7インチ盤専門店雑記538「向井滋春とStepsと古澤良治郎の共通点が好き…」
1980年代のある時期、自分が大学生だった頃、向井滋春というトロンボーン奏者にハマりましてね。理由は簡単明瞭、渡辺香津美と松岡直也の両方のレコードに参加していたから気になったというだけなんです。まだジャズを本格的に聴き始める前で、ソニー・ロリンズくらいしか本格的なジャズは聴いていなかった時期です。渡辺香津美に関しては「KYLYN」あたりですね…。
でも向井滋春に関しての興味はレコードではなくてライヴなんです。情報誌の「ぴあ」でチェックしてライヴハウスに一人で出かけておりました。どういうわけか、ジャズは一人で聴きに行ってました。…まだ自分に自信がなかったのでしょうか。でも新宿Pit Inn、かなりの頻度で行きました。まだ若かったですから、六本木は敷居が高かったです。1〜2度行きましたけど、六本木は居心地が悪かった記憶しかありません。その点、新宿は思い切り演奏に集中できました。日野皓正の激混みライヴ、忘れられません。でもその日もお目当ては向井滋春でした。
思うに、向井滋春が参加している音源がフュージョンでもジャズ寄りの好きなあたりの音が多かったんです。それでも不思議なことに、レコードを買うという発想はありませんでした。今更ながらに、何でなんでしょうか?まるで熱病のようにライヴ演奏にハマっておりました。…ある日突然終わりましたけどね。…理由なんてありません。
まあレコードを持ってないというとウソになるんですけど、ヘッダー写真の「フェイバリット・タイム」は渡辺香津美参加盤という理由で買いました。1976年11月録音、何だかみんな若い演奏です。ここでも弾き倒している渡辺香津美が微笑ましいです。まだフュージョンではないんです。思い切りコルトレーンを意識した盤でして、コルトレーンもやった「Afro Blue」と「Impressions」も演っております。「Afro Blue」はロバート・グラスパーのカヴァーが大好きですけど、ここでのコルトレーン・スタイルのカヴァーもいいです。…作者表記がコルトレーンになってますねぇ。
いっときのフュージョン・ブームは凄かったです。渡辺香津美を聴かない日がないくらいでしたし、ラーセン・フェイトン・バンドとかも大好きでした。ただその中でも、チョイとジャズ寄りの演奏が特に好きでしたね。ドンズバはマイク・マイニエリやマイケル・ブレッカーがやっていたStepsでした。1981年の「Smokin' In The Pit」という六本木ピット・インで収録したライヴが有名なグループです。「Sara's Touch」サイコーです。…これもハマりましたねぇ。
古澤良治郎の「あのころ」というやはり1981年のアルバムがあります。ここにも渡辺香津美が参加しているので買った盤ですが、加えてWARのハーモニカ奏者リー・オスカーも参加しております。このメンツで嫌いなわけがない、…大好きな盤です。「ブギ・マン・リヴス・イン・TOKYO」繰り返し繰り返し聴きました。熱病のようにハマりました。…ジャズ寄りかと言われるとそうでもないんですけど、でも独特の空気感、不安や焦燥感を内包しつつも一縷の望みを持たせるとでも申しましょうか、ノスタルジーだけではない 、何かホッとするような感覚が得られます。何でか「まだ大丈夫」という気分になるんです。まあ何でその曲が好きかなんて、上手く説明できないことの方が多いです。
嗚呼、でも向井滋春(のライヴ・サウンド)とStepsと古澤良治郎、同じ感覚で聴いているのですよ。そこが文字化できればいいのですが、実に感覚的な共通点なんです。そこが私にとっては魅力のポイントなんです。でも上手く説明できないんです。渡辺香津美という共通点もあるのですが、それだけでもなさそうなんですけどね。…時代の音なんでしょうか。
プロのライターだと適当な理由をつけて書くんでしょうけど、そうしなければいけない立場でもありませんし、そうしたくないだけかもしれません。上手く説明できない魅力が共通点の三者、いまだに好きで時々聴きますし、今でも同じように不安や焦燥感と小さな希望が一緒に頭をもたげます。