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VRoid Studioで世界に1つだけのアバターを作ろう――来たるべきアバター社会を満喫するために

2050年までに1人1人のアバターが生まれる?!

皆さん、アバターという言葉を聞いたことがありますか? 少し年齢が上の方であれば「ああ、あの青い登場人物が出てくる映画ね」と思い浮かべるかもしれません。あるいは、Meta Questを使ってVRChatを楽しんでいる人なら「自分の推しキャラでアバター作ってるよ」なんていう方もいるでしょう。

アバターとは、もともとサンスクリット語の「avataara(アヴァターラ)」、神の化身を語源とする英語で、今ではインターネットやゲームなど、仮想空間上におけるユーザ自身の分身を意味することが多いです。

ここ日本では、2023年末、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)において、新たなムーンショット目標が決定され、今年2024年2月14日に文部科学省により策定された「ムーンショット型研究開発制度」のプロジェクトの1つに盛り込まれることで、注目を集めるようになりました。

同開発制度において、最初の目標の1つとなっているのが「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」することです。この目標には「誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター 基盤」の制定が具体的な目標として掲げられています(詳しくはこちらのサイトをご覧ください)。

ここで扱われているサイバネティック・アバターとは、身代わりとしてのロボットや3D映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念を意味します。

このように、これからの社会において「アバター」を意識すること、自分自身のアバター、コミュニケーションを取る相手のアバターなど、アバターの存在の意義が高まってきています。

手軽に自分だけのアバターを作れるサービス「VRoid Studio」

こうした背景から、最近では、まずはメタバースを含めたインターネット空間で利用できるアバターそのものを作るためのサービスやツールが登場し、注目を集めています。

今回紹介する「VRoid Studio」もその1つです。

VRoid Studioはピクシブ株式会社が開発・提供する3Dモデリングツールで、この10月でリリースから3周年を迎えます。使いやすさはもちろんのこと、Windows版macOS版iPad版Steam版と、多くの環境で利用できるのが特徴です。

さらに無料で提供されているため、今、定番のアバター制作ツールとして多くのユーザに利用されています。

人間の素体や顔・髪型など各パーツのプリセットがあらかじめ用意されているため、人型の3Dモデルがかんたんに作れます。さらに豊富なパラメータや自由な髪型制作、テクスチャ編集などカスタマイズ機能も充実しているため、自分だけのアバターを作るのにぴったりと言えるでしょう。

2024年8月、このVRoid Studioにフォーカスを当てた解説書『VRoid Studioの表現を広げる 3Dアバターメイキング講座』が発売されました。

『VRoid Studioの表現を広げる 3Dアバターメイキング講座』では、VRoid Studioを使用したアバター制作の工程を紹介します。

VRoid Studioのサイト

VRoid Studioを使ってみよう

VRoid Studioを初めて使う方は、まずはアプリをインストールし、プリセットをいろいろと試してみることをおすすめします。顔、髪型それぞれ100種類以上のプリセットが入っているため、着せ替えをするだけでも魅力的なアバターが作れます。BOOTHなどでのユーザーによるパーツの売買も活発です。

今回は実際に本書の担当編集がアバターを制作してみました。

まずはアバターのデザインを考えます。書籍内ではデザインをする際のコツも紹介しており、「初心者はメインとなる色を2色で考えるのがオススメ」とのことなので、紫とゴールドをメイン、ベースを黒としてデザインしました。

デザインができたら、さっそくVRoid Studioを起動します。書籍でも紹介している「PureRef」などの、画面前面に画像を固定して表示できるアプリを使うと便利です。

アバターデザイン

顔の作り方はまるでコスプレメイク?

書籍に沿って、顔のパラメータ調整から始めます。目、鼻、頬、あごなど各パーツに複数のパラメータがあり、種類が豊富なので、パラメータ調整だけでかなり印象を変えられます。半面どのパラメータを動かすとどう変化するのかを把握するのが大変なのですが、書籍では、250体以上のアバターをVRoid Studioで制作してきた著者が試行錯誤して見つけたコツを紹介しています。より使いこなしてみたい方はぜひ参考にしてみてください。

『VRoid Studioの表現を広げる 3Dアバターメイキング講座』での解説例

ある程度形を整えたら、肌や目のテクスチャを編集してみます。3Dモデルというとシェーダーの処理で陰影を作るという先入観があったのですが、本書の原稿を読み「陰影ってこんなにテクスチャで描きこんでいいのか!」と知ったのが驚きポイント①でした。眉の下や目と耳の間に影を描きこむなど、顔のテクスチャワークは舞台メイクやコスプレメイクと少し似ているかもしれません。

担当編集はペイントソフトであるCLIP STUDIO PAINT(以下クリスタ)でのイラスト制作に慣れていたため、瞳やアイシャドウはクリスタで塗りました(今回の記事ではクリスタについては割愛しますが、『今日からはじめる CLIP STUDIO PAINT イラスト入門[PRO/EX/iPad対応版]』(技術評論社刊)なども併せて参考にしてみてください)。

VRoid Studioでも「乗算」「スクリーン」など充実したレイヤー効果が使えるのですが、「加算(発光)」など多くのペイントソフトには搭載されているもののVRoid Studioには無い効果もあります。ブラシの種類も限られているため、デジタルイラストを描き慣れている人は、パーツによっては普段使用しているペイントソフトで描いてからインポートする手順を試してみると良いかもしれません。この手順は書籍内でも紹介しています。

VRoid Studioキャプチャ・顔

重ね着機能とテクスチャ編集で服も自在にカスタマイズ

続いて服です。今回のデザインは外套とインナーから構成されます。

インナーの襟は、本書サンプルモデルであるHAINAちゃんのジャケットの襟を参考にしました。襟と胴パーツを別の型紙にすることで、1枚の型紙に模様として襟を描くよりも立体感が出ます。「服のパラメータ調整だけじゃなく、こんなに大胆にテクスチャを消して服の形を作っていいのか!」というのが驚きポイント②でした。

『VRoid Studioの表現を広げる 3Dアバターメイキング講座』での解説例

本書のメイキングと同様、「ラフで全パーツのおおまかな形をとる→清書していく」という流れで制作しています。外套の金箔風模様など、ブラシやテクスチャ素材の力を借りたい部分はクリスタで塗りました。

服から肌への落ち影、外套の裏地などなど、本書で紹介しているテクニックをいくつも使っています。「やりたいことをVRoid Studioで実現する方法」はもちろんですが、それ以前の「こうすればクオリティの高いアバターに見える」という知識が詰まっているのも本書の魅力です。

VRoid Studioキャプチャ・服

髪の毛機能で自由な髪型も、アクセサリーも作れます

最後に、髪型と頭部のアクセサリーを作ります。

髪型の制作は、「髪の毛を描く→位置や長さを調整する→ちょうど良いマテリアルがなければ新たにテクスチャを描く」という作業を1本1本繰り返していくため、根気を必要とする作業です。今回のデザインラフでは細かい毛束や質感までは描きこんでいないため、VRoid Studio上で制作しながら調整しました。

ツノも髪の毛で制作し、リボンは書籍内の「紐リボンの作り方」を参考にしています。

VRoid Studioキャプチャ・髪型

髪型の形ができたら揺れ物を設定します。ショートヘアなので髪の毛は全体的に固定点を毛先の方に設定し、揺れすぎないようにします。代わりにリボンのひもが大きく揺れるようにしました。リボンのわっか部分は、本書で紹介している透明ヘアーのテクニックを使って揺らします。

これでアバターの完成です。VRMファイルを書き出し、トラッキングアプリに読み込めば、Webカメラで動かすこともできました。著者オススメのトラッキングアプリは書籍内でも紹介しています。

トラッキングアプリキャプチャ

自分だけのアバターを作ってみよう!

いかがでしたか?

今回記事を執筆した担当編集は2018年のベータ版リリース時にVRoid Studioのことを知り、少し使用した経験がありました。当時からはVRoid Studioの機能も増え、また本書の著者であるLUCASさんをはじめ多くのユーザーが活用術を開拓していったおかげで、できることの幅が大きく広がっているのが実感できます。今回制作したアバターのデザインも、以前なら「VRoid Studioでは再現できないだろう」と諦めていたかもしれません。

「アバターって作るの難しいんでしょ?」、そう思った方はまずこの記事をご覧いただき、さらに興味が深まった方は書籍を読みながら、自分自身のアバターを作ってみてはいかがでしょうか。

VRoid Studioを使って自分の姿を再現したアバターを作ってみるのも良いですし、思いきって現実とはまったく違う、なりたい姿を目指してみるのもおすすめです。

(企画・編集:技評マーケティング室)

※この記事は2024年9月27日に「gihyo.jp」で公開された記事の転載です。


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