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会社清算手続きに関するTips

おはようございます。きさいです。
UP!経理 Advent Calendar 2023へ参加させていただくことになりましたので、今年一年の振り返りを込めてひとつ記事にしておきます。

国内企業の倒産件数は、毎年数千〜1万件弱ほどです。あなたがバックオフィスを担当している会社でも、時には会社が倒産し、その清算手続きを引き受けることがあるかもしれません。そんなときに読んでほしい記事です。なるべく読まれることがないよう願っていますが。

2023年4月~2023年12月ごろ、私は元バックオフィスマネージャーとして一連の清算手続きを経験しました。どのような資料や手続きが必要かは破産管財人より都度指示がありますが、それより早めに準備しておいた方が良いものも多くありますので、速やかに手続を進めるための参考にしていただければと思います。


経理周り

債権・債務

一連の手続きの序盤に行う作業はまずは債権・債務の取りまとめです。売掛・買掛金、借入金、各種サービスの支払いやカードの引き落とし、家賃、リース、公租公課などすべての未収・未払い金について、どこにいくらあるのかを一覧にまとめます。請求書や契約書とセットで提出するものもあります。
サービスの支払い等に関しては、自分で解約できるものについては次回の支払いが発生しないうちになるべく早く解約していきます。そして、長期間の(例えば年間契約の)サービスについては、破産管財人の権限により強制的に解約手続きをしてくれます。ただし、その際にはその取引先の連絡可能な電話番号等が必要になります。話が前後しますが、破産手続開始通知書を各取引先に書面で送りますので相手先の住所も必要となります。更にいうと、特に大企業については担当してくれていた課や部までわかると相手としても助かるかと思います。
ここで重要なことは、取引先の情報を正確に把握していること、またバックオフィスにサービスの解約等が行える管理権限を付与されていることです。逆にこれが無いとかなり面倒です。普段はセキュリティの兼ね合いで各部署と相談は必要ですが、販売管理ツールや各クラウド系サービスの管理画面へバックオフィス担当者がアクセスできる状態であることが望ましいです。
会計ソフトなど一部清算手続きの完了まで継続が必要なサービスもあるため、その点は予め内容や金額を申告しておきましょう。引き落とし口座は止められてしまうため、清算手続きを請け負った担当者個人での立替払いとなります。
未払い給与についても債権に該当しますがそちらは後述します。

計算書類・帳簿類

破産直前期の日常仕訳については、忙しい時期かと思いますがしっかり行ってください。後に税務申告の際に必要となります(申告は税理士に依頼します)。破産の当日まで処理がされていれば大丈夫ですが、口座等とAPI連携をしている場合はいずれ切れてしまうので早めに処理します。回収した現金等を弁護士預り口座に入金した取引は一時的に仮払金として処理します。クラウド会計ソフトを使用している場合は帳簿類(残高試算表、総勘定元帳、仕訳帳、消費税区分別表、消費税集計表等)のダウンロードもしておきます。

・債権債務一覧・金額
・取引先の住所・電話番号・担当部署
・未収・未払いの請求書
・借入明細書
・納税証明書
・通帳・計算書類各種の控え
・クラウドサービス等の解約

労務周り

各種届出

日本年金機構やハローワークに各種届け出をし、従業員に退職書類を発行していきます。具体的には被保険者資格喪失届、適用事業所全喪届、被保険者資格喪失届、離職票の発行、雇用保険適用事業所廃止届などです。従業員からの保険証の回収も忘れずに。住民税についても各市区町村へ普通徴収への切り替え手続きなどを行います。
だいたいは自力で行いましたが、労働保険確定保険料申告など一部自力でできそうになかったものは社労士に依頼しました。源泉徴収票については通常の給与として支払済の金額分のみ発行します(未払い給与分は支給時に発行してもらえます。ただし源泉徴収はされないため、各自確定申告が必要となります)。
普段扱わない書類の書き方は調べてもなかなか出てこなかったりしますが、わからないことはとにかく役所に聞きまくってください。面倒そうな顔をされることもありますが、なんだかんだ教えてくれます。
正直なところ労務周りが一番しんどかったです。私の経験不足というところもありますが、役所へ赴いたり電話したり郵送だったり、物理作業の山に追われます。30人弱の規模でかなりの手数がかかったので、これ以上は一人だとたぶん抱えきれません。

未払い給与

未払いとなっている給与の算定日〜解雇日までを日割りで算定します。また同時に未払いの従業員立替経費についてもまとめておきます(そちらは労働債権ではなく一般債権となります)。
ここで地味に重要なのが従業員の現住所・住民票住所等を最新の情報に更新してもらうことです。情報は労務ソフトへ入力しているかと思いますが、最終勤務日までにいま一度各情報が最新のものか各自確認するよう促してください。連絡のつく個人メールアドレスと電話番号も必要です。引っ越してしまい古い住所のままだったりすると、給与振込依頼書が届かなかったり、住民税周りの手続きに必要な市区町村が違ったりして余計な手間が増えます。
給与周りは一連の手続きのうち早い段階でも少し触れるのですが、しっかり計算したり細かいところまで見られるのはかなり日時が経ってからでした。日が経つと記憶も曖昧になってくるので、倒産直前期のタイムカードまでしっかり記録されていることを早めにチェックしておきましょう。
ちなみに清算後には債権者への分配となりますが、そこでは労働債権が最優先で支払われます。では未払い分を賄えきれなかったら給与は支払われないのかというとそうではなく、労働者健康安全機構というところから8割を上限として立替払いしてくれるそうです。ありがたや。

・各種喪失届
・退職書類・離職票の発行
・保険証の回収
・雇用契約書
・就業規則
・賃金台帳・勤怠
・未払いの立替経費集計表
・正確な従業員情報

総務その他

貸与物の回収

社用PCやスマホや試供品など、会社から従業員や取引先に貸与しているものがあれば回収します。回収は管財人が代理で行うため、普段から誰に何を貸与しているのかしっかり管理することを心がけましょう。
手当ではなく経費として購入し買い与えたものは会社所有物となるため回収対象ですが、消耗品を一時的に保有している場合や少額のものもあるかと思います。我々が判断できる部分ではないですが、管財人としては売却価額が回収コストを上回るものは回収対象と捉えて問題ないかと思います。回収後は売却されることになるため、例えばMacであればApple IDとの切り離しをして初期化できる状態にしておいてください。

オフィス

破産手続きを開始すると、現金や通帳、印鑑と同時にオフィスの鍵も管財人に預け渡します。そのため以降オフィスへは基本入れなくなりますので、物理書類については簡単には探すことができなくなります。なるべくリモートで手続きを進めるためにも普段から書類はスキャンして電子化しておきましょう。私はおかげで一連の手続きをリモートで完結できました。契約書管理でクラウドサービスを利用している場合はすべてダウンロードしておきます。
ちなみにオフィスへの立ち入りを禁止する理由としては、資産の持ち出しを阻止する意味合いもありますが、債権者が直接回収に来たりしてトラブルが起こることを避けるためでもあるそうです。

ファイルデータ

オンラインストレージ等も使えなくなるため、こちらも可能であれば一通りダウンロードしておきます。Google Workspaceを利用していた場合はスプレッドシート等も使えなくなり、Excelも課金が切れると編集できず閲覧のみになったりするため、引き続きやり取りに必要な資料があれば一時的に個人のドライブへ移すなどする必要があります。業務実態の確認をするため議事録を遡ったりもします。

代表電話

取引先へは郵便で破産通知書を送り、それ以降の連絡は担当弁護士あるいは管財人としてもらうことになります。各方面から鬼のように電話がかかってきますが、心を殺してガン無視します。電話も解約します。

事業譲渡のある場合

ソフトウェア(固定資産)が換金可能な資産と認められ、事業譲渡が行われました。このようなケースでは、譲渡完了までの間サーバ費用など最低限の保守費用を継続して支払うため、何をするためにいくら必要かを管財人に申し入れる必要があります。このあたりは技術サイドの担当者に協力してもらいます。また既存顧客に対し譲渡後も継続利用を希望するか否かの確認をしていくため、ここでも取引先の担当者や連絡先が明確であることが望ましいです。
ひとつ厄介だったことが、開発で業務委託の方に関わっていただいていたのですが、事業譲渡をするうえで業務委託契約書の内容に不備があり、著作物の権利移転の条項が盛り込まれていないことがわかりました。そのため権利移転の確認書というものを作成し、過去に関わっていただいた方に送付と回収を行いました。管財人は法律の専門家ですのでそういった細かい部分も見てきます。先任が用意した契約書の雛形をそのまま使っていたのですが、契約書は必ず顧問弁護士のレビューを受けてください。

・貸与物一覧・回収
・株主名簿・総会書類
・賃貸契約書
・ファイルやドキュメントのダウンロード
・業務委託契約書

おわりに

改めてリスト化すると、お金に関わる書類は一通り必要であることがわかります。書類の格納場所は常に整理しておきましょう。また情報の更新など当たり前のことも多いように見えますが、だからこそ全体を見返す機会というのも普段なかなか無いため、定期的にそういった機会を設けてみるのもいいかもしれません。

もし清算手続きを引き受けてその対価をもらう場合は、それぞれのタスクにどれくらいの時間がかかったかを客観的にわかるようにまとめておくと良いかと思います。また、できるものはなるべく自力で手続きをするようにしましたが、かなりの労力と時間を要する一方、特にバックオフィスとしてのスキルに直接繋がるというわけでもないので、投げられる部分は税理士・社労士に依頼した方が賢明です。タスクとしてもかなりの分量があり、メールのやり取りだけで現段階で300件を超えています。引き受ける場合はそれなりの覚悟を持って取り掛かることをオススメします。

2023年12月現在、私含め元従業員の方への未払い給与も無事支払われました。まだ一部手続きは残っていますが、いったん一段落ついたかなというところです。すぐに転職活動を始めなかった分だいぶ休暇も取れたので、来年はどこかの企業に所属して心機一転の再スタートを切りたいと思います。

最後に、これまで共に働いてくれた仲間と関わっていただいたすべての方に感謝申し上げます。
それでは、少し早いですが良いお年を!


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