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農家民宿 知憩軒~山形県鶴岡市
「秋田犬(あきたいぬ) 見に秋田行かない?」
「いいね。せっかくだから山形にも足を伸ばして、帰りは庄内空港からというのはどう?」
「いいね、それ」
秋田・庄内の旅はこうして羽田空港から始まった。
秋田犬に会い、藤田嗣治「秋田の行事」をじっくり鑑賞し、男鹿半島「なまはげ伝承館」でなまはげ体験をしたのが旅一日目。
二日目、鶴岡市「庄内野菜と魚介のシチリア食堂 ベッダ シチリア」で最高のランチ、その後素晴らしい展示で宇宙の生命の神秘の不思議を体験できる鶴岡市立加茂水族館「クラゲ ドリーム館」へ向かう。
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加茂水族館を午後5時過ぎに出て、旅二日目の宿に着いたのは午後6時前。
とても楽しみにしていた農家民宿「知憩軒」。
庄内の農家民宿の先駆けでもある。
畑や果樹園の中にポツンポツンと民家の灯りがある。
想像したほどの田舎ではない農村。
ガラリと本家の玄関の戸を開けると、木造の懐かしい佇まい。
本や陶芸作品、調度品などがセンスよく置かれている。
長い時間に醸された上質の空間。
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一日二組限定の農家民宿「知憩軒」
軒の下で憩いの時間を過ごしつつ、農作物や農業の知識を身につけてくれたら…という思いで女将の長南光(ちょうなんみつ)さんが命名されたのだそうだ。
農家レストランを併設し、庄内の地産地消の滋味あふれるご飯に合う野菜料理が供される。
荷物を離れの部屋に置き、本家に夕食をいただきに伺った。
築60年弱の民家。
和室に二組の宿泊客のために夕食の用意がされている。
看板猫のさくらさんが座布団の上で丸まっている。
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長火鉢のような座卓に、次々と料理が並べられる。
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器と料理の取り合わせの美しいこと!
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まずはビールで乾杯。
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長南さんが「ご飯、まだ早かったですね」と仰る。
いえいえ、いいのです。
私はビールは喉を潤す程度で、すぐにご飯いただきますから。
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「うちは旅館ではないので、華やかな料理はありません。農家のいつものご飯です」と仰る。
それが嬉しいのですと私たちは答える。
キノコ、野菜、乾物、豆腐、烏賊などが、煮物や和え物、蒸し炒めなどの調理法で様々な味付けに仕上げてある。
黒胡麻豆腐も身欠き鰊の煮物も絶品で、どれも滋味あふれる料理。
私たち好みの薄味で、食材が生きた味付け。
お出汁は鰹と昆布。だけど決して過剰すぎる旨みではなくほのかな旨みだから野菜をおいしく味わえる。
一品一品料理の説明もしてくださる。
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「もってのほか」?菊の酢の物のことをそういうらしい。
「どうしてなんですか?」と訊いてみた。
「天皇家の御紋の菊の花をいただくからですよ」と教えてくださる。
なるほど。
「どれも薄味で素材が生きていますね。ほんとうにおいしい!」と長南さんにお伝えする。
「長い間、農業しながら親の介護食を作り続けてきたんです。だから濃い味付けはダメでしょ?かたいものも食べられないから柔らかく煮てね。うちのこの料理の基本は介護食なんです」。
アケビの皮と舞茸の味噌炒め物に興味津々。
「アケビ、初めて食べます」
「アケビの苦みがいいんです。だから水にさらしたりしないの。アケビの上に舞茸をのせて、たっぷりのお酒をかけて蒸して、それから油を少し加えて炒めるの」と作り方を教えてくださった。
アケビの皮の苦みと舞茸と味噌が一体となって、大好きな味。
ご飯にかけてある紫蘇の実が、プチプチしていて、香りよくて、絶品。
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「一年分作るから、指も手も真っ黒になるの。紫蘇の実に塩をして、それから冷凍するだけ」。
だからプチプチの食感も残り、減塩できるそうだ。
長南さんのオリジナルの作り方。
懐かしい家屋の一室で、ほんとうにおいしい料理をいただき、長南さんとの語らいもあるという最高の農家民宿。
静かな夜が過ぎる。
熟睡。
翌朝も雨。知憩軒のまわりを傘をさして歩いてみた。懐かしい風景。
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朝食。
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お茶碗もお椀も器もテイストは同じだけど違う器で、やっぱりセンスのよい取り合わせ。
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「こういうふうに整えられた朝食って、心からリフレッシュできるね」とわたしたちは同じことを感じている。
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目にも嬉しい朝食。野菜料理が並ぶ。
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何十年ぶりかにいただいた芋がら。
祖母がよく料理してくれたなぁ、酢のものが多かったかな。
お味噌汁にはすくいとった大きめの豆腐と葱。
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何気ない料理にも佇まいの美しさって、ある。
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自家製保存食。
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漬物ときゃらぶきも手作り。
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これらをごはんにのせて・・・ああ、日本のおいしさ、ここにあり。
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長火鉢を座卓にリメイクされたのですかと訊いてみると
「以前は炭火焼きをしていたの。それで地元の大工さんに作ってもらったの。もう炭焼きは止めたので、こういうふうに竹を置いてあるの。
米作りも去年で止めたの。
少しずつ縮小していかないと自分でまわらなくなるから。
料理の時間といって特別に取ることはしないの。畑やりながら、家のこともやりながら、一日の流れの中で料理も無理のないいつもの料理をしているだけ」と仰る。
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花も書もこの空間にぴったり。
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「この家には買ってきたお花は似合わないの。
秋から冬になるとお花をたくさん生けられないでしょ、この花器は便利なの。お花が少なくてもいいから」
と長南さん。
器も地元の作家さんを応援してあげたくて、地元作家の作品を買って使っていらっしゃって、冬の農閑期には、ご自身も織物をしていらっしゃるそうだ。
無理のない自然体で、ここ鶴岡を大切に思い続け、地域のこと、食のことに関心を抱き続けた暮らし方。
すっかり魅了され、知憩軒を後にした。再訪を誓う。
「ユネスコ食文化創造都市 鶴岡」想像以上!
すっかり魅せられてしまった。
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これは2018年10月28日~29日に知憩軒に宿泊したときの記事です。