推しは推せるうちに推せ
CA時代、バリのフライトに乗務した日。
激ヤバインド人男と仕事が一緒になった。
仕事をとことんサボるとか、堂々と嘘をつくとか、そんなことはもう可愛いレベルで、
自分のサービスすべき範囲のお客様へ機内食を配るのを途中でやめて、お菓子を食べ始めるような男だった。
機内の大事な物をなくす、クルー用の食事を1人で7人分食べ散らかす、お客様をごりごりに怒らせてトイレに逃亡する、サービスの時間になったら忍者レベルになり姿を消す。
サービスが落ち着いたタイミングで、私はその日が初対面だった日本人の先輩クルーを捕まえて、
「私、あの男のことフォークで刺しそうです。」
と愚痴ったくらいには頭にきていた。
その先輩がなだめながらカプチーノを作ってくれたこともあり、私はなんとか心を落ち着け傷害事件を起こさずにそのフライトは終えられたものの、
休憩なしの深夜便オールナイトパーティ10時間フライトwith激ヤバ男のせいで泥のように疲れてしまった。
最後まで奴を刺さなかった自分を褒めちぎりながらやっとの思いで家に帰宅し、制服を脱ぎ捨ててシャワー浴びる。
拘束時間も長いフライトだったので、もう15時間ほど携帯を触っていなかった。
寝る前に確認しようと思い、機内モードを解除。
すごい数のLINEが届いている。
「大丈夫?」
「生きてる?」
「無事?あまりにもびっくりしてる...」
ああ、近くの国でテロが起きたか、飛行機事故かのどっちかだと思った。
少し不安になりながらニュースを開く。
「SMAP 解散」
木村拓哉を見て、初めて人間に対してかっこいいという感情を知った3歳。
眠い目をこすりながら、起きていられるところまで起きてスマスマを楽しみにしていた幼稚園。
初めてSMAPのライブに連れて行ってもらった小学生。
ガラケーの着メロ、着うたはSMAPの中学時代。
高校生になりiPodが普及したら、大量の曲をiTunesから時間をかけて取り込んだ。
学生時代は目立てるかもと思い、あえて制服でライブに行ったり。
勉強や部活で大変な時も、しんどい時も、嬉しい時も、常にSMAPがいた私の人生。
それが、あとたったの数ヶ月でなくなってしまう。
夜通し働いて早朝に帰宅し、その日の夜にはもう次のフライトを控えていたが、あまりの悲しさと辛さと受け入れられない気持ちでいっぱいで、一睡も出来なかった。
結果としてラストライブになってしまった、最後のSMAPのライブは私が21歳の時だった。
毎回、SMAPの大阪でのライブは夏頃で、その年も9月開催。
アメリカ留学中だった私は行けない。
はずだった。
その年だけ、クリスマスに大阪での追加公演が発表された。
12月中旬には留学先の大学での授業と試験が終わる。
まって、行けるやん。
これ私のための追加公演ってこと?(脳内お花畑ファン代表)
大学での授業が終わった後はカナダへ移動して、年明けまで、遠距離恋愛をしていた彼と一緒に過ごす予定だった。
さあ、どうしようか。
帰国を早めることで彼に一切会えないのであれば、私は冷酷くそ野郎かもしれない。
だけど、予定を変更しても10日間くらいは一緒にいられる。
これまでのSMAPの支えがなければ、私は留学にも来れてないかもしれない。
ってことはSMAPがいなければ彼に会えることすらなかったんや。
これはつまり、SMAP様様ってこと。ライブには絶対行かなあかん。
SMAPのために帰国を早める選択肢しかない私は、クリスマスとお正月を一緒に過ごすつもりでいる彼に対する罪悪感を消し去るため、お花畑メンタルで頭の中を埋めた。
「日本の就活ってすっっっごい大変で、12/24にあるオリエンテーションに出席できなかったら遅れ取りすぎてもう私これから一生無職かも」
と、今思えばものすごく頭悪そうなことを言い、予定よりも早めに帰国することを伝えた。
40過ぎたアイドルに会いたいから早く帰りたい、とはさすがに言えなかった。分かってもらわれへんかった時、終着点のなさそうな喧嘩したくない。
そんな経緯で行ったライブが、結果としてラストライブだった。
ただSMAPに会いたい一心でついた嘘は、私の人生で1番必要だった嘘になったと思っている。
当たり前にずっと日常にあると思ってたものが、ある日突然いなくなる。
SMAPの解散は、それを身をもって体感した出来事だった。
「推しは推せる時に推せ」
座右の銘ですって言えるくらい、大事にしてる言葉。
これを英語で表現するなら、私はNow or neverって訳すと思う。
ボン・ジョビの名曲と言うてること一緒。なかやまきんに君の、あの曲。
私のような庶民には考えられないくらいのお金を持っていて、でも想像もできないいろんなことを犠牲にしながら常に見られる生活をしているであろう、推し達。
きっといつやめても生活には困らないのに、キラキラを与えて続けてくれる人達。
ゲリラインスタライブなんて、タダ働き時間外労働と一緒やで、
そこまでしてくれている人達に、悪口書き込むなんてもってのほか。
いついなくなってしまうか分からないからこそ、私はこれからも存在に感謝しながら、推しは推せるうちに推すし、
会いたい人には会える時に会う、行きたい場所には行きたい時に行く。
SMAPの解散を未だに引きずっている私は、あの日以来、いつも心にボン・ジョビ精神を携えて生きています。
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