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7インチ盤専門店雑記481「エルキー・ブルックスはお好き?」
英国人シンガーのエルキー・ブルックスはDadaとかVinegar Joeといったバンドのヴォーカルだった人です。ヴィネガー・ジョーにはロバート・パーマーがおりましたから、その縁で名前だけは随分昔から知っておりました。ちょっとハスキーな声質が好印象です。曲によってはエキセントリックなところもありますが、とにかく歌は上手いです。少々演劇的な要素も感じさせる歌い方の部分は好みではないのですが、もっと売れてもよかったのではと思わせます。
ヘッダー写真は比較的最近入手した彼女の代表作でずが、日本での人気はいかほどのものでしょう。1977年のリリースですが、他のアルバムも含め、この盤以外に彼女のレコードを見たことがありません。少々チリノイズが多いので、あまり他人様にはおススメできないのですが、如何せんレアですので、これでも貴重な盤ということになってしまいますね。
この盤、まずダン・ペンの「Do Right Woman, Do Right Man」を歌っているのが嬉しいです。何はともあれ、この曲に関してはダン・ペンご本人の歌唱が大好きなのですが、この歌は上手い人でないと絵にならないと申しましょうか、フィービ・スノウとか本当に上手い人が歌っておりますので、ヘタなカヴァーは危険です。エルキー・ブルックスの場合は、十分に満足できるカヴァーですが、比較的あっさり歌います。個性的ではないのですが、いい声だとは思わせます。
プロデューサーがソングライター・チームとして有名なジェリー・リーバー&マイク・ストーラーのコンビでして、全10曲のうち5曲は彼らの曲です。ですからアルバム全体のテイストも彼らのテイストと言っていいんでしょう。強いて言うならば、マンハッタン・トランスファーを一人にして少しロック寄りな演奏をつけたような印象です。演奏が妙にシャープでいいんですよ。Trevor Moraisというドラマーさんは全然存じ上げない方でしたが、彼がいい仕事をしていますね。調べるとティナ・ターナーとかハワード・ジョーンズとかビョークとかの名前が出てきておりますから、評価はされているようですね。英国の音楽シーンも奥が深いです。
エルキー・ブルックスに関しては、英国ではそこそこ売れたようなのですが、アメリカでは多分それほど売れた形跡は見られないんですけど、どうなんでしょう。…知らないことも多いですし、映画とかテレビの世界に軸足を移して活躍している人もおりますからねぇ…。こういう上手いけど日本にまでは情報が伝わってこなかったアーティストは結構いらっしゃいます。ウェブの時代になって、いろいろ調べることができるようになって初めて知ることになった人も多いわけで、有り難い世の中だなぁとは思います。
とにかく、全体には好印象です。3曲ほどでマッスル・ショールズ・ホーンズの面々が参加していたり、「ザ・ニュー・ヨーク・ホーンズ」と称する面々が参加していたり、…カネの使い方が違わないかと言いたくなる盤でもあります。マッスル・ショールズ・ホーンズが使えて、ダン・ペンの曲を歌っているレコードと考えると、売り方がまずかったような気がしてなりません。ヴィネガー・ジョーのバンドメイトだったロバート・パーマーがこの後大活躍するわけですから、チャンスがなかったとは思えません。繰り返しますが、このアルバム、中身は悪くないです。