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四国徳島で往診医をやっています。往診や在宅医療現場で気のついたことなど投稿しています。…

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四国徳島で往診医をやっています。往診や在宅医療現場で気のついたことなど投稿しています。 2024年3月「往診屋」という本を幻冬舎メディアコンサルティングから出版させていただきました。「往診屋の学び」というPodcastも始めています。 よろしくお願いします。

最近の記事

「まちがえる脳」から生まれた在宅医療のデザイン

櫻井芳雄先生の「まちがえる脳」という本が2023年に出版されている。 大変刺激的な本である。私が一番印象に残っているのは、コンピュータは間違わないように情報処理を行うものだが、脳はもともと間違えるような情報処理を行っているということ。このことを分かりやすく解説している。 脳内で信号を発生して伝達している細胞が「ニューロン」である。このニューロンが他のニューロンと接合している部分が「シナプス」である。  生物学で習ったはずなのだが、私は何となく、あるニューロンから別のニュ

    • 佐々涼子さんの作品は、良質な映画のようだ

      佐々涼子さんへの追慕の文章を続けさせていただきたい。 佐々さんの書は、これまで私が出逢った作家の作品と違っていた。強いていえば、中学生高校生の時に読んだ下村湖人さんの「次郎物語」に一番似ている。 どう形容していいか分からなかったが、今日1つ思いついた例えは、まるで良質な映画を観ているよう、というものだ(陳腐ですみません)。 対義としての形容「YouTube」のよう、を挙げたい。YouTubeは役に立つ。しかし良質な映画は、YouTubeには絶対持ち得ないものを持っている。

      • 佐々涼子さん、感謝します。

        作家の佐々涼子さんが永眠された。 著書である「エンドオブライフ」や「エンジェルフライト」は、この数年、私が仕事(在宅医療、往診医)に向き合う上での視座を作ってくれた。これからも私の人生を支えてくださると思う。心から感謝し、ご冥福をお祈りしたい。 佐々さんの著書を読むときに、付箋をつけたことがある。傍線を引いたことがある。付箋も傍線もあまりにも多すぎて、教科書のようになってしまった。それは意に沿わなかったので途中で止めた。 佐々さんの著書は、節ごとで入ってくる。一節一節に、

        • 往診屋 Reading List 2024年8月

          2024年3月、「往診屋」という書籍を出版しました。 多数の方から感想をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。 最近困っているのは時間不足です。本を読む時間も本について語る時間も劇的に減ってしまったのが悩みです。 そんな私の今の状況にぴったり符合する本が、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(三宅香帆著、集英社新書、2024)です。 映画「花束みたいな恋をした」を取り上げた導入も非常に分かりやすい。そして、本のタイトル「なぜ働いていると本が読めなくなるか

        「まちがえる脳」から生まれた在宅医療のデザイン

          地域医療と国際協力は連続体である。高度医療も連続体である。

          先日、地域医療と国際協力は連続体である、というテーマで話をする機会をいただきました。 私は、日本の田舎で「往診」を主眼に置いた在宅医療をしており、一方ではカンボジアの初期救急対応のトレーニングのお手伝いをささせていただいています。 そんな仕事を10年続けてきたのを機に振り返ってお話ししました。 この10年学んできて最も重要なことの1つは、地域医療も国際協力も質を確保しなければいけないということです。 田舎の往診現場もカンボジアの地方の初期救急も高度技術を使うことができません

          地域医療と国際協力は連続体である。高度医療も連続体である。

          在宅医療の「タイパ」は悪いのか?

          コスパとかタイパとかいう言葉がある。 コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスの略である。「タイムパフォーマンス」は和製英語のようだ。 日本語で「時間対効果」と言われ、費やした時間と得られた満足度の相対性を意味する言葉である。 「タイパ」と略されることが多く「タイパが良い」ということは、短い時間で大きな満足を得られた場合を指し、逆に「タイパが悪い」ということは、費やした時間に対して小さな満足しか得られなかった場合を意味する。(Wikipediaより引用) 今日は、

          在宅医療の「タイパ」は悪いのか?

          今医療者として読みたい本 エンジェルフライト

          今、在宅医療者として読みたい本の第一がエンジェルフライトです。 著者は、「エンドオブライフ」でも知られる佐々涼子さん。 国際霊柩送還士というサブタイトルがついています。 海外で亡くなった方が日本に送られた時、ご遺体がひどく傷んでいることがあります。 ご遺体をできり限りきれいにしてご家族にお渡しする霊柩チームの物語。 なぜ、チームメンバーはこれだけの情熱を注いでご遺体をケアするのか。 怒りを力に変えていくその様は、私たち医療者に、終末期等のケアの在り方を考えさせてくれます。

          今医療者として読みたい本 エンジェルフライト

          食事は食べていますか?が重荷にならないように

          往診や在宅医療現場に行った時、 決まり文句のように「食事は食べてますか。」という問いを投げていることに気づいた。 在宅医療現場で非常にオーソドックスな問いであるが、それが患者さんにや家族にとってプレッシャーであることも少なくないのではないかと最近思うようになった。 きっかけは、私がある高齢者住宅で患者さんを見ているときに、高齢者住宅の職員さんから、この患者さんには「痩せてきた」って言わないようにしてあげてもらえますか。 と言われたことだった。 痩せていると言われると、食べ

          食事は食べていますか?が重荷にならないように

          自分を責める家族の悲しみを和らげるために医療者ができること

          今日はエンジェルケアについて考えてみたい。 夜11時半頃に、ある患者さんの娘さんから呼ばれたことがあった。前日に亡くなった方の家である。 どうしたのか、と聞くとお母さん(患者さんの妻)が取り乱して手がつけられないので一緒に話を聞いてもらえないかと言う。 患者さん宅に着くと、患者さんの妻は「私があの人を死なせてしまった、あんなに苦しそうなのに1人で逝かせてしまった」と何度も泣きながら繰り返していた。 その患者さんは2週間前に退院して自宅療養を開始し、私たちで訪問診療を開

          自分を責める家族の悲しみを和らげるために医療者ができること

          井上尚弥選手から学ぶ「往診屋」の心構え

          5月6日、ボクシングの井上尚弥選手がルイス・ネリ選手と戦って勝利し、チャンピオンを防衛した映像を何度か振り返って見た。 見れば見るほど、井上選手はボクシングの奥の深さを教えてくれる。 我々在宅医療現場で戦う者にとっても貴重な教訓がいくつかあった。今回はそのうち、井上選手がダウンしたシーンから学ぶことを記したい。 1ラウンド、これまで1度もダウンしたことのなかった井上選手がネリ選手の左フックを顔面に浴びて倒れた。 当然、焦ってしまうところだが、井上選手はダウン後すぐに膝をつ

          井上尚弥選手から学ぶ「往診屋」の心構え

          往診医にとってコロナ禍とは何だったか 

          まだコロナ明けと安心する訳にはいきませんが、往診医にとってコロナ禍とは何だったのか振り返ってみたいと思います。 6つの症例パターンに分けてみました。        1 発熱したが、外来受診できない 発熱したが、外来受診できない方への往診は多数ありました。発熱した患者さんのために発熱外来を設けた医療機関もありましたが、指定の時間には交通手段がなくて行けない方から往診の依頼がありました。患者宅で抗原検査を行い、必要な場合は処方しました。 2 脚が立たない、診て欲しい 

          往診医にとってコロナ禍とは何だったか 

          怒りは往診の敵 運動脳で克服できるか

          在宅医療、往診の現場は怒りの元もエラーの元もいっぱい存在しています。 これは仕事の上で仕方のないことだと思います。 ただ、、1つのイライラがエラーを生んで、そのエラーがまたイライラを生んで、さらには他の人まで巻き込んで、さらにイライラが増幅してエラーも続いてしまう事態は避けたいものです。 怒りをできるだけ小さく抑えて、早く収束させる方法について、書籍からヒントを得ながら、考察したいと思います。 今日は、怒りを運動で克服できるのか。アンデッシュ・ハンセン氏の著作「運動脳」か

          怒りは往診の敵 運動脳で克服できるか

          深夜の往診、超音波検査(エコー)で絞扼性イレウスを発見

          ボクシングの井上尚弥選手が5月6日、4団体統一王者をかけた戦いにおいて、 ルイスネリ選手の挑戦を退けてチャンピオン防衛しました。 今までダウンしたことがなかった チャンピオンの井上尚弥選手が、1ラウンド30秒で挑戦者ネリ選手の左フックを浴びてダウン。 しかし、そこから冷静に立ち上がって、確実に相手を圧倒していって、最終的に6ラウンドでTKOで勝利するという展開をしました。 初めて井上選手がダウンしたのに驚きましたが、とにかく今までの井上選手の試合と違っていました。 普段井上選

          深夜の往診、超音波検査(エコー)で絞扼性イレウスを発見

          往診の加算について6月から改定。初めての患者さんに往診した場合は減算。都市部の市場原理に地方が振り回される。

          2024年3月、厚生労働省から6月1日からの診療報酬の改定の内容が通知されています。 その中で往診についても改定がありました。 普段から訪問診療を行っていたり、外来で診たりしている患者さん以外に対しての夜間・休日往診加算と深夜往診加算が大幅に引下げされました。 深夜往診加算でいうと、2300点から485点に下がります。 何で厚生労働省がこんな改定をしたと思いますか? 公式文書では「適正化」しますとしか解説がありません。 今回、私はびっくりしてあれこれ調べました。あくまでネ

          往診の加算について6月から改定。初めての患者さんに往診した場合は減算。都市部の市場原理に地方が振り回される。

          往診・在宅医療現場におけるヒドロキシジン(アタラックスP)による対応例

          今日は実際対応にヒドロキシジン(アタラックスP)を使った対応ケースを紹介したいと思います。 こんな風にこの薬を使えるのか、あるいは往診でこんなことができるのか といったことを実際の現場の例を通じてご紹介できればと思います。 Case1 初診の患者さん 不穏、救急搬送拒否 87歳女性 普段近所の他院で高血圧治療。認知症は軽度あり。 当診療所は初診の方。数日前から食事できず、動くのがしんどそう。 かかりつけの近医で血液検査。貧血など指摘されて高次医療機関に紹介。 4

          往診・在宅医療現場におけるヒドロキシジン(アタラックスP)による対応例

          往診の加算について6月から改定。初めての患者さんに往診した場合は減算。打撃なのか?それでも「往診」は続けるのか?

          今年3月、厚生労働省から6月1日からの診療報酬の改定の内容が通知されています。 その中で往診についても改定がありました。 普段から訪問診療を行なっていたり、外来で診たりしている患者さん以外に対しての 夜間・休日往診加算と深夜往診加算が大幅に引下げされました。 在宅療養支援診療所が行なった深夜往診加算で言うと、2300点から485点に下がります。 【以下一問一答】 この改定は、経営的に打撃ですか? 田舎だと初めての患者さんに対する、休日や夜間、深夜の往診依頼がそんなに多数あ

          往診の加算について6月から改定。初めての患者さんに往診した場合は減算。打撃なのか?それでも「往診」は続けるのか?