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7インチ盤専門店雑記555「現代アメリカーナのリザウンド」

最近はすっかりプロデューサーとしての活動の方が注目されるジョー・ヘンリーですが、元々はオルタナ・カントリーなどと言われるあたりの音で注目されたミュージシャンでした。自分は1999年の「Fuse」というアルバムで彼を知るに至り、そこから現在までハマり続けております。このアルバムは彼自身とT・ボーン・バーネットの共同プロデュースでして、いかにもという音だったと思いますが、ドラム・ループやシンセも使っており、最近のクラシカルなアメリカーナといった音とはかなり違うものです。

アルバム「Fuse」の2曲目に「Angels」という曲が収録されており、これがその後25年も彼を追いかける原因になった一曲です。単純なカントリーっぽいアメリカーナといった曲でもなく、かなり不思議な音を使っています。時期が時期ですから、残念ながらCDしかリリースされておらず、アナログでは聴けませんが、やはりジョー・ヘンリーはアナログでじっくり向き合って聴きたいアーティストの代表的存在ではあります。

アラン・トゥーサンとエルヴィス・コステロが共同制作した2006年のアルバム「ザ・リヴァー・イン・リヴァース」をジョー・ヘンリーがプロデュースしており、しばらくはあちこちに「この辺の音が好きだ」と書き散らかしておりました。自分がジンジャーで開催するトーク・イヴェントでも何度も紹介したかと思います。

そして当然の流れとして中央エフエムでラジオ番組をやらせていただいていたときにも紹介しようと思っていたのですが、ディレクターのK氏が「最近のこの辺の音がブリキ缶の中で鳴らしているようなヘンな音で好きじゃない」ということをおっしゃっており、かけそびれてしまいました。

実は自分はそこが好きだったもので、面白くもありました。これも何度も書いていることですが、私とK氏は同じアーティストを聴いていても、別の曲が好きだったりするので、微妙に好みが違うんです。この辺の音に関する嗜好の違いが最も如実だったと思います。そして、自分では気づいていなかったのですが、「なるほど!」という表現なんです。ブリキ缶の中で鳴らしているような残響音はまさにジョー・ヘンリーが得意とする音だと思うわけです。埃っぽい風に吹かれてタンブルウィードが転がっているかのような、実にヘンなリザウンドなんです。

まあK氏、さすがプロと申しましょうか、見事に一言で上手く表現していると思いますが、その部分です。2010年代のアメリカーナの美味しい音源は、ジョー・ヘンリーとルーサー・ディッキンソンのどちらかが絡んでいるように感じております。エイミー・ヘルム、アンダース・オズボーン、ラーキン・ポー、コリン・リンデン、サマンサ・フィッシュ…、いろいろおりますが、みんなこのちょっとした技でアンティークなテイストを醸し出してしまうサウンド・メイキングを求めているのかな?などと考えております。上手く言語化するのが難しいのですが、アンティークというのは、絵的にはセピア・カラーの古い家族の写真のような、クラシカルという語感では表現できないカジュアルで身近な古臭さを言いたいわけなんですけど、そういう人懐こい感覚が心地よいわけですよ。

そういえば、ルーサー・ディッキンソンのノース・ミシシッピー・オールスターズの「Up And Rolling」や「Meet Me In The City」のような、ヒル・カントリー・ブルースが下地にあるような曲でも、この手のリザウンドが聴かれますね。結局自分が好きなあたりに共通する音なんですかね。あまり意識していなかったというか、無意識に求めている音なのかもしれません。

先週の土曜日の営業中に、HDDプレイヤーでジョー・ヘンリーを流しっ放しにしていたのですが、「Fuse」が流れ始めた途端に「音が違うな」ということが気になってしまい、どうやら自分の世界に没頭していたようなんです。…どうもスタッフ君やカミサンが困ったような顔でこちらを見ていることに気がついたものの、頭の中でグルグルとこの辺の音が巡っておりまして、ちょっとヘンと思われたかもしれないのですが、…まあ、よくあることなのかな…?


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