の日々で、忘れられない面白い言葉がありました。夕方に市庁舎に戻り、お別れの挨拶のとき、何人もの担当者が「You make my day.」とか「You made my day.」という言葉を使ったんです。最初は意味が分からず、気になって「Do I make your day... tell me, what do you mean?」と訊き返したところ、「It means I appreciate you.」と教えてくれまして、感謝の言葉だと言います。洒落た言い方だなと思い、翌日からは自分の方から使ったりもしたものです。日本からやってくる研修生を受け入れるのは、先方にとっても随分負担が大きいことであると薄々感じておりましたし、謝意を伝えるのは大事なことですからね。

Make my day、今ならダーティ・ハリーの決まり文句でしょうか。当時の自分にとっては、ちょっと前、88年にヒットしたロバート・パーマーの激渋バラード「She Makes My Day」のアレか!といったところでした。洒落た言い方と感じてしまったのもそのせいでしょうか。 

実を言うとその研修、最初の頃は部長さんや課長さんが担当してくれたのですが、どうもコイツは大丈夫だと思われたようで、途中から現場の職員が直接面倒を見てくれるようになりましてね。ここからがシフト・アップ状態、グッと面白くなったんです。何故なら、カナダも移民の国、組織の幹部職員は概ね生まれながらのカナダ人ですが、現場の人間は中国系、オランダ系、フランス系などの移民の人々が多いわけです。つまりお互いヘタな英語を使った、身振り手振りの全力コミュニケーションの日々の始まりです。

業務で管理している施設等の説明以外に、上司への不満や仕事への疑問、人生の目的のような話題が増え、ランチタイムが長くなり、それぞれが属するコミュニティの自慢やらも増え、実際に連れて行かれたり…、まあ後半にいくほど楽しい日々でした。「ヤツは凄くキレイに食べるから、皆さん自身のテーブルマナーを見直すように」というお達しが出されたという情報もありましたっけ。

先方も緊張していたり、何を話せばいいんだとストレートに言われたこともありました。お互い様だったわけで、数時間を共に過ごして打ち解け、仲良くなった途端にお別れという、別の意味でシンドイ日々でもありましたね。毎日夕方には「You make my day, thank you.」「No no no, you made my day.」「No no, you made my day. 」…とやっていたわけで、懐かしいというか、忘れられるものではありませんね。

ロバート・パーマーが2003年に心臓発作で亡くなったというニュースを目にしたとき、思わず「You made my day.」とつぶやいてしまいましたが、やはり今となっても、ネクタイ姿でロックをやる洒落オヤジは彼が代表でしょうね。ブライアン・フェリーよりは渋さ増し増しで、何だかこちらもニヤけてしまいます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?