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日本の分断 切り離される非大卒若者たち

どうも、犬井です。

今回紹介する本は吉川徹先生の「日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち」(2018)です。タイトルの通り、本書の中で大卒と非大卒という「学歴」で大きな分断があることを指摘しています。さらに、そこに「生年世代」「男女のジェンダー」の補助線を加えることで、より緻密に分断の様相を書き出しています。各境界の差異を中心に書き綴っていきたいと思います。

日本社会の分断

仕事や年収、雇用先の状態や家族の形態などの「ステイタス」、つまり「社会的地位」が、流動化が進んだ現代社会ではむしろ「ステイト」、つまり「状態」と呼ぶべき移ろいやすい性質を帯び始めている

その中でも変わらないが故に、私たちを社会に結びつける働きが強い固有の属性がある。それが「生年世代」「男女のジャンダー」「学歴」である。これらの属性における差異が社会の分断を招いている。

ここで使う「分断」とは、
境界の顕在性(=集団を分ける境界が客観的に存在している)」
成員の固定性(=集団間の移動が困難)」
集団間関係の隔絶(=集団間の交流が希薄)」
分配の不均等(=各集団の有利不利が明確)」
の4つの点を指す。

つまり、今の日本社会は、社会に顕在するアイデンティティ境界に基づいて、相互交流の少ない人々の間で、不平等が固定する構造に変容し始めている。

境界の引き方

ジェンダーの境界は男女間で引くことができるが、生年世代と学歴はどこで境界を引くかを考える必要がある。

まず、生年世代における境界線をどこに引くかであるが、ここでは2015年時点の現役世代(20代から50代)を真ん中の40歳で、上下20年生ずつに切り分ける。つまり1974年以前の生まれ(壮年層)か、1975年以降の生まれ(若年層)かで二分する。

ここで二分する最大のメリットは、団塊ジュニア以上の生年世代と、その下の生年世代を切り分ける切れ目が適切だからである。また、単純にわかりやすいということもある。

現役世代を二分して考えることはいつの時代でも可能で、日本社会は主力メンバーの壮年層と若年層が、二人三脚でリレーのバトンのように、世代から世代へ順次受け渡されてきた

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次に、学歴の境界であるが、ここでは大卒と非大卒で切り分ける。いわゆる大学銘柄が持つ「ブランド力(=学校歴)」には注目しない。大学卒業という最終学歴を履歴書に書きさえすれば、どんな大学であろうと、採用枠や待遇面で、非大卒層に対して競り勝ちやすくなる。

大卒と非大卒の上昇を遮断している学歴分断線の方が、上位半数のための繊細な地位上昇ステップである学校歴よりも、重要性が高い

「8人」のレギュラーメンバーの人生と生活

以上、壮年と若年、男性と女性、大卒と非大卒の切り分けを組み合わせると、8つの類型に分けられる。

それぞれを「若年非大卒男性(676万人)」「若年非大卒女性(652万人)」「若年大卒男性(711万人)」「若年大卒女性(682万人)」「壮年非大卒男性(1011万人)」「壮年非大卒女性(1062万人)」「壮年大卒男性(649万人)」「壮年大卒女性(582万人)」という「8人」に見立てて考える。

【壮年大卒男性】
・「8人」の中で社会経済的地位について「一人勝ち」の状態
・多くがホワイトカラー正規職としてキャリアを積む
・半数が同じ勤め先で働き続け、離職経験がない
・家事・育児よりは仕事に注力した結果、多くが昇進を果たし、職業威信が高い
・個人年収では他を大きく引き離し、世帯にも経済的余裕がある
・8割以上が結婚をして家族を持ち、約7割は親よりも高い学歴に至った

以上の点で、男性優位、年功序列、大卒学歴至上主義、そして産業化による構造的な地位上昇という、20世紀の人生の「勝ちパターン」の恩恵に与った。

【壮年非大卒男性】
・「8人」の中では2番目のボリューム層
・ブルーカラー職従事者がかなり多い
・正規職もしくは自営・経営者が多く、個人年収も比較的多い
・生活の安定による、7割という有配偶率
・全国平均を上回る1.62人という子供の数の基盤
・「8人」の中で一番長く日本社会を支え、それ相応の地位を得ている
・世帯の経済的な豊かさは下の世代の大卒層と同程度で、職業威信も低い水準

親世代からの生い立ちを顧みると、非大卒再生産が大半を占めており、彼らの一部が、壮年非大卒女性とともに、大卒層の数が少ない地方のコミュニティを支えることに力を発揮している。

【壮年大卒女性】
・労働時間が少ない割に、世帯年収が多い
・雇用均等法以後の世代ではあるが、専業主婦の比率は20%を超える
・同世代の非大卒女性と比べると、ホワイトカラー比率が高く、正規雇用も多く、職業威信も個人年収も上回る
・8割が既婚者で、夫の7割が大卒が世帯の豊かさと安定に起因
・標準的な子供の数は1人〜2人と比較的多い
・子供が学齢期以後の、手はかからないが教育費のかかる年齢に達している
・多くがM字型雇用の後半の再就業のライフステージに位置

総合的に見ると、キャリア女性、主婦、母親、余暇活動や社会的活動の積極メンバーなど、多様な生き方を選択できる時間と経済力を持ち、ひとたび履歴書を書けば、他のセグメントの人々に競り負けにくい。

【壮年非大卒女性】
・現役世代の中で最も人口が多い
・4人に1人が専業主婦
・働いている人でも、労働時間が短めの非正規就業が多く、個人年収は多くない
・未婚率が7%と大変少なく、世帯の豊かさではまずまずの水準
・夫は7割が非大卒、3割が大卒
・両親の半数が義務教育卒、4割が高卒相当で非大卒再生産の出自

彼女らの受け持つ社会的役割は、柔軟な働き方で国内の幅広い労働力需要の調整に役立ち、多くの子供を産み育てて、地方社会を支えていることである。ここでは、必ずしも条件の良くない社会的地位に、彼女たちを封じ込めてしまっているかもしれないことを考慮しなければならないが、何人にも変えられない特有の役割を担ってもらっている意義は深い。

【若年大卒女性】
・職業キャリアや家族形成の過渡期
・4人に1人が無職で、仕事を休んで家庭に入る人が多い
・有職者は、多くが威信が高いホワイトカラー職に就き、就労時間も長い
・同世代の大卒男性と肩を並べる働きで、3人に1人は勤務先を変えない
・個人年収は高くはないが、6割は結婚し、配偶者は7割で世帯的には比較的豊か
・現時点での子供の数は0.91人で同世代の非大卒女性や上の世代と比べると少ない

彼女たちの半数以上が大卒家庭をバックグラウンドとしており、地方移住者が少なく、逆に都市部では彼女たちが最多数派の「若者」となっている。

【若年非大卒女性】
・個人年収は「8人」の中で最も少ない140.2万円
・労働時間が短く、世帯年収も低く、何かのきっかけで貧困に陥りかねない
・有職者の半数がホワイトカラーで半数がブルーカラー
・7割が既婚しているがそのうち1割は離別
・パートナーの多くが社会経済的な不利な若年非大卒男性
・若年層の中では飛び抜けて子供が多い

彼女たちが日本の少子化を遅らせる重要な働きを一手に担っており、他の「7人」は、他人事と思わず、彼女たちの生活基盤の安定と水準の向上について、直接的、間接的サポートをする心構えを持つ必要がある。

【若年大卒男性】
・若年層の中で最も個人年収が多い
・非正規雇用が少なく、ホワイトカラー職も多く、その半数が専門職に就く
・職業威信は全体で2番目に高い
・壮年大卒男性と比べると収入、雇用、職業威信で大きく水をあけられている
・半数以上が、離職権を持つ流動性の高さ
・半数が未婚で、子供の数が0.84人と最も少ない
・半数以上が大卒家庭出身で、居住地は都市部に集中している

彼らの親密な絆の少なさを、自由を謳歌しているとみるのか、寂しい状態にあるとみるかは難しいが、若年といえど6割は30歳を過ぎてるので、未婚率の高さは気になるとこではある。

【若年非大卒男性】
・生い立ちは、両親の8割以上が高卒または義務教育卒
・働き盛りであるにもかかわらず、5人に1人が非正規・無職
・離職経験者は63.2%で、3度以上離職経験があるのは24.0%
・3ヶ月以上の失業・職探し経験者は34.0%
・総合して平均職業威信は、他の男性より有意に低く、同世代の女性と同水準
・個人年収は「先輩」の壮年非大卒層より150万円近く低い300万円代前半

「8人」の中で最も不利な状況にありながら、最も長く労働市場に居続けなければならない。

以上の通り、現役世代の内部には、壮年大卒男性を最上位に、若年非大卒男性を最下位としたコントラストが見出される。

レッグス(LEGs)

日本の現役世代の「8人」のメンバーの中でも「若年非大卒男性」が総じて不利な暮らしを強いられている。また、彼らはそうした暮らしにあるにもかかわらず、活気と意欲に欠け、状況の不利を訴えることがない。その結果、現代日本の分断は「若年非大卒男性」と「それ以外」で分断が起きている

しかし、彼らが能力が低く、怠け者であることは決してない。労働時間は他の男性と同程度であり、OECD諸国と比較しても高い教育レベルにある。そうした彼らを「低学歴」と呼ぶのはふさわしくない。

そこで、私は彼らを「軽学歴の男たち」という意味合いを込めて、LEGs(=Lightly Educated Guys)と呼ぶことにしたい。この言葉のポイントは、学費と教育年数のかかる大学教育を受けずに社会に出た、彼らの軽やかな人生選択を、「さも当たり前だ」と前向きに考えようということにある。またLEGsには日本社会を下支えするレッグス(脚)という含みも込められている。

思えば高度経済成長期以来、日本の国際的な強みは、大卒層が多いことでも、上層エリートの質が高いことではない。国際的な評価を勝ち得たのは、質の高い非大卒者が上げてきた地道な「手柄」ばかりである

その手柄は現代日本のレッグスたちも受け継ぐ実直な努力主義の信念によってもたらされている。レッグスたちは、不利な社会経済的地位に置かれながらも、自分にはどうしようもない社会の仕組みによって格差が生じていると認識せず、自分の努力によって、この先の人生で大きな資産を得ることができるというエートスを「8人」の中で誰よりも持っている

彼らに安定をもたらすような政策、そして「他のメンバー」の支えが今、求められている。

あとがき

かねてより社会の分断の問題や、一極集中の問題について関心があったので、吉川氏の主張は我が意を得たりと思わずにいられませんでした。本中でも指摘されていたことですが、LEGsが持て余し気味の状態にあるのは日本がモノを作らなくなったことにあります。企業の製造拠点の海外移転、外国人労働者、女性人材をめぐる政策変更、生産技術革新といった変化もLEGsを追い詰める原因となっています。そのバックグラウンドには新自由主義やグローバリズムの問題もあるのでしょう。

分断の構造の輪郭を掴むことのできる、大変優れた著作でした。

では。

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