7インチ盤専門店雑記516「「Karen Dalton」」
ジョー・ヘンリーが2023年にリリースしたアルバム「All The Eye Can See」はコロナ禍のロックダウンの最中に作られたものということで、これまでの諸作とも違う、内面をさらけ出すような内容になっております。アメリカの原風景を歌わせたら現代の最高峰だとは思いますし、アメリカーナというジャンルがあるとしたら、最重要人物でしょう。でも、ここでは、いつもと違うアプローチが見られます。
彼のアルバムを聴いていると、映像でアメリカの原風景とでもいうべきカントリー・サイドの景色を思い浮かべてしまいます。ロード・ムービー的なテイストを音が内包していると言うとこじつけのようですが、思い起こす景色は決して都会的ではなく、片田舎の生活が見えるようなものです。そこは相変わらずです。
昨年末にウェブ・メディアArbanの依頼で2023年の3枚を選んだ時の筆頭候補でもありまして、昨年最もハマったアルバムでした。
その選評の中でもチラっと触れているのですが、このアルバムに「Karen Dalton」という曲があります。
カレン・ダルトンは、1950年代のフォーク・リヴァイヴァルの頃、ボブ・ディランやフレッド・ニールと時期を同じくしてニュー・ヨークのグリニッジ・ヴィレッジで歌っていた人です。1937年に生まれ、1991年に亡くなっております。チェロキー族の血を引いているということで、DNAレベルで悲しみが声質に含まれているような歌い手です。ボブ・ディランが「ビリー・ホリデイのように歌い、ジミー・リードのようにギターを弾く」と評したことも有名ですが、とにかく商業的な成功とは無縁の人でした。
昔から諸々の文献で彼女の名前を知り、購入したファースト・アルバムです。評判のよいセカンド・アルバムはなかなかアナログ盤では手に入らず、CDを購入しましたが、そのCDが見当たりません。再発アナログ盤をその後入手したようなのですが、行方不明です。高額盤にありがちな、大事にしまっておいて行方がわからなくなるというヤツですね。…まあ、今の世の中、YouTubeなどで聴くことができるので、問題ないのですが。
これは2012年リリースの未発表音源集「1966」です。丁寧な作りが嬉しいです。
そもそも、極東の島国の住人に理解できるわけもないという諦めを孕みながら毎度聴くわけです。それなのに、2023年にもなって、彼女の名前をタイトルに持つ曲がリリースされたわけです。この曲、歌詞に彼女が登場するわけでもなく、一層諦観を押し付けてくるようなシチュエーションになってしまいます。何故2023年になって「Karen Dalton」を歌うのか、そして、難解なのかどうかすら分からないこの歌詞を眺め、訳し、反芻してみますが、謎は深まるばかり…に近い状況です。
悩みが深すぎてわけが分からなくなりそうですが、ただあのカレン・ダルトンについての歌なんだということは感じ始めております。そんな程度の理解度で2023年のマイ・ベスト3に選んでしまったことを後悔しそうにもなるのですが、アルバムとしてはやはり2023年のTop3には入れざるを得ないクオリティです。その悩みの深さがカレン・ダルトン的であり、アメリカーナが持つ不条理を感じさせるんですけどね。