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7インチ盤専門店雑記542「記憶を辿る旅1」

ブラック・ミュージックのイベントをやることが、結局自分の音楽ルーツを探る作業になるという自覚もあって、あまり積極的に「やりますよ~」という気分ではありません。単にヒット曲や好きなアーティストを紹介するようなトークで済むイベントなら身構えることでもありません。どのみち自分よりも詳しいような参加者の前でしゃべらなければいけないわけで、やはり気分は重いわけです。加えて自分の一生の趣味である音楽、それも当時あまり同級生などと情報交換ができるわけでもなかった洋楽にハマった入口がソウル・ミュージックだったわけで、その辺の記憶を探る作業はそれなりにヘヴィなんです。思い出したくない記憶を掘り下げて、鬱々とした時間を過ごすことにもなりますからね…。

国鉄職員だった父親の転勤に伴い、自分は小学校4年生になるタイミングで広島から東京に出てきました。学区域に巨大な国鉄アパートがある小学校は生徒数も多かったのでしょうが、自分の居場所と感じられるものがどこにもありませんでした。東京の新興団地が建つ住宅地は、訛りのある転校生にとって快適な場所ではありませんでした。そんなわけで、不登校にはなりませんでしたが、すっ飛んで帰宅してラジオばかり聴いていたガキだったわけです。直ぐにハマったのが「ソウル・トゥ・ソウル」という番組だったのは憶えておりますが、如何せん小学生の記憶ですから曖昧です。

自宅には両親の家具調ステレオがあって、さほど興味をそそられないレコードが何枚かありましたが、テレビで人気だったモンキーズのベスト盤を母親が買ってくれて、随分聴きましたね。1972年末に小遣いを貯めて自分のカネで最初に買ったのはT.Rexの「The Slider」でしたが、本当は「Get It On」が収録されている前作「電気の武者」が欲しかったんです。ただ地元のレコード店では手に入らなかったので仕方なく買ったものでした。でも気に入りました…というか、気に入るまで繰り返し聴きました。

最初にソウルが好きになったものの、小学生の行動範囲内では、ソウルのお気に入りの曲が入っているレコードなど全然見かけませんでした。縁日の屋台で一枚50円で手に入れたローリング・ストーンズの7インチ・シングル(スリーブなし)などが宝物のようになっていき、徐々にソウル一辺倒ではなくなってしまいました。それでも、6年生の段階で気に入った曲はいっぱいあって、カセットテープに録りつつ、趣味の範囲を広げていきました。

そんな時期に聴いた曲は、耳にすれば当時の記憶が蘇ってくるという生やさしいものではなくて、むしろタイムスリップして過去に強制連行されるような感覚すらあります。ものによっては無性に怒りがこみ上げてきたり、不安が巻き起こり、鳥肌が立つようなこともあります。不快感もかなりの度合いで内包しており、たかが音楽を聴くという行為がかなりシンドいことになる場合もあるんです。

とにかく小学校時代の曲にはそういうものも多く、バスケットボールに夢中になっていた中学時代の曲は逆に全く問題ありません。むしろ楽しい気分になります。中学1年の秋頃の大ヒット、スティーヴィー・ワンダーの「迷信」などは精神安定剤みたいなものです。対してジョン・デンバーの「故郷にかえりたい」やスリー・ドッグ・ナイトの「喜びの世界 Joy To The World」といった楽曲は、最後まで馴染めなかった小学校を思い出すのか、お腹が痛くなるような感覚がいまだに拭えません。ロッド・スチュワートの「マギー・メイ」もいまだにダメですね。ヘタしたら蕁麻疹が出てしまいます。

学校の水が合わなかったことに関しては、担任の教師がどうにも好きになれない人物だったということにも起因しておりますから、帰宅後、友人と遊んだ記憶がないわけではありません。…ただ同級生ではなかったような気がします。…ハッキリいって、学校嫌いな子どもでしたね。

スティーヴィー・ワンダーの「迷信」も好きでしたが、その少し前、中学校1年の夏、夢中になって聴いたのは13歳の天才少年、マイケル・ジャクソンの「ベン」でした。「ウィラード」という映画の続編でネズミがいっぱい出てくる映画「ベン」のサントラ収録曲で、全米No.1になりました。歌う側も子どもなら聴く側も子ども、黒人公民権運動がどうのということとは無縁、ニュー・ソウルやモータウン等といったキーワードも徐々に学んでいった時期ですが、そんなこととも全く関係ないところで、天才少年の美声に癒されておりました。結局のところ、自分自身の記憶を巡る旅であり、遡って学ぶように聴いた音源とは沁み込んだ深さが全然違います。

同じトーク・イベントでも、全体の体系や社会的影響などを解説するのもありですが、自分の記憶ベースで、当時の東京の暮らしの中でどう鳴り響いていたかを解説するものにしたいという欲求もあり、鬱々としながらも選曲を進めております。


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