干しいもを作る エピソード6
われらがnote干しいも部では、干しいも製作に関して、その道のプロではない部員が、大真面目に奮闘して、干しいもを自主調査、自作しているのである。noteでその検討過程を公開するのである。もちろん無料公開である。なぜか。理由は簡単である。
知識と経験と干しいもは人類の宝
だからである。
知識と経験はもったいぶらず世間にあまねく公開すべきである。
それが学術研究のあるべき姿である。
・・・これ、学術研究やったんか? なぁ? 科研費もろたアレの続き?
ちょっとまえ、部活動って言うてたんちゃうん?
そもそも研究費用もらってないし!
・・・ええ!? マジ? 目ぇ笑ってないやん?
0.世の中の "情報" は信用できるのか
わたしは、ちょちょいと調べた程度では納得できなかったのである。
さつまいものことを調べると
「ヤラピンが含まれるのは甘い証拠!」であるとか「ポリフェノールたっぷりのさつまいもは美容にいい!」であるとか、どうにも個人的にスッと腑に落ちない表現が散見されるように思ってしまったのである。そう思ってしまったわたしは干しいもに関して、中途半端な情報では納得できず、もはやズブズブである。そうして食品化学の論文に手を出し、自分なりに整理し始めた。この時点で大抵の人は呆れてしまうのであって、家のものからは
「もう、・・・干しいも屋さんに転職したら?」
と言われる始末である(これは残念ながら本当の話であった)。
しかし、この程度で呆れていては食品化学の方々は仕事にならないのである。彼らはわたしのような素人の何倍も本気なのである、きっと。
そして
いつものことながらわたしは、明日から本気である。
なぜならわたしのプロフィールには
「明日から本気出します」
と記載したからである。
じゃあ今日は何なのか。
聞いてはいけない。
日本には「忖度」という文化があるからである。
1.干しいもの自作
全方位的素人であるわたしは、干しいもを自作したのだ。
1−0.すっ飛ばしてもよい能書き
わたしの住まいには、大きな庭はない。なぜか。貧乏だからである。それは「干す場所がない」ことを意味しておる。
わたしの住まいは
秋の田のかりほ(仮の庵)
であるとか
葦のまろ屋
のような処である。
然し赤貧生活であっても人は生来五欲という煩悩を背負っているのであり、旨い物を喰いたいというのは自然の欲望なのであって、それが甘藷の蒸切干への渇望へ繋がっているのである。青木昆陽先生萬歳!
・・・いちいち大げさなやっちゃな。
つまりは
・干しいもはおいしいのだから自作してみたい
・手軽にできるのであればそれに越したことはない
のである。
そして
我が住まいに、せいろは無い。
無いのである。無い袖は振れぬ。
研究というものはいつだって、
身近にあるものからスタートさせるものである。
制限ある環境であればこそ、工夫が活きるのである。
ほな行こか。
1−1.準備するもの
・さつまいも 今回は小美玉市産の紅はるかを購入して使用
・炊飯器 玄米モードのあるもの
※玄米モード以外での実験は未了
・オーブンレンジの網
・扇風機
・乾燥スペース(屋内で可)
1−2.工程
1.いもを洗って、炊飯器に入れる。
2.水を3合分入れて、玄米モードで炊く。
せいろの無い我が住まいで
簡便に干しいもを作製しようと思い調べていると、
複数のサイトで炊飯器の玄米モードを推奨していた。
出来上がったとされるものの画像をいくつか見て
信用に値すると判断してこれを採用したものである。
下の画像は炊いたあとのもの
3.熱いうちに皮をむく。
下の画像は、皮むき後。
皮むきの際には、干した後の黒ずみを防ぐために
厚めに剥く(周辺部の黒ずみを防ぐため。下記1−5にて説明)。
4.包丁で6〜8mm程度の厚さに切り、
オーブンレンジの網へ乗せる。
いわゆる「平干し」の状態である。
あまり力を入れると形が崩れてしまう。
実際に、
今回扱った大きなものは半分に割れてしまった。
下の画像は、網へ乗せたあとのもの
5.乾燥スペースに網を持っていって
扇風機(一番弱いモード)で乾燥する。
そして、6〜12時間に一度くらいひっくり返しながら
36時間で概ね出来上がった。
(干し網を買い損ねたうえ、
広い庭のない我が住まいでの、苦肉の策である)
※厚めに切った場合は、
更に8〜12時間かけるとよいように思われる。
個人の好みの範囲でもある。
<参考>
プロの方はこのように作業されるようです
1−3.目視評価
●干す前のイモ
●干したあとのイモ
乾燥により収縮し、色味が暗くなってきているのがわかる。
また、乾燥後のいもには白い部分と黒い部分がある。
普段買い求める市販品にはこれが見られない。
ということは、
この部分があると品質低下につながるのではないか。
1−4.干しいもの白い部分
下のイモには白い部分があるのがおわかりいただけるかと思う。
おそらく「シロタ」と言われる不具合である。
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/nics11-4.pdf
蒸切干用サツマイモの高品質化に関する研究 より
シロタは
蒸切干加工時の乾燥過程における細胞内容物の収縮が大きいことによるもの(収縮型)、生イモ段階から細胞内デンプンが蓄積異常をきたして含有量が低下するため蒸煮時に空隙が発生するもの(空隙型)の 2 つのタイプがある
干す前の個体を見てみると、すでに白い筋状の部分が見られるため、生いもの状態で空隙ができたものと推察される。少し硬いが食べられなくはない。商品として考えた時、取り除くべきものではあると思われる。
1−5.干しいもの黒い部分
次に、黒い部分をみてみる。
黒い部分(黒変)については、下記報告がある。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010722119.pdf
サツマイモ品種・系統の蒸切干(干しいも)加工過程における品質特性の経時変化 より
乾燥が進むにつれ…乾燥に伴う色素の凝集以外に、蒸切干に含まれるポリフェノール類等の成分の酸化による黒変が原因として想定された。
これに作用するポリフェノール類としては、クロロゲン酸が知られている。
https://www.jrt.gr.jp/wp-content/uploads/20-29.pdf
サツマイモの栄養機能成分と焼き芋の美味しい焼き方理論 より
サツマイモのポリフェノールは主にクロロゲン酸で、… クロロゲン酸類は切断などの調理・加工により褐変の原因となり商品的価値を損ね問題とされている。
また、
上記文献の図6及び図8から
部位によってポリフェノール類の含有量が異なり、
表皮に近い部分ほど含有量が多いことがわかる。
ここから、
生いもを蒸したあとの皮むきにおいて、
・皮をある程度(上記文献の図6における皮層まで)厚く剥くこと
・いもの両端を落とすこと
が、干しいもにおける黒ずみを防ぐ手段となる。
蒸した後に、外皮を厚く剥がすのは、
この黒変部分を除くためである。
2.売っている商品との対決
市販品の干しいも(紅はるか)を比較対象とした。
これは近所のスーパーマーケットに売っているものである。
プライベートブランドのものであり
「もったいねーべ株式会社」というところで製造している。スーパーの棚に山と積まれていた。自作品、市販品いずれも紅はるか種であり、比較対象として疑義の生じないものである。
相手に不足はない。
こっちは
安定した高い品質のものを大量に生産する企業に立ち向かう
零細・貧ぼっちゃま自作干しいもである。
かかってこいや。
2−1.官能評価
実際に自分で評価を行ったのでメモをしておく。
評価項目は
色味
触感
食感
食味
とした。
下の画像は
左側:自作品 右側:市販品
である。
色味 見た目
市販品のほうが「黄金色」である。
自作品は、より「黄色っぽい」色であった。
「黄金色」としたほうが消費者への訴求力は高そうだ。
スマホの勝手な階調補正により、
本来の見た目とは異なってしまい、リカバーできていない。
色味は、好みの部分でもあるが、
同じ紅はるか種であるにも関わらず
色味が異なる原因は不明である。
自作品は天日干ししておらず、
これが効いているかもしれないが
(適度な酸化作用により、褐変の結果「黄金色」となる?)。
触感 実際に手で触れた感じ
市販品のほうが「明らかにべとべとしている」。
これは表面の水分量の違いによると思われる。
安納芋ブーム以降「ねっとり芋」が市民権を得たことから
このしっとり感で商品化しているものと思われる。
自作品の表面は少し乾燥しており、
「少しべたべたする」が気になるほどではない。
食感 歯ざわりや舌ざわり
市販品のほうが食感が均質である。
自作品は、表面が硬く、中は粘りのある食感である。
自作品の「粘りのある食感」は
市販品と同等のテクスチャである。
市販品も乾燥しているはずであるが
内側と外側で水分量が均一に思われる。
不思議である。
食味 実際に舌で感じる味
市販品のほうが甘みが強い。
蒸し工程の温度制御により
十分に糖化が促進されていることが推察される。
自作品は、
炊飯器の玄米モードであり温度制御していないため
市販品ほどの糖化が進まなかった可能性がある。
2−2.官能評価からわかったこと
さすがは市販品である。
かかってこいや、といいつつ
市販品は高品質、お主やるな、完敗じゃ
というところか。
市販品が自作品に比べて
決定的に優れているところは
干しいもの含水量が外側と内側で均一なこと
であると気づいた。
自作して、
市販品がどうやってこれを達成しているのか疑問を持ったが
それについては次に述べる。
身近なもので自作したわりにはいい勝負だった。
甘さの観点では自作品でも十分市販に耐えうると思うし
これがある程度の量作れれば、
「お店で買わないかな」
というレベルのものはできる。
及第点である。
3.自作品と市販品との決定的な差
近所のスーパーで買ってきたものは、
先の紹介したとおり「もったいねーべ株式会社」で作られている。
ここで作られている干しいもは、
なぜ自作のものより品質がよいのであろうか。
パンフレットを拝見して納得するとともに
「これは自宅で出来ないな」
と思ったことがあった。
「減圧乾燥」である。
専用の機械を使って圧力を低くすることで、
水分が蒸発しやすくなる工夫をするのである。
山に登ってお湯を沸かすと、
100℃より低い温度で沸騰してしまう。
気圧が低いからである。
気圧が低いと水分はいつもより蒸発しやすくなるのである。
減圧乾燥による干しいも乾燥は
この「物の理(もののことわり)」を利用しているのであって
いもが気圧の低い環境に置かれることで、
わざわざ風を吹き付けずとも、
水分が蒸発していくのである。
気圧と温湿度をコントロールすることで、
干しいもの外側と内側の水分量に差がつくことなく
乾燥することが可能だと推測される。
オーブンレンジの網に
切ったいもを乗せて
扇風機で乾燥する
という前時代的なやり方とは違うのであったヾ(*´∀`*)ノ
他の干しいも製造業者においても
同様の工程を採用していることと思われる。
また、資料によれば
生いも貯蔵においても「キュアリング」という技術がある
とのことだが
これについては不明なままであり、推測もできていない。
4.今回やっていないこと
天日干し
干し網がなかったことから、天日干しをしていない。これによりじっくり乾燥させ、扇風機による乾燥とは違った、市販品に近い品質になる可能性があるのではないか。
平干しとした場合の最適厚み検討
今回は目視で1cm弱を目安に包丁で切り分けた。6〜8mmとしたが、少々厚めのものが美味しく感じられるように思う。一方、丸干しに関して、厚みの観点からは平干しの2〜3倍程度になると思われる。平干しに比べ乾燥に時間を要することと、カビの生える懸念があることから、丸干し相当のものは作製しなかった。
5.まとめ
作ってみるとおいしいよ。
干し網があったら、天日干しもいいよね。
じゃ、そういうことで ヾ(*´∀`*)ノ
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