在宅医療現場とアンガー・マネジメント
先日、研修会でアンガー・マネジメントについて教わった。
・アンガーマネジメンはトレーニングできるものであること
・怒りは「2次感情」であること。
・怒りの原因は「べき」(〇〇すべき、〇〇であるべき)であること
等々。学ぶところは多かった。
以前も「怒りは往診の敵」と題してコメントさせていただいたが、私は、往診や在宅医療現場は怒りが生まれやすい場であり、アンガーマネジメントが役立つ分野だと思っている。
往診や在宅医療の現場で怒りが生まれやすい要因はいくつかある。
・患者さんの自宅という、相手のフィールドで仕事をしているのでストレスがかかりやすい。
・単独あるいは少人数で、患者さんの自宅という相手のフィールドに訪問するので、病院や診療所での仕事に比べて心理的安全が保ちにくい。
・患者さんや家族の本音と向き合うことが多い。
・次々に場所を移動していくので、運転等の負担もある。
・記録、メモ等を患者宅や移動中にしなくてはいけないので、エラーが出やすい。
・エラーを避けるために一時的に覚えておかなければならないことが多い。
・他職種と関わるため、価値観の違いに遭遇することが多い。
・多職種、多機関で1人の患者さんに関わることが多く、情報共有が大事だが、うまくいかないことがある。
等々。
もちろん、病院・診療所だって怒りが生まれることはあるが、あくまでその場だけの怒りで割に早めに鎮まるケースが比較的多いように思う。
例えば、看護師が病室でケアをしている時に患者さんの機嫌が悪くなって、患者さんから罵声を浴びせられたとする。
看護師はその場では怒りがこみ上げるが堪えるとする。そんな場合、後で詰所に帰って同僚看護師に起きたエピソードを話すことが多いのではないだろうか。
「あのPさんっていう患者、本当に偉そうなんだから」
「そうそう、ちょっとしたことで怒ってきて、嫌になるわ」
そんな会話をしているうちに、何だかすっきりする、といった経験を誰しもしているのではないだろうか。
しかし、在宅医療現場はそうもいかないことがある。患者さん宅でケアをしている時に患者さんや家族からやや理不尽な叱責を受けたとする。病院だと早々に病室から退室することもできるがそうもいかない。患者宅から出ても自分の仕事場に帰るまでの道のり、そのことがずっと頭に浮かぶ。
やっと仕事場に帰ってきて同僚に今日起きたことの話をする。しかしながら、在宅医療現場で起きたことを共有するのは、病院病棟でのそれに比べ難しいこともある。
病棟のスタッフは、基本的にある旗の下に集まっている。「病棟を守る」である。それは一致している。だから、スタッフ間ではどんなエピソードを話す時も聞く時も、どこかでこの観点が入っている。だから共感もしやすい。
在宅医療はそうはいかないことも多い。「病棟を守る」のような御旗は存在していない。在宅医療の現場でスタッフが大事にしていることはそれぞれ違う。患者さんによって、スタッフによって、時期や状況によって。
だから、「今日Aさんの家でケアしていたら、Aさんの家族にえらい剣幕で怒鳴られた。こっとも一生懸命やっているのにひどいでしょう。」のような話が、病棟ほどは共感されない場合も考えられる。
聞く人によっては「私はこんな風に考えるけど」とか「それはこういうやり方に変えるべきなのでは」などと考えたり、実際に口に出すかもしれない。
話す側のストレスは晴れず、ストレスは増幅する。
つまり、在宅医療現場は、怒り(アンガー)に陥りやすく、かつそれが長引きやすい場の1つだと思う。
アンガー・マネジメントのトレーニングはその軽減に役立つと考える。
とはいえ、アンガー・マネジメントを機能させることが難しい場合があるのも事実だ。項を改めて触れたいと思う。