メンヘラな、令和の芥川龍之介
「あの…実は最近またやばい男に出会って…」
お店の名物である数の子ポテサラを一口頬張りながら私は気まずそうに話し始めた。
水曜日の夜9時なのにも関わらず、週の折り返し地点だからか、店内はすごく賑わっていた。
「また?!」
「ねえwwwww」
「期待を裏切らねえな!」
と大笑いしながら次々と口にするのは、中学から仲が良い3人の友人だ。
中学生の頃一途に2年半片想いをし続けていた私、
高校生から大学前半まで5年半に及ぶ大恋愛をしていた私、
9つ上の彼に振り回されていた私、
そしてここ数年間地雷男にしか出会えない不幸な私…
色々な私を近くで見て支えてくれた、大切な3人だ。
「とりあえずその人の写真見せるから、この顔を想像しながら話聞いて」と私は言い、数回のデートに渡って撮影した写真をいくつか見せる。
色白で身体の細い彼は、とても薄い塩顔で、一重の上に細縁のメガネをかけている。センター分けした髪型は顔に合っていて、白髪混じりな髪の毛もどこかかっこよさに貢献している。持っている小物はhender scheme系で、服装もシンプルでさっぱりとした清潔感がある。
そんな彼が塩辛をペロッと舐めている写真、
日本酒を飲みながらこっちをとろんとした目で見つめている写真、
スマホをいじっている姿を盗撮した写真、
計3枚の彼をみんなに見せる。
独特の雰囲気となんとも言えない文豪感があり、
その場で彼のことを『令和の芥川龍之介』とみんなで命名した。
**
そんな芥川は、32歳だった。
彼とはマッチングアプリで出会い、純粋なデートを2回重ねたのちに花火大会で告白され、受け入れた。
ベタな展開だが、当時は少女漫画のような展開にドキドキした。
しかし告白の直後に、
「俺は君が思ってるほどいい男じゃないのだけを伝えておきたい。今32歳だけど、昇進したいとは全く思わないし、仕事への目標も一切ないし、今まで10回ほど転職もして何をやりたいのかまだ分かっていない。守りたいものもないからお金も特別稼ぐ必要がないと思ってる。そんな感じ」と真っ直ぐ私を見つめながら言った。
……?!
その時私は、花火大会の雰囲気やその衝撃発言をする前の素敵な彼の残像がチラついてしまい、「まあ人それぞれいろんな頑張り方あるからね!」と謎のフォローをした。
そこで地雷臭に気付いて一目散に告白の返事を取り返し、一人で帰宅するのが本来あるべき展開だと思う。
しかし私は謎のフォローと、「まあなんとかなる」という気持ちで芥川の家に帰宅してしまった。
この後の結論から言ってしまうと、
この告白から4日後、私は彼をブロックすることになる。
それまで包み隠していたメンヘラ具合が本当にひどかったのだ。
ラインの送信取り消しは当たり前だし、
夕方から電話も鳴り止まないし、
酔っ払っている時に送られてくる誤字脱字ラインもひどい。
たった一日会わないだけで、
「早く会いたい。大好きだよ。マジで好き。なんか全部が好き。今どこいんの?今日何時に帰るの?(着信)電話したい。今日も会いたい…って言ったらだめ?すごい女々しいわ俺…ごめんね、ただ隣にいたかった。(着信)ごめんね、めんどくさくて。大好きだよ。なぁ、会いたくて仕方ない。(着信)会えるまで頑張るを。辛い、qごめんに!はぁ、ほんと辛いのよ。誤字やばいね。酔ってるわ、だから冷静になる。(着信)ごめん。寂しさmax。(着信)なぁごめん、切ない。(着信)なにしてる?ごめん、彼氏失格だわ、ほんとごめんね。会える日まで果てしなく永い…」
と来る。(笑)
今このnoteを書きながら彼から送られてきた文面そのものを書き写しているのだが、もう突っ込みどころが多すぎて一体何から着手していいのかが分からない。
【ごめん。寂しさmax】は売れないアーティストのシングルの名前みたいだし、返事をしていないのにも関わらず着信多すぎだし、【会える日まで果てしなく永い】って明後日会う約束してるし、長いじゃなくて【永い】なのもツボである。
私は地雷男にはたくさん出会ってきたが、ここまでとんでもないメンヘラは初めてだった。
加えて、翌日届いたラインには、
「昨日はごめん。友達と飲んでてちょっと飲みすぎた。しつこすぎて仕事捗らなかったよね。ほんとごめん。今週はいつ会える?俺はバイトある日以外ならいつでも会えるよ。」と記載してあった。
……?!
友達と一緒にいる間にあんなに連絡してきたの?!
バ、バイトとは?!
この前まで仕事してたよね?!
もう二日連続で色々な衝撃を食らいすぎて、本気で早く縁を切りたいという気持ち以外なかった。
私は自分一人だけ加入している【ひとりごと】というグループラインがあり、そこに日々の考え事やメモなどを書き溜めている。
そこに当時の心境がこう残されていた↓
…自分、正論しか言ってない。(笑)
花火大会の恐ろしい告白後に芥川のやばさに気付けなかった自分が一番恐ろしいが、ちゃんとここまで持ち直した自分を褒めてあげたい。
この日、彼の昼休憩を見計らって電話し、上記ラインの内容を全て伝えると共にさようならと告げた。
告白から別れまで4日というスピーディーすぎる関係性だったため、もはや付き合ったとも言いたくなければ、元カレとも呼びたくない。
ほどよく距離をとった関係性こそ、一番近くで愛を感じることができる。
とこの時思った。
芥川が、今日本のどこかで愛する人のためにも仕事を全うし、
「好き」という気持ちを違う形でぶつけていますように。
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