7インチ盤専門店雑記831「上手いドラマーとは(3)」
いまさら私なんぞが取り上げるまでもない気もしますが、タイトなリズムと超絶技巧のドラマー、サイモン・フィリップスについて書いておきます。この人はジェフ・ベックのバックやTOTOでも素晴らしい演奏を聴かせておりますから、皆さんご存じの…という気もします。しかしヘッダー写真のファースト・アルバム「Protocol」あたりを聴いていらっしゃいますかねぇ…。
これは1988年にリリースされたミニ・アルバム的な盤ですが、全部の楽器を彼一人でやっておりましてねぇ…、ただ者ではない側面を匂わせます。片面3曲ずつの45回転なので短いのですが、音質は最高です。YouTubeにはオルタネート・ミックス等も含めた10曲が上がっております。
この人、Wikipediaを見るとただのドラマーでないことが一目瞭然、理解できます。キーボードも結構上手いことは有名ですが、職業欄にミキシング・エンジニアやマスタリング・エンジニアといった文言まで見えます。マイク・オールドフィールドのレコーディングにドラマーとして参加した時に、エンジニアが解雇されてしまい、残った仕事をぶん投げられたのですが、マニュアルを見ながら最後まで仕上げてしまったということで、ここでスタジオ・ワークが面白くなってしまったようですね。元々エンジニア次第で自分のドラムスの音が変わってしまうことが不満だったようで、しまいにはスタジオを造ってしまいますし、スタジオ内のエンジニアリングを全て自分でやるようになってしまったんですね。…素晴らしいです。
お父さんがジャズ・ミュージシャンで12歳でプロ・デビューしたということで、学校の勉強はあまりしっかりやってないようですが、独学であれ頑張って勉強してものにするような人間が好きでしてねぇ…。16歳でお父さんが亡くなってからは、自力でスタジオ・ミュージシャンとして頭角を現したわけで、頭が下がります。
ドラマーとしては、アタックが強くてメリハリのある叩き方が自分の好みでもあり、実はTOTOの音源に関しては、ジェフ・ポーカロが亡くなって彼にチェンジしてからが非常に好きなんです。残念ながらアナログ盤で聴く時代ではなくなってしまいますが、CDはコンプリートしております。もちろん1980年代のTOTOは好きですけどね。
「Protocol」はアナログ末期のリリースですから、ヘッダー写真の盤は非常にレアかと思います。中身はとても聴き易いメロディアスなインスト・ロックで、ドラマーのソロという印象は薄いです。カーマイン・アピスのソロも同様で、叩き過ぎてないバランスの良さが印象的です。…でも、まあ普通以上にドラムスの音がよく聴こえますけどね。
とにかく叩き過ぎていないということが大事で、曲によっては8ビートのリズムを堅実に刻んでいるだけの部分もあります。それでも、リズムがタイトだからか、聴き終えた瞬間はやっぱりドラムスが耳に残っていたりします。強いて言えば、タイトル・チューンの「プロトコル」はかなり叩きまくっております。エスニックなテイストも面白い曲で、メロディ・パートはシンセにまかせ、それ以外は打楽器アンサンブルのような構成で、さすがといったところです。…やはり上手いドラマーです。