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7インチ盤専門店雑記762「イリアーヌ」

ブラジルはサンパウロ出身のジャズ・ピアニストで、ヴォーカルも素敵なイリアーヌ・イリアスEliane Eliasという女性がおります。私の4日前に生まれており、誕生日が近いというだけでもよく記憶に留めております。元はランディ・ブレッカーと結婚していた時期もありましたが、現在はベーシストのマーク・ジョンソンがダンナさんです。アマンダ・ブレッカーのお母さんですね。

彼女の2003年リリースの「Brazilian Classics」という編集アルバムが好きで、時々営業終了後の店内で流しております。静かなボサノヴァが多く、カフェで流してもよさそうですが、どうも流す気になりません。個人的な楽しみ、実にプライベートな密かな行為として聴いております。…他人様にシェアする気がないという程度ですけどね。

個人的な楽しみという他にもう一つ店で流す気がしない理由がありまして、「ミルトン・ナシメント・メドレー」でアマンダ・ブレッカーが一緒に歌っているんです。1992年に録音した音源ということで、アマンダがまだ子どもの声なんです。これが単体で聴くには悪くないのですが、どうにも全体の雰囲気をぶち壊していると言うと失礼ですが、流れを断ち切って集中できなくしてしまうんです。自分が聴くときも大抵飛ばして聴きます。アマンダ・ブレッカーは来日したときにライヴも観ておりまして、決して嫌いではありません。ただ何でかこの音源がダメなんですよね。

ここで聴かれる「Garota De Ipanema」が大好きでして、マイケル・ブレッカーのサックスからはいってくるのですが、アレンジの妙があまりにゲッツ/ジルベルトを無視していて面白い音源です。1997年の録音ですが、ベースはマーク・ジョンソン、アコースティック・ギターがオスカー・カストロ=ネヴェスです。ゲッツ/ジルベルトが大好きなだけに、まんまのコピー的なものより面白いと思えるようです。

もう一つ「Chega De Saudade」も好きですね。ボソボソ系ですが、気心の知れた人間と他愛のない会話を交わしているような、不思議な心地よさがあるんです。メンタルが疲れているときなどにやたらと効果がありましてね。いいんですよ、これが。

この人、一時期Steps Aheadで弾いていたこともあるほどピアノも滅茶苦茶上手いわけです。ただ個性なのか、凄くサラッと弾くんです。「あ、そんなに流す…」と最初は驚いたりもするのですが、繰り返し聴いていると「これでいいのかも」と思うようになってきます。不思議な魅力を湛えたピアノです。

一時期大変気に入りまして、かなりのアルバムを買い集めておりましたが、いつの間にか散逸してしまいまして、手元にはあまり残っておりません。それでも、1986年にブルー・ノートからリリースされたセカンド・アルバム「イリュージョン Illusions」だけは、妙に好きで手放さないよう自宅に保管しておりました。スタンリー・クラーク、アル・フォスター、スティーヴ・ガッド、エディ・ゴメス、トゥーツ・シールマンス、レニー・ホワイトといった錚々たるメンツが参加しております。

ニュースレターのような内袋もいい感じです

いずれのアルバムも一定以上のクオリティを持ち、好きなアーティストですが、あまり近づきたくない危ない女性のイメージもあり、深みにはハマらないようにしております。21世紀のアルバムなどはマーク・ジョンソン臭が強く、聴く人を選ぶかもしれませんが、間違いなくハイ・クオリティです。…繰り返しますが、お薦めはしません。私は好きですけどね。


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