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世界教育学会(WERA Focal Meeting 2024)に参加してよかったこと
はじめに
2024年9月9日~12日、イギリス教育学会&世界教育学会(BERA Conference and WERA Focal Meeting 2024)に参加してきました。
世界教育学会(WERA)は、加盟する世界各国の教育学会が共催を引き受ける形で毎年開催される国際学会です。
今年は創立50周年を迎えたイギリス教育学会(BERA)が引き受け、英国マンチェスター大学での開催でした。
私は英語がわりと苦手&研究もドメスティックなテーマと方法なので、前回参加(2019年)から間があいていたのですが、思うところあって5年ぶりに行くことにしました。
既に国際学会にバリバリ参加されている方にとっては超レベルの低い内容かもしれませんが、私なりに「来てよかったな」と思うことがたくさんあったので、記念に記録しておきたいと思います。
「これくらいレベルが低くても参加して得られるものはあるんだ(じゃあ行ってみようかな)」と思う人がいてくれれば嬉しいです。
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よかったこと① WERAの部会のフレンドリーさ
前回参加時(国際学会デビュー)も、英語のできない大学院生のよくわからない発表に皆寛容で非常にありがたかったのですが(前回の反省点を書き出すときりがないので、ここではやりませんが…)、今回はBERAとWERA両方の部会をたくさん聞いたことで、WERAが非英語話者にとてもフレンドリーな雰囲気づくりに努めていることがよくわかりました。
まず私が参加したポスター発表部会では10人中半分以上が日本人で、プログラムの段階からWERAの手厚い配慮を感じていました。
会場でもポスターの投影などテクニカルなことから、発表者が質問者の英語を聞き取れなかったときに通訳したりなど、不慣れな人どうしなりにお互い助け合えたのでありがたかったです。
また司会のJoe O'Hara先生が質問内容をわかりやすく言い換えてくれたり、フロアの聴衆が質問者に補足説明をしてくれたり、発表者へのアシストが積極的にされる場面がとても多かったです。
もしWERAに興味があるけど英語発表に自信がない方は、まずポスター発表から参加してみるのを強くおすすめします。
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なお今回のポスター発表の形式は想像していたものとやや違っていて、口頭発表のように会場前方にeポスターを投影して、5分間でプレゼン+質疑応答を受け付けるという形でした。
5分間で説明する内容は、なるべく暗記するよう練習したのですが、結局途中で言い間違えて原稿を見ながら訂正したりしました…。
原稿はGoogleの音声読み上げ機能で読み上げたのを録音して、スマホで聞きながら練習しました(別の発表者も同じ方法で練習したと仰っていました)。
WERAのeポスターのpdfは学会のアプリやオンラインシステム上でダウンロードできます。
しかし、聴衆はあまり手元では見ていないようだったので、発表時はポスターの図表部分を拡大してよく見えるようにするようにしました。
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国際学会での最大の不安は、質疑応答がちゃんとできるかどうかですよね…。
ポスター発表なら質疑応答もなんとかなるかも、と思って応募していたので、普通の口頭発表のような形での質疑応答に身構えていました。
結果、質疑応答の時間には質問とコメントを各一つずつ、終了後に個別に質問・コメント(後述)をもらいました。
ここで「うまくいきました!」とか書けるとかっこいいんですが、全然そんなことはなく、案の定自分の考えていることを伝えるのに苦戦しました(泣)。
質疑応答で一人目からは、あなたの分析からは政策へのどのようなrecommendationがあるのか、という質問。
説明したいことは山ほどありましたが、語彙が出てこなくて断片的な言い方になったり、言い間違えをして「間違えました!」と謝って途中で言い直したり、かなりボロボロでした。
ただ、そこはWERAのポスター部会で、質問者もかなり辛抱強く私の言うことを聞き取り、理解しようとしてくれていました。
終了後に「質問ありがとうございました、十分に答えられなくてすみません」と御礼を言いに行ったのですが、そんなことないよ、英語もよかったよ、と励ましてくれて優しさが沁みました(泣)。
二人目からは質問ではなくコメントで、イタリアとドイツの教育のregulationはかなり異なるが、この分析だと同じカテゴリーに分類されているのが興味深い、という内容。
これも全然上手く返せなかったのですが、「今後の研究でカテゴリーの中身をよく検討していかなければと考えています」ということを(全くスムーズではない感じで)伝えました。
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よかったこと② 近いテーマの研究者とのネットワーキング
発表当日、別の部会で近いテーマの研究を聞きに行き、英語に自信はなかったのですが勇気を出して質問してみました。
ちなみにこの部会もBERAではなくWERAの部会で、非英語話者の発言に寛容な雰囲気が感じられました。
部会終了後に発表者(イギリスの大学院生)に挨拶しに行き、自分は日本の教員採用の研究をしています、と自己紹介したところ、あなたの発表はいつ?と興味を持ってくれました。
今日の午後です、と伝えると「聞きに行くよ!」と言ってくれて、社交辞令かと思っていたんですが、本当にポスター発表を聞きに来てくれて嬉しかったです。終了後には連絡先を尋ねてくれ、研究面白かったよ、とすぐにメールを送ってくれました。
またポスター発表部会の終了後には、別の研究者も質問をしに来てくれました。これは主題にした概念の妥当性についての質問でした(この日一番難しい質問だったのですが、この方はアメリカの研究者で、博論のテーマとして取り組んでいたとのこと)。
案の定語彙が足りなくてうまく考えを伝えられなかったのですが、私が質問を理解している(けど英語ができなくてうまく答えられていない)ことは理解してくれて、将来的にコラボできるといいね、と名刺をくれました。
私は残念ながら名刺を持って来ていなかったので(国際学会はあまり名刺を交換するイメージがなかったので、いらないかと思い…次からはちゃんと持っていこうと思います)、その日のうちに御礼のメールを送っておきました。
本当にコラボできるかどうかは全然わかりませんが、(前回参加時は全くそんなことができなかったので)こういう形でネットワーキングをするんだ、という経験が実際にできたことはとてもよかったと思います。
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こんな感じで毎日ランチ・お菓子・コーヒー・紅茶・ジュース等が大量に配られます。
よかったこと③ 英語圏の最先端の研究動向を聞けたこと
世界教育学会(WERA)・イギリス教育学会(BERA)両方の部会で、私の研究に関連する教員不足(Teacher Shortage)や教員確保(Teacher Recruitment/Retention)のテーマは数多く発表されており、個別発表だけでなくこれらを主題にしたSymposiumやPanel Session(日本の学会でいうテーマ部会みたいなもの)も複数立てられていました。
この観点で聞いたセッションのタイトルは以下のような感じです。プログラムで「recruitment」などを検索して探しました。
○P1.29 Navigating School Leadership: Recruitment, Power Dynamics, and Post-Pandemic Reflections
○P2.28 Urban - Rural – Coastal: Exploring pupil underachievement by place and socioeconomic disadvantage in England.
○P3..8 Rural Schools: Addressing Place-Based Needs through Collaborative Community Practice and Policy from International Perspectives.
○P4.33 Sociological perspectives on teacher and parent engagement
○P9..3 Teacher Recruitment, Retention, and Attrition: Systemic and/or Individual “Crises”?
○P10.930 Examining the Dynamics of Education: Governance, Teacher Retention,
○P11.23 Teacher retention – school matters: Stories from England, Denmark and Australia
上記の研究発表を聞く中ではかなり得るものが多くあり、自分の教員採用という研究テーマをグローバルな文脈に接続していく難しさと面白さを実感することができました。
また、主にBERAの部会ですが、批判的な教育政策分析の様々な研究を聞けたのがとても勉強になりました。
上記の部会でも政策分析の発表はたくさん行われていましたが、教育政策分析をメインで聞いたのは以下のような部会です。
○P5.42 Exploring Trends and Innovations in Teacher Education
○P8.20 Education in Flux: Navigating Pandemic Challenges, Governance Dynamics, and Policy Implications
イギリスの教育政策や社会に詳しいわけではないので、なかなか内容についていくのは大変でしたが(そしてイギリス英語ネイティブ同士の会話は速くて全然聞き取れない…)、新自由主義や市場化が進展する社会での最先端の教育政策分析を垣間見ることができたのはかなり刺激になりました。
英語は聞き取れなくても、スライドで詳しめに説明を書いてくれている発表も多かったので助けられました。
逆に図表やキーワードしかスライドには書かず、あとは口頭でエキサイティングなプレゼンをする、みたいな発表は私の英語力では断片的にしかわからなかったです(泣)。
なお上記のどの部会も、発表を聞く前にはabstractを読み込んでいきました。石井クンツ昌子先生の『社会科学系のための英語研究論文の書き方:執筆から発表・投稿までの基礎知識』に書いてあったのでその通りにしたのですが(本当にいい本で、私はこの本をお守りに英語での色々な研究活動をしています)、自分なりにポイントを書き出したメモも作っていきました。これは結果的に発表内容のメモにも役立ったのでよかったです。
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振り返り①うまくいったこと、いかなかったこと
自分の研究発表や質疑応答については、上述したようにWERAの手厚い配慮や会場の寛容さに助けられてなんとか(ボロボロながらも)終えることができました。
ただ、BERA・WERAの他の部会を聞いて発表を深く理解したり、もっと質問できるようになるためには、英語もっと頑張らなきゃなー!というのが正直なところです。
特に研究レベルの内容を英会話でするのは本当に難しくて、これがちゃんとできるようになるのが当面の目標になりました。
あと出張中は、普通に街中の店員さんとかの英語を聞き取れなかったり勘違いしたりして、何度も聞き返したり恥ずかしい思いをしたこともたくさんありました。
留学はもとより海外旅行や海外出張の経験がほとんどないので(恥ずかしながら一人で海外に行くのは今回が初めてでした!)、そういう初心者レベルでつまずくことも多かったですが、とりあえず場数を踏んでいこう…と思っています。
振り返り②英語の勉強
上述の通り英語の勉強は足りていないのですが、記録としてやったことを書いておきます。もっと効率よく英語が上達する方法があれば教えてもらえると嬉しいです…!
尊敬する友人である篠宮紗和子さんの研究ブログを熟読しました。マニュアル人間なので(?)、ここに書いてあることは大体やりました。手ごたえはあったですが、今回WERAで発表や英会話をしてみてまだまだ練習が足りてないなということがわかったので、引き続き篠宮メソッドを頑張ろうと思っています。
教育研究系のPodcastを色々探し、iPhoneやApple Podcastの文字起こし機能を使ってトランスクリプトを読みながら聞いていました。私は視覚情報をかなり頼りにしているので、文字がないとそもそも聞き続けることが難しいなと思ったためです。英語学習的にはあんまり効果がないのかもしれませんが、教育研究や社会学研究に関する語彙や言い回し、研究をテーマとした英会話に触れるのに役立っていると思います。勉強する過程で見つけたPodcastは以下の通りです。
The Harvard EdCast ハーバード大のpodcast。ウェブサイト(リンク先)でトランスクリプトを提供してくれています(最近更新が止まっていて悲しい)。
School’s In スタンフォード大のpodcast。ウェブサイト(リンク先)でトランスクリプトを提供してくれています。
Meet The Education Researcher オーストラリアのMonash Universityが運営しているpodcast。
OECD Education Podcast 名前の通りですが、OECDのやっているpodcast。
New Books in Sociology これは社会学系の新刊紹介のpodcastなのですが、たまに教育関連のテーマの本が取り上げられたときに聞くようにしています。
おわりに
研究者としてまだできないこと、できるようになりたいことが本当にたくさんあり、国際学会での発表や議論もその一つです。
私のように院生でもなくもう就職した研究者(いつまでも若手という肩書に甘んじてもいられない)が、こんな低レベルなことでも苦労しているのは相当に恥ずかしくてかっこ悪いのですが、自分の研究の幅を広げるためにも少しずつ頑張ろうと思います。
今から挑戦しようか迷っている人に、「今更でも、このぐらいかっこ悪くても、やってみていいんだ」と少しでも思ってもらえると嬉しいと考えて書きました。読んで頂きありがとうございました。