ツンドク?読んどく ⑰
一冊の物語から広がる料理の世界~小川糸著「ミ・ト・ン」
ミモザの花が満開のころ、小川糸著「ミ・ト・ン」を読みました。
一気に読み終えました。
最初は海外の児童文学作品の優れた翻訳本といった感じの印象でした。
一文字一文字すぅーっと心にしみていく・・・清い文章で無駄で饒舌すぎることもなく、作品に入り込める小説。
ラトビアをモデルにした架空の国の歴史とマリカと名付けられた女の子の誕生と人生を、ラトビア人の魂ともいえるミトンに重ね合わせて書かれた物語。
夢のように幸せな物語のまま、ゆるやかなラストへと進むのかと思いきや、大国(旧ソ連)に踏みにじられ弾圧に巻き込まれ国や民族や文化、その中で生き続ける人々、幸せとは、と根源的な問いかけの展開となり、しかし声高に叫ぶのではなく、そういう時代の中でのマリカの生き方が静かに描かれていました。
読み終えて、私、浄化されたなと感じた物語。
「ミ・ト・ン」のモデルとなったラトビアは北欧に属するということもあり、物語に登場する料理名、例えばシマコーフカに『ムーミンママのお料理の本』を思い浮かべながら読み進められたことも楽しくて、読後、昔読んだ手塚治虫の『アドルフに告ぐ』と坂口尚の『石の花』を思い出しもしました。
共に国、民族、戦いの中で翻弄される人物が見事に描かれた傑作大河漫画。
さて。
夢のような幸せな日々に、影が忍び寄る展開となる少し前の、ある日の朝ごはんのシーン。(119ページ)
白いコウノトリと黒いコウノトリが庭にやってきて、巣作りを始めたのをそっと窓から眺めながら、いつもの朝ごはんをいただくシーン。
”庭でとれた薬草を煮だして、ミルクティーを作り” "その間に、じゃが芋をたっぷりすりおろして粉とまぜ、じゃが芋のパンケーキの種をこしらえ” て、焼き、マリカはバターとはちみちをたっぷりかけ、ヤーニスにはベーコンを一枚、焼いてあげた、”いつもと同じ朝ごはんのはずなのに、窓の向こうにコウノトリ夫妻の姿が見えるだけで、なんだか特別な気分になれる" そんな朝ごはん。
素朴だけれど、真に豊かな朝ごはん。
春を待って、物語の中の朝ごはんを作ってみたくなりました。
春。マリカとヤーニスのうちの庭に、コウノトリ夫妻がやってきた日の翌朝、窓の向こうのコウノトリの姿を見ながら、二人がいただいた朝ごはん。
コウノトリは正確に言うとシュバシコウで、普段はアフリカに生息し、春、繁殖のために欧州に飛来します。赤ん坊を運んでくるといわれているコウノトリは、このシュバシコウです。
庭でとれた薬草を煮だして淹れたミルクティーとじゃが芋をたっぷりすりおろして粉と混ぜて焼いたじゃが芋のパンケーキ。
ラトビアという国は薬草の種類がとても豊富で、独自の薬草茶のレシピもあるようです。白樺の葉と蕾、菩提樹の葉、いろいろなベリー類の葉や実、フェンネル、オレンジの葉、カモミール、レモンバーム、ミントなどなど・・・。
物語では庭でとれたハーブをドライにして、それを煮だして淹れたハーブティーだと思いますが、私は我が家のベランダで育つフレッシュハーブと、市販のカモミールティーを使って、ミルクティーにも合うレシピにしました。
カモミールティーをベースに、ミント、レモンバーム、フェンネルシードに生姜で淹れたハーブティー。
ほんとうはブラックベリーの葉を加えたかったのですが、なかったので省略。
次はじゃが芋のパンケーキ。
ラトビア語でネット検索をしてみたら、チーズグライダーでじゃが芋と玉ねぎをラペぐらいにおろして、かるく塩をふってから水気をしぼり、卵と粉と塩、胡椒、時にはマジョラムを加えて混ぜ合わせ、ラードか植物油(コーンオイルかひまわり油など)でかりっと焼いたレシピが主流。
サワークリームにディルを混ぜたディップを添える、あるいはリンゴンベリーか林檎ピュレを添えるというもの。
私は日本のおろし金ですりおろしたじゃが芋と粉で種を作りました。すりおろしたじゃが芋は少し水気を切ってから、全粒粉を加えて種を作り、菜種油でかりっと焼きました。ちょっと韓国のカムジャチヂム(じゃが芋のお焼き 감자지짐~チヂミは方言 )に似た感じですね。
焼きあがったじゃが芋のパンケーキにはちみつとバター、南部鉄器の中華鍋でスモークした自家製ベーコンを添えて、出来上がり。
1945年ごろの混沌とした戦争の時代ながらも、慎ましく懸命に生きるものたちへの地からの恵みの朝ごはん!
牛乳は隣のヤーニスの実家で飼っている乳牛から搾った牛乳だから、ノンホモライズ牛乳。搾りたてでまだ温かいかもしれない。
自家製バターは、昔ながらの木製撹拌機で作られるエシレバターのような味わいでしょう。
小麦粉は畑で収穫したもので、精白小麦粉ではなくて全粒粉。
ベーコンも燻して作られた香り高いベーコン。
はちみつは養蜂家のヤーニスが採取した自家製はちみつ!
私はラトビアを訪れたことはなく、ラトビアの布や什器も持っていません。
そこで、氷の大国として描かれた旧ソ連のキッチンクロスを使うことに決めました。
国境で区切られて国同士の力関係・支配被支配の歴史があったけれど、バルト海を囲むようにして一つの地域だということを、似通った模様のモチーフが教えてくれます。
ミモザの季節に物語に巡り会い、葉桜のころに物語をイメージして料理遊びをする・・・
それは楽しい時間でした。
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