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7インチ盤専門店雑記802「ディジー・アトモスフェア」

先般、中央エフエムでパーソナリティをやらせていただいたときのディレクターK氏が、SNSで「リー・モーガンの「Dizzy Atmosphere」が素晴らしい」とおっしゃってまして、「懐かしい!」となっておりました。

一時は自分もハマり、自宅と店に一枚ずつLPを置いておりました。店を始めた頃で、業後に聴きたくてもう一枚買ったようなことをしましたが、開店して2〜3年は日付が変わってからタクシーで帰宅することも多く、徐々に忘れられた存在になってしまいました。

この盤が好きになったとき、まず冒頭の長尺曲、非常に速いパッセージが天才的な「Dishwater」がお気に入りとなりましたが、徐々にベニー・ゴルソン作の「ウィスパー・ノット」がよくなり、さらに「オーバー・ザ・レインボー」が好きになったものでした。「ウィスパー・ノット」は後に多くのカヴァーを生みだす名曲ですが、初期ヴァージョンとでも申しましょうか、後々のものとはちょいと違った印象も受けます。でも何だか新しいことが始まるワクワク感まで込みで演奏しているようで、いいんですよね。ちなみに凄く近い時期にブルーノートにも吹き込んでおりまして、聴き比べてみるのも面白いかもしれません。

「オーバー・ザ・レインボー」は最近ロック・ミュージシャンも多くカヴァーする曲ですが、曲の美味しいメロディを上手く抽出し、紡いでいきます。リー・モーガンが天才少年だったことの証でもあります。如何せんこの時点でまだ18歳のはずですからね。18歳がスローな曲でリスナーを唸らせると考えると凄いです。ブルーノートに録音したVol.2とVol.3の間にリリースされておりますが、まあ同じ時期と考えて問題ないと思います。

それにしてもタイトルの意味があまりよく分かってなかったのですが、ここにディジー・ガレスピ―は参加しておりません。それでもディジーの雰囲気があるというならと、一生けん命聴いておりました。でもこの録音、ディジー・ガレスピーのバンドのメンバーがサポートしているんですね。つまり天才少年現る、では人気絶頂のディジーのバンドと組ませてみたらどれだけのものを作るかということで組まれた企画なんですかね…。加えてピアノはウィントン・ケリーですからねぇ。大名盤「ケリー・ブルー」は59年ですが、若手バリバリですよね。…なかなか酷な企画ですね。でもこの時期のリー・モーガン、向かうところ敵なし状態ですからね。素晴らしい成果ですね。

加えて面白いのは、ベニー・ゴルソンとロジャー・スポッツというお二人が半々アレンジを請け負っているんです。まだ曲のアレンジまではリー・モーガンにやらせてはいないわけです。演奏の上手さだけで頭角を現したということなんでしょうか。ちなみに、ベニー・ゴルソンは「ウィスパー・ノット」を提供しておりますが、演奏では参加しておりません。同じくロジャー・スポッツという人物も参加しておりません。そもそも、このロジャー・スポッツさん、よく存じ上げません。

いろいろなことを考えると、企画倒れになってもおかしくないセッションだったのに、リー・モーガンがやはり周囲が思った以上に上手くて、一枚できちゃったよ的な盤に感じてしまいます。個人的に楽しむ内緒の一枚としてはいいんですけど、…名盤の匂いはしませんね。


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