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7インチ盤専門店雑記892「ビートルズ以前…」

ご依頼をいただいた講師の話ですが、ビートルズすらリアルタイムでは聴いていない人間が60年代の世相等を語るわけで、無理があるのは承知の上、学究的に蓄積してきた知識と、レコードという現物が手元にあるという強みを最大限に生かして、何ができるかという話です。無類の本好きでもありまして、活字から得られる情報は限りあると知りつつ、また著者の生まれ育った環境などのバイアスもある程度考慮しつつ、現在トークイベントなどで披露しているサブカル近現代史研究を進めているわけです。…何も役に立たない知識かもと思いつつ、好きで長年やっているわけで、レコードなどと相俟って語ることを面白いと感じてくれる方がいらっしゃることが励みにもなります。

そんなわけで、本から得られる知識は重要です。ヘッダー写真の亀渕昭信氏の著書なんぞ、実に美味しい話題が満載なんです。思うに、世の中のサブカル近現代史研究素材、ビートルズの魅力が強大過ぎるのか、ビートルズ以前の情報が意外に疎かになっているように思えてなりません。如何せん、我がジンジャーにはお座敷小唄/芸者歌謡まで捕捉しつつ集めてあるレコードが相当数あるわけで、活用しないと勿体ないですからねぇ…。でも、ビートルズを中心に60年代の世相を語るという触れ込みで、お座敷小唄とかに時間を割いていたら怒られますよねぇ…、おそらく。

今の時代ほど多様な娯楽があったわけではない60年代当時、テレビもまだ歴史は浅く、総天然色になってませんし、ラジオはもっともっと重要なメディアだったことでしょう。映画は明らかに娯楽の中心的存在だったわけです。

レコードは貴重なもので、いろいろな歴史の証言者になり得る媒体だったりします。例えば、69年7月のアポロ11号月面着陸ですら、レコードでその瞬間の通信記録を楽しんだものですから。64年の東京オリンピックの実況中継のレコードやソノシートも状態のいいものを保有しておりますから、イベント当日持ち込みますかねぇ…。

ジャズ喫茶のような独自の文化を育んだ日本のサブカルはさらに面白くて、当時の音楽を愛する人々の熱量に驚かされます。1960年、スヰング・ジャーナルからスイング・ジャーナルに変わった頃、何処のジャズ喫茶ではどのレコードが聴けるかといった情報が掲載されているのには、文字通り開いた口がふさがりませんでした。まあジャズに限らず、クラシック好きは名曲喫茶で、フォーク好きは歌声喫茶で楽しんだ様子が知れるわけで、音楽が単なる娯楽以上の文化活動だった時代なんですよね。

亀渕氏の著書でもそうですが、エルヴィス・プレスリーですよねぇ…。どう語るか、自分のトークイベントで実践済みなのですが、年表と首っぴきというのも意外に面白いんですよねぇ…。世相を慮り、時代が見えるという意味では必要な作業です。1964年というビートルズがメジャー・デビューした年は、東京オリンピックの年であり、首都高の主要部分や東海道新幹線をはじめとした重インフラが開業し、戦後復興が思い切り前進した年でもありますからね。

さて本日、清澄白河のGINGER.TOKYOは、2015年2月5日の開業以来、10周年を迎えました。皆様のご愛顧に感謝です。

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