在宅医療現場とアンガー・マネジメントその2 アンガーマネジメントモードに入りさえすればこっちのもの?
自分の怒りを管理する、「アンガー・マネジメント」は1つのほぼ確立された手法である。
しかし、私にはどうしても1つの大きな疑問が拭えない。
実はアンガーの状態になっているのを、その場では自分でも気づいていないことが多いのではないだろうか。
私が在宅医療の現場で経験した1つの例を1つ示したい。
ある日、ある患者さん宅に訪問する予定であったが、25分遅れてしまった。
その日は私の子どもの体調が悪かった。なので、出勤も少し遅れた。
いつもは出勤してすぐに準備物を確認してから出発するのだが、その日は確認が不十分なまま1件目を訪問した。
1件目で処置に必要な物品を忘れていることに気づいた。不足している物品を診療所に取りに帰ることになり、時間がかかった。
何とか2件目には間に合うと思ったが、向かう途中の道路で交通事故があり、渋滞が続いた。
結果、25分遅刻して訪問することになった。
訪問後、診察を始めたが、患者さんは今日私が時間に遅れたことを何度も口にした。
「A先生はいつも遅れる。」しまいにはそんなことを言い出した。
「私は、めったに遅れたことはありません。遅れる時は連絡を入れています。今日だって連絡を入れたのにあなたが電話に出てくれなかったではないですか。」
と反論した。気がつくと、私は室と室の間の敷居を踏んだまましゃべっていた。
患者さんは黙った。私も黙ったまま以後のケアを行った。
向こうから謝りの言葉があるまでは絶対にこちらからは口をきかない、そんな気になっていた。気まずい時間が流れた。診療が終わり、患者さん宅を出た。
次の日、診療所に電話があった。昨日の患者さんからだった。もう私には訪問して欲しくないという。
私「別のところに移るんだったら紹介状を書きましょうか」
患者「要らない」
とりつく島がなかった。
結局、その患者さん宅に二度と行くことはなかった。1ヶ月後、その方お亡くなりになったと聞かされた。
痛恨のケースだった。
患者さんは、家族に「あんな、人の家の敷居を踏んだまま怒るような人は、もう家には入れることができない」と言っていたというのを後に知った。
この場合、その場では自分が怒っているとは思っていなかった。あくまで自分の正当性を伝えているつもりでいた。
後から考えるとどうみても怒り(アンガーの状態)であったと思う。
アンガー・マネジメントは有用だ。在宅医療現場は特に積極的に導入したい手法だと思う。しかし、アンガー(怒り)に入っていることが自覚できていなければどうしようもない。
逆に言えば、アンガー・マネジメント・モードに入りさえすれば勝利は近い。
小さい怒りに気づくことが鍵なのだ。