続・下町音楽夜話 0327「職人たち」
ナザレスの「メイ・ザ・サンシャイン」という曲が好きで、レコードも買ったはずなのだが見当たらない。どうも誰かに貸したままになってしまったようだ。実は行方不明のレコードはいっぱいあるのである。借りパクになってしまったものが200枚程度あることはかなり前に確認しているが、その後もきっと増えているのだろう。どうも管理がいい加減でいけない。この辺もコレクターの自覚が足りない部分なのだろう。
ナザレスのアルバム「ノー・ミーン・シティ」は1979年の割と早い時期に買って、しばらくは聴きまくった。少々子どもっぽいジャケットのイラストは当時から好きになれなかったので、あまり思い入れがなかったかもしれない。しかし、先日、ナザレスが話題になり、いざ聴けないとなると聴きたくなるのが人情というものだ。とりあえずYouTubeでリマスター音源も聞いたし、ライヴ映像も観られたので、いったんは落ち着いたが、近いうちに買いなおすかとも思っている。
ナザレスはオリジナル・アルバムをすべて揃えたいと思うほど好きなバンドではないが、何曲か好きなものがあり、ベスト盤で済ませるのに向いている程度のお付き合いだ。まずは最大ヒットがエヴァリー・ブラザースのカヴァー曲「ラヴ・ハーツ」で、これは文句なしに大好きなものだ。他にもジョニ・ミッチェルの「ディス・フライト・トゥナイト」やハード・ロック・チューンの「ラザマナス」あたりが好きなところだ。
「ノー・ミーン・シティ」は、他の時期のものとテイストが少々違う。この時期だけ、ザル・クレミンソンというギタリストが加わり、ツイン・リード的にやっているのだ。オリジナル・メンバーのギタリスト、マニー・チャールトンは、ザクザクと刻むレス・ポール使いで、まんま好みの音を出すが、如何せん曲がそれほど魅力的なものが多いわけではない。「メイ・ザ・サンシャイン」は突然変異的な匂いがするナザレスらしからぬテイストの曲だが、曲の構成としてアコギのカッティングとエレクトリックのスライドが絶妙に絡むので、2人目のギタリストが必要だったことは、この曲が明々物語っている。
さて、ここに臨時加入したザル・クレミンソンだが、センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドのギタリストと言えばお分かりだろうか?知る人ぞ知る、少々色物的なステージで有名なバンドの、あのピエロのメイクと衣装で不気味な笑みを浮かべながら、キレのよいギターを弾いていた男である。ヴォーカルのアレックス・ハーヴェイの個性が強すぎて、手放しに好きなバンドとは言えないが、バンドに出入りするメンバー個々人はむしろ好きだったりする。
ドラマー、テッド・マッケンナはロリー・ギャラガー、ゲイリー・ムーア、マイケル・シェンカー・グループなどの活動が有名で、技巧派というよりはパワフルなタイプである。ヒュー・マッケンナの後釜に座ったキーボーダーのトミー・アイアーは、結構な大物セッションマンとなった人物だ。ジョー・コッカー、ゲイリー・ムーア、マイケル・シェンカー、グレッグ・レイク・バンド、ジェリー・ラファティ等と活動を共にしている。ジョー・コッカーの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」のあの印象的な出だしのオルガンは彼が弾いている。ジミー・ペイジが弾いたギターにばかり耳を奪われるが、耳に残るオルガンではないか。またジェリー・ラファティの「ベイカー・ストリート」も彼がキーボードだったりする。要するに職人たちだ。
センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドは、田舎の芝居小屋で演じられる大衆演芸とロックを融合させたようなバンドなので、個性はピカイチである。70年代前半の、あの何でもありな空気感のなかで、グラムロックでもなし、ただのハードロックでもなし、ワン・アンド・オンリーな存在だった。70年代後半には、アレックス・ハーヴェイの体調不良が原因で、バンドとしての活動はほぼできなくなり、1982年には心臓発作で他界してしまう。
アレックスの弟のレスリー・ハーヴェイは、マギー・ベルも在籍したストーン・ザ・クロウズのギタリストだが、1972年にステージで感電死している。アレックスは弟より10年は長く生きたが、それにしても兄弟そろって若死にしてしまうのだから、なかなか悲しいものがある。この辺のミュージシャンの情報は意外に知ることが難しく、Wikipediaの情報も完璧とは言い難い。芋づる式に調べていくと、いろいろ面白い音楽にたどり着けるので、ずっと何とかしたいと思っているが、なかなかかたちとして残せるまでにはいかない。Wikipediaを充実させていくしかないのだろうか。
今回はナザレスの「メイ・ザ・サンシャイン」が聴きたくなってしまい、いろいろ文献にあたっているうちにセンセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドを通り越して、ストーン・ザ・クロウズまでたどり着いたが、やはりこの辺の音は好きだ。最近ではラジオからも流れてこないし、話題に上ることも少なくなってしまったが、3バンドいずれも1970年代のロックを語る際に欠かせない時代の音だったと思う。