女性の扱い方を知らない、31歳の既婚者
去年の夏、仲が良い先輩と一緒に合コンを企画した。
それは7対7という大人数の合コンで、
正直名前を覚えられないまま解散した人も何人かいる。
青山の一角にあるアボカド専門店の個室で一次会が終わり、店の外へ出ると男性陣が事前にハイヤーしてくれていた車が3台止まっていた。
二次会に参加する12人は各々車に乗り込み、麻布十番にある個室のカラオケラウンジへと向かった。
そんな合コン中、ずっと私の隣りに座っていた男性がいる。
31歳の、既婚者だった。
「なんでこの場にいるの?」と多分全員が思ったが、話はなかなかに面白いし、盛り上げ要員としてはもってこいだ。
もちろんだが、私を含めた女性陣はみんな彼のことを“付き合いたい男性”の対象として見ていなかった。
合コンの数時間を通して仲良くなると、
彼は数週間後に迫った私の誕生日を祝いたいと、帰り際にしつこく誘ってきた。
ご飯くらいなら、と思った私はOKした。
**
待ち合わせ当日、新宿のルミネ前で待っていると50分遅れで彼がやってきた。
「仕事が終わらなくて、本当にごめん。そして、おめでとう」
と言って、黄色やオレンジを基調とした花束を差し出してきた。
遅刻されたイライラはもちろんあったが、思いがけない行為にすごく驚き、素直に嬉しかった。
大好きなタイ料理のお店でご飯を食べて、お腹いっぱいになった私たちはワインを飲むため店を変えた。
合コンの時同様に、一対一で話していても奥さんの存在を隠したりなどせず、子供の可愛いエピソードも話してくれたりと、ほっこりする家族自慢をたくさんしてくれた。
これは、むしろ好感度が上がった。
ここで家族のことを悪く言ってきたら、私に対する下心も垣間見えてしまうが、そんなことなどなく、ずっと“後輩と先輩”のような時間が流れていた。
しかし、それはあっという間に急変した。
顔も全くタイプではない上に妻子がいたため、もちろんご飯中の思わせぶりな言動は何一つしていない。
それというのに、その日のご飯を境に彼からの連絡は増し、「ちゅ♡」というスタンプや電話の嵐。
奥さんと子供が家で待っているというのに、
「家に着くまで電話したい」と最寄り駅に着いた彼から電話がかかってきたり、
「◯日空いてる?」と頻繁に届くライン。
最初の合コンを含めてもまだ2回しか会っていないのに、さもずっと仲良しだったかのような連絡の量がくる。
全て既読無視していたが、それでもなおめげずに追いラインをしてくるのが、とても不思議だ。
そんなある日、「寿司食べに行こう!」という連絡が届いた。
最近の連絡はずっと無視していたが、久しぶりにちゃんと返事をすることにした。
「すみません、実は昨日友達と韓国旅行から帰国して明らかに太ったので、しばらくはご飯行けません」と丁寧に返した。
嘘ではない。
本当に韓国で食べすぎて+2キロしてしまい、外食などしている場合ではなかった。
この内容に対して男性の最適な返しは、
1)「俺は別に太ったのとか気にしないけど、女の子はそういうの気になるよね!都合いい時また連絡ちょうだい!」
2)「俺は気にしないから、会いたいな」
あたりだと思う。
このような返事が来たら私は嬉しいし、悪い気はしない。
だけど、この男は違った。
彼から届いた返事は、
「えーじゃあ早く痩せてね!」
…ありえない。思わず二度見してしまった。
こんなにも女性の扱い方を知らない男がいることにびっくりした。
「どこにそんなことを言う権利があるの?
しかもなぜ私が興味もないあなたのために痩せないといけないの?」
と、何かを勘違いしている彼にとにかくイライラが止まらず、既読無視をした。
翌日電話がかかってきたが、
それももちろん無視。
数日後、
「やっぱり痩せなくていいから会おう!」
と届き、そのまた数日後に、
「痩せた!?」
とラインがきた。
幾度無視してもめげずに無神経なラインを送り続けてくる彼に対して、一種の尊敬さえ覚えた。「既読無視=興味ない」ということをそっちのけで、こんなにも連絡し続けられる彼の図太い神経がすごい。
その後ブロックし、ようやく電話もラインも届かなくなった。
結局彼からもらったのは、
黄色い花束と、最高のネタである。
💐
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?